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第5話

閑話 どうぶつクッキー2

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 マカルが今度は先ほど一回り大きめの四角い箱を出すと、そこにはおとなの動物クラッカーと書かれており、そこには先程とは違い、リアルなタッチの動物の絵が描かれていた。

「陛下にはこちらがお気に召すかと思います。セナリアンが子どものついでに大人にも買わせようと、商売魂を出しまして。塩味のプレーンと、もう一つはブラックペッパー味です。お酒に合いますぞ」

 陛下が開けるとそこには先程とは打って変わって、毛の流れも感じるリアルな動物の形をしたクラッカーが入っていた。サイズは子ども用とは違い、大人の口に合わせたものである。

「これもセナリアンが?」
「はい、実はこちらの方が得意なようでして、難しかったのは子ども向けの方だったと言っておりました」

 セナリアンは本物や、精巧な図鑑のような絵の方が得意で、愛らしい子ども向けの方が描くのに難しく、ルシュベルが監督となって、丸みを帯びた可愛らしい顔を作り上げたのだ。

 陛下は様々な角度から素晴らしいな、リアルだなと、まじまじと見ているとあることに気付いた。

「こ、これは、紋章か!」
「そうでございます、紋章にはなっていない動物もおりますが、自分の紋章の動物がいたら嬉しくなりませんか」
「ああ、なるなっ!」
「動物でございますので、咎められることにもなりませんでしょう?」
「ああ、問題ない。マリアンヌ、馬があるぞ!お義父上が喜ぶのではないか」
「まあまあ、お父様にお渡ししたら喜びますわ。でも食べたら怒るかしら?」

 マリアンヌの生家のカロノ侯爵家の紋章は馬で、父は馬をこよなく愛している。愛馬は長女マリアンヌと長男トレーノを合わせてマリレーノという。

「馬は食べないかもしれんな。でも贈ってやるといい。これもセナリアンの案か?」
「はい、大人と動物と言えば、紋章でしょうと」
「子どもらしいと言えばそうだが、そうではない才能を感じるな」
「ええ、私も妻もこんな息子が欲しかったんだなと気付いてしまいました」

 そうなのである。孫三人はもちろん可愛い、愛すべき存在である。でも息子にがこうであったらと思ってしまったのはセナリアン。皆そう思ってしまうのも無理はない存在なのだが、この夫妻にとっては息子との落差があり過ぎた。

「あ、それはご愁傷さまではあるが…こ、これも当たりがあるのか?」
「はい!こちらは大きめですので三つであります。ただですね…私も始めは反対したのですが、セナリアンがお父さまっぽくしようと言い出しましてね」
「ミミスに?」
「あなた、あったわ!これでしょう?」

 赤みを帯びた色をしているタヌキが見付かったが、どうも目が半分しか開いておらず、非常に眠そうな顔をしている。

「ぷっ」「ふふふ」

 クーリットも覗き込んで、咳ばらいをしながら手を口元に当てている。

 
 なぜ、こんなにも笑われているのか。それはセナリアンが幼児の頃まで時は戻る。

 第二子が予定より早く産まれたと聞いて、領地から急いでやって来た祖父母であるマカルとニアーノ。セナリアンをなんて可愛いのだとあやしていると、もじもじする息子・ミミスに声を掛けられた。

「父上、母上、大事な話があるんだ」
「何だと!」「お前また何かやったのか、何をした?早く言え」

 最初がマカル、次がニアーノが告げた言葉である。あからさまに息子への信頼のない両親である。どちらかが優しくフォローするという段階をこの二人はミミスのせいで既にもう飛び越えている。おかげで二人とも穏やかな性格だったのが、すっかり様変わりしてしまったのだ。

 ミミスは大人しく、悪事に加担することもなく、頭も悪くないのだが、本を読んだまま声を掛けても反応しない、眠ったまま起きないという連絡を貰って引き取りに行ったことは数えきれない。

 説教をしても全く響かず、二人は謝り続け、ついには“この度はミミスがご迷惑をお掛けしました”と書かれた、通称ミミス菓子と呼ばれるクッキーと焼き菓子の詰め合わせを開発してしまったほどである。

 この菓子はルージエ邸に常備され、出番がない時は邸で働く使用人たちに配られていた逸品で、使用人たちも苦労を一番見ているので、食べながらようございましたと泣く者もいたほどである。

 少し成長すると謝る機会は減り、安心していたが、酒を飲むようになると、弱いのに酒好きという面倒な質で、絡んだり、暴れたりすることはないが、眠くなるので、そのまま寝てしまうことが発覚したのだ。気を付けるように再び説教をすることになるが、たまたま通り掛ったというご近所の方に、道端にお宅の息子が落ちていたと担がれて帰って来た日には、血管が切れるかと思った。

 外では酒を飲むことを禁止すると、今度は廊下で寝ているのはまだいい方で、庭で寝ていることもあり、なぜなんだと頭を抱えた。マカルは騎士だったこともあり、息子を担げるが、マカルがいない時は使用人が息子を運ぶことになり、執事は筋肉ムキムキに変貌したほどである。

 使用人の「坊ちゃまが~!!」の声を聞く度にほとほと嫌になり、私たちは息子を回収するために生きているのではないかとすら、本気で思った時期もある。
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