27 / 228
第5話
閑話 どうぶつクッキー2
しおりを挟む
マカルが今度は先ほど一回り大きめの四角い箱を出すと、そこにはおとなの動物クラッカーと書かれており、そこには先程とは違い、リアルなタッチの動物の絵が描かれていた。
「陛下にはこちらがお気に召すかと思います。セナリアンが子どものついでに大人にも買わせようと、商売魂を出しまして。塩味のプレーンと、もう一つはブラックペッパー味です。お酒に合いますぞ」
陛下が開けるとそこには先程とは打って変わって、毛の流れも感じるリアルな動物の形をしたクラッカーが入っていた。サイズは子ども用とは違い、大人の口に合わせたものである。
「これもセナリアンが?」
「はい、実はこちらの方が得意なようでして、難しかったのは子ども向けの方だったと言っておりました」
セナリアンは本物や、精巧な図鑑のような絵の方が得意で、愛らしい子ども向けの方が描くのに難しく、ルシュベルが監督となって、丸みを帯びた可愛らしい顔を作り上げたのだ。
陛下は様々な角度から素晴らしいな、リアルだなと、まじまじと見ているとあることに気付いた。
「こ、これは、紋章か!」
「そうでございます、紋章にはなっていない動物もおりますが、自分の紋章の動物がいたら嬉しくなりませんか」
「ああ、なるなっ!」
「動物でございますので、咎められることにもなりませんでしょう?」
「ああ、問題ない。マリアンヌ、馬があるぞ!お義父上が喜ぶのではないか」
「まあまあ、お父様にお渡ししたら喜びますわ。でも食べたら怒るかしら?」
マリアンヌの生家のカロノ侯爵家の紋章は馬で、父は馬をこよなく愛している。愛馬は長女マリアンヌと長男トレーノを合わせてマリレーノという。
「馬は食べないかもしれんな。でも贈ってやるといい。これもセナリアンの案か?」
「はい、大人と動物と言えば、紋章でしょうと」
「子どもらしいと言えばそうだが、そうではない才能を感じるな」
「ええ、私も妻もこんな息子が欲しかったんだなと気付いてしまいました」
そうなのである。孫三人はもちろん可愛い、愛すべき存在である。でも息子にがこうであったらと思ってしまったのはセナリアン。皆そう思ってしまうのも無理はない存在なのだが、この夫妻にとっては息子との落差があり過ぎた。
「あ、それはご愁傷さまではあるが…こ、これも当たりがあるのか?」
「はい!こちらは大きめですので三つであります。ただですね…私も始めは反対したのですが、セナリアンがお父さまっぽくしようと言い出しましてね」
「ミミスに?」
「あなた、あったわ!これでしょう?」
赤みを帯びた色をしているタヌキが見付かったが、どうも目が半分しか開いておらず、非常に眠そうな顔をしている。
「ぷっ」「ふふふ」
クーリットも覗き込んで、咳ばらいをしながら手を口元に当てている。
なぜ、こんなにも笑われているのか。それはセナリアンが幼児の頃まで時は戻る。
第二子が予定より早く産まれたと聞いて、領地から急いでやって来た祖父母であるマカルとニアーノ。セナリアンをなんて可愛いのだとあやしていると、もじもじする息子・ミミスに声を掛けられた。
「父上、母上、大事な話があるんだ」
「何だと!」「お前また何かやったのか、何をした?早く言え」
最初がマカル、次がニアーノが告げた言葉である。あからさまに息子への信頼のない両親である。どちらかが優しくフォローするという段階をこの二人はミミスのせいで既にもう飛び越えている。おかげで二人とも穏やかな性格だったのが、すっかり様変わりしてしまったのだ。
ミミスは大人しく、悪事に加担することもなく、頭も悪くないのだが、本を読んだまま声を掛けても反応しない、眠ったまま起きないという連絡を貰って引き取りに行ったことは数えきれない。
説教をしても全く響かず、二人は謝り続け、ついには“この度はミミスがご迷惑をお掛けしました”と書かれた、通称ミミス菓子と呼ばれるクッキーと焼き菓子の詰め合わせを開発してしまったほどである。
この菓子はルージエ邸に常備され、出番がない時は邸で働く使用人たちに配られていた逸品で、使用人たちも苦労を一番見ているので、食べながらようございましたと泣く者もいたほどである。
少し成長すると謝る機会は減り、安心していたが、酒を飲むようになると、弱いのに酒好きという面倒な質で、絡んだり、暴れたりすることはないが、眠くなるので、そのまま寝てしまうことが発覚したのだ。気を付けるように再び説教をすることになるが、たまたま通り掛ったというご近所の方に、道端にお宅の息子が落ちていたと担がれて帰って来た日には、血管が切れるかと思った。
外では酒を飲むことを禁止すると、今度は廊下で寝ているのはまだいい方で、庭で寝ていることもあり、なぜなんだと頭を抱えた。マカルは騎士だったこともあり、息子を担げるが、マカルがいない時は使用人が息子を運ぶことになり、執事は筋肉ムキムキに変貌したほどである。
使用人の「坊ちゃまが~!!」の声を聞く度にほとほと嫌になり、私たちは息子を回収するために生きているのではないかとすら、本気で思った時期もある。
「陛下にはこちらがお気に召すかと思います。セナリアンが子どものついでに大人にも買わせようと、商売魂を出しまして。塩味のプレーンと、もう一つはブラックペッパー味です。お酒に合いますぞ」
陛下が開けるとそこには先程とは打って変わって、毛の流れも感じるリアルな動物の形をしたクラッカーが入っていた。サイズは子ども用とは違い、大人の口に合わせたものである。
「これもセナリアンが?」
「はい、実はこちらの方が得意なようでして、難しかったのは子ども向けの方だったと言っておりました」
セナリアンは本物や、精巧な図鑑のような絵の方が得意で、愛らしい子ども向けの方が描くのに難しく、ルシュベルが監督となって、丸みを帯びた可愛らしい顔を作り上げたのだ。
陛下は様々な角度から素晴らしいな、リアルだなと、まじまじと見ているとあることに気付いた。
「こ、これは、紋章か!」
「そうでございます、紋章にはなっていない動物もおりますが、自分の紋章の動物がいたら嬉しくなりませんか」
「ああ、なるなっ!」
「動物でございますので、咎められることにもなりませんでしょう?」
「ああ、問題ない。マリアンヌ、馬があるぞ!お義父上が喜ぶのではないか」
「まあまあ、お父様にお渡ししたら喜びますわ。でも食べたら怒るかしら?」
マリアンヌの生家のカロノ侯爵家の紋章は馬で、父は馬をこよなく愛している。愛馬は長女マリアンヌと長男トレーノを合わせてマリレーノという。
「馬は食べないかもしれんな。でも贈ってやるといい。これもセナリアンの案か?」
「はい、大人と動物と言えば、紋章でしょうと」
「子どもらしいと言えばそうだが、そうではない才能を感じるな」
「ええ、私も妻もこんな息子が欲しかったんだなと気付いてしまいました」
そうなのである。孫三人はもちろん可愛い、愛すべき存在である。でも息子にがこうであったらと思ってしまったのはセナリアン。皆そう思ってしまうのも無理はない存在なのだが、この夫妻にとっては息子との落差があり過ぎた。
「あ、それはご愁傷さまではあるが…こ、これも当たりがあるのか?」
「はい!こちらは大きめですので三つであります。ただですね…私も始めは反対したのですが、セナリアンがお父さまっぽくしようと言い出しましてね」
「ミミスに?」
「あなた、あったわ!これでしょう?」
赤みを帯びた色をしているタヌキが見付かったが、どうも目が半分しか開いておらず、非常に眠そうな顔をしている。
「ぷっ」「ふふふ」
クーリットも覗き込んで、咳ばらいをしながら手を口元に当てている。
なぜ、こんなにも笑われているのか。それはセナリアンが幼児の頃まで時は戻る。
第二子が予定より早く産まれたと聞いて、領地から急いでやって来た祖父母であるマカルとニアーノ。セナリアンをなんて可愛いのだとあやしていると、もじもじする息子・ミミスに声を掛けられた。
「父上、母上、大事な話があるんだ」
「何だと!」「お前また何かやったのか、何をした?早く言え」
最初がマカル、次がニアーノが告げた言葉である。あからさまに息子への信頼のない両親である。どちらかが優しくフォローするという段階をこの二人はミミスのせいで既にもう飛び越えている。おかげで二人とも穏やかな性格だったのが、すっかり様変わりしてしまったのだ。
ミミスは大人しく、悪事に加担することもなく、頭も悪くないのだが、本を読んだまま声を掛けても反応しない、眠ったまま起きないという連絡を貰って引き取りに行ったことは数えきれない。
説教をしても全く響かず、二人は謝り続け、ついには“この度はミミスがご迷惑をお掛けしました”と書かれた、通称ミミス菓子と呼ばれるクッキーと焼き菓子の詰め合わせを開発してしまったほどである。
この菓子はルージエ邸に常備され、出番がない時は邸で働く使用人たちに配られていた逸品で、使用人たちも苦労を一番見ているので、食べながらようございましたと泣く者もいたほどである。
少し成長すると謝る機会は減り、安心していたが、酒を飲むようになると、弱いのに酒好きという面倒な質で、絡んだり、暴れたりすることはないが、眠くなるので、そのまま寝てしまうことが発覚したのだ。気を付けるように再び説教をすることになるが、たまたま通り掛ったというご近所の方に、道端にお宅の息子が落ちていたと担がれて帰って来た日には、血管が切れるかと思った。
外では酒を飲むことを禁止すると、今度は廊下で寝ているのはまだいい方で、庭で寝ていることもあり、なぜなんだと頭を抱えた。マカルは騎士だったこともあり、息子を担げるが、マカルがいない時は使用人が息子を運ぶことになり、執事は筋肉ムキムキに変貌したほどである。
使用人の「坊ちゃまが~!!」の声を聞く度にほとほと嫌になり、私たちは息子を回収するために生きているのではないかとすら、本気で思った時期もある。
305
お気に入りに追加
1,518
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。
salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。
6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。
*なろう・pixivにも掲載しています。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる