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第6話
招かれざる聖女4
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「もし封じなかったら掛かるのか?」
「どうかしら?大した力では無かったから、好意を持てば多少はあるかもしれない程度ですかね?殿下は掛かりませんよ?」
セナリアンは自分の耳に指を当てて、ポンポンと叩く仕草をした。
「ん?なんだ?」
「殿下は見えないピアスをしてるんですよ、確か私が七歳くらいだったので、九歳くらいの時からですかね。王家の方々と、私の周りの人間はほとんど。外れない、見えないですけどね?お姉様も元々付けさせていたので、王太子妃に付ける予定だったんですけどねぇ」
「はああぁ~確かに父上が言っていた、変な術にもかからないだろうと」
「ええ、精神系と解毒作用があります。病気や刺されたら防げませんけど」
精神を操られたり、薬物を使われたら面倒だからという理由で、セナリアンはまずは親族、そして王家は既に付与された魔道具を付けていたのだが、念のために付けさせたのである。
「ではこの指輪は意味がない?」
「そんなことはありません、立派なものです。外さないで下さないね、作った方に失礼ですし、付けていないのに効果が出たら、なぜ?となりますからね」
「確かにそうだな。でも正直なところ、ピアスがなかったらどうだったんだ?」
「それでも指輪で掛からないでしょうね。クリミナは聖女に誇りを持って、崇めているけど、ヨバスに言わせると大した力を持った人は元々現れていないそうですよ。だからこそ、魅了を持っているのかもしれないという説があるそうです。エメラルダにもヨバスにもいませんからね」
「クリミナだから成り立っていると?」
「私自身は調べていませんけど、ヨバスもまだ聖女と呼ぶ人いるけど、エメラルダと同じように治癒師と神官に変えたでしょう?」
ヨバス王国は十年以上前に聖女・聖人から名を変えているため、呼ぶ者はいても聖女・聖人はもういない。
「でもクリミナは頑なに聖女と呼ぶことに固執していて、凄いんだと示したいのか、信じたいのか。あの聖女が標準だとするなら、一人で小さな村ですら結界も張れないでしょうね。国がそれを分かっているのか、いないのか」
「分かっていないのかもしれぬな」
クリミナ皇国は新しいことに鈍感で、伝統を重んじているため、保守的である。
「陛下に報告書と記録を送って置きますので、抗議でも何でもしてください」
「完璧過ぎて、言葉も出ないよ」
「さて、私は帰りますわ!ワイン造りに私だけが後れを取っているのですよ?」
「そ、そうだったな。マージナルには会って行かないのか」
「王都にいること知らないのに行くわけないでしょう?」
「会えば喜ぶと思うんだけど」
「残念でしたわね。あの聖女、殿下も気にしていたけど、マージナルを気に入ったみたいですよ?どれだけ変なの釣りあげるんだか。まあ、あの聖女はマージナルと魔力差があり過ぎます」
「ん?会ったか?ああ、食事の時か。そういえば、リリアンネもマージナルを見ていた顔が卑猥だったと言っていたな」
「卑猥って、お姉様らしからぬ表現ですね。余程、苛立っていたんでしょうね」
優しい笑顔で、常にとっとと帰れと対応していたリリアンネであった。
「マージナルは別人に変化させてもらった方が良いんじゃないか」
「売りなんだから可哀想じゃないですか。私だったらもう一人の側近の方が良いと思いますけど」
「カルバンか、ああいうのが良かったのか!って駄目だぞ、既婚者だ」
「知っておりますわよ、何でも受け止めてくれそうな雰囲気が良いのですよ?」
「マージナルだって、そうじゃないか?」
「あれはそうしないといけないからって、顔に書いてあるんですよ!うちの父と同じですわ」
義父上とマージナル、似ていないと思っていたが、そう言われるとそうかもしれないと思ったリスルートだった。
翌日、リスルートはカルバンをじっと見てしまっていた。強い特徴は無いが、騎士としても腕が立ち、人当たりが良く、聞き上手で、不快にさせることはない人物ではある。
「殿下どうかしましたか?何か付いてますか」
「いや、君の奥さんは君と結婚した理由を何か言っているか」
「どうしたんですか、急に」
「いや、知り合いの夫人がカルバンが好みだという話を聞いてだな」
「それは嬉しいですね」
「向こうも既婚者だし、ちゃんとカルバンも既婚者だと言ってあるからな」
「分かってますよ。妻は何でも受け入れてくれるところって言っていましたかね?」
リスルートは目を見開き、大いに咳き込んだ。
「大丈夫ですか」
「大丈夫だ、その夫人も同じことを言っていたよ」
「そうなんですか?そういう風に見えるんですかね?」
「私には分からぬが、そうなのかもしれないな」
マージナルには言うつもりは無いが、思わぬ伏兵が潜んでいたということか。既婚者で良かったと胸を撫で下した。これが未婚であったら、無理を通せば再婚も可能だったように思い、ゾッとした。マージナルは泣くか、決闘を挑むだろうが、セナリアンが参戦したら終わりだ。
「ご苦労だった」
リスルートは陛下にセナリアンから報告書が届き、呼び出されることとなった。
「実害はないだろうと言うことだったが、セナリアンがいたからと付くと思うがな。抗議を行うよ、リリアンネにもご苦労だったと伝えてくれ」
「はい、私は何もしていません。奇しくもルージエ姉妹と、大臣と神官と護衛の力です。あの聖女がマージナルを気に入ったというのは書かれておりましたか」
「ああ、やっぱりマージナルが厄介ごとを運んでいるのではないかと書かれておったよ。運び人と呼んでやろうかともな」
陛下はボスンと椅子のクッションにもたれ掛かって、溜息を付いた。
「どうかしら?大した力では無かったから、好意を持てば多少はあるかもしれない程度ですかね?殿下は掛かりませんよ?」
セナリアンは自分の耳に指を当てて、ポンポンと叩く仕草をした。
「ん?なんだ?」
「殿下は見えないピアスをしてるんですよ、確か私が七歳くらいだったので、九歳くらいの時からですかね。王家の方々と、私の周りの人間はほとんど。外れない、見えないですけどね?お姉様も元々付けさせていたので、王太子妃に付ける予定だったんですけどねぇ」
「はああぁ~確かに父上が言っていた、変な術にもかからないだろうと」
「ええ、精神系と解毒作用があります。病気や刺されたら防げませんけど」
精神を操られたり、薬物を使われたら面倒だからという理由で、セナリアンはまずは親族、そして王家は既に付与された魔道具を付けていたのだが、念のために付けさせたのである。
「ではこの指輪は意味がない?」
「そんなことはありません、立派なものです。外さないで下さないね、作った方に失礼ですし、付けていないのに効果が出たら、なぜ?となりますからね」
「確かにそうだな。でも正直なところ、ピアスがなかったらどうだったんだ?」
「それでも指輪で掛からないでしょうね。クリミナは聖女に誇りを持って、崇めているけど、ヨバスに言わせると大した力を持った人は元々現れていないそうですよ。だからこそ、魅了を持っているのかもしれないという説があるそうです。エメラルダにもヨバスにもいませんからね」
「クリミナだから成り立っていると?」
「私自身は調べていませんけど、ヨバスもまだ聖女と呼ぶ人いるけど、エメラルダと同じように治癒師と神官に変えたでしょう?」
ヨバス王国は十年以上前に聖女・聖人から名を変えているため、呼ぶ者はいても聖女・聖人はもういない。
「でもクリミナは頑なに聖女と呼ぶことに固執していて、凄いんだと示したいのか、信じたいのか。あの聖女が標準だとするなら、一人で小さな村ですら結界も張れないでしょうね。国がそれを分かっているのか、いないのか」
「分かっていないのかもしれぬな」
クリミナ皇国は新しいことに鈍感で、伝統を重んじているため、保守的である。
「陛下に報告書と記録を送って置きますので、抗議でも何でもしてください」
「完璧過ぎて、言葉も出ないよ」
「さて、私は帰りますわ!ワイン造りに私だけが後れを取っているのですよ?」
「そ、そうだったな。マージナルには会って行かないのか」
「王都にいること知らないのに行くわけないでしょう?」
「会えば喜ぶと思うんだけど」
「残念でしたわね。あの聖女、殿下も気にしていたけど、マージナルを気に入ったみたいですよ?どれだけ変なの釣りあげるんだか。まあ、あの聖女はマージナルと魔力差があり過ぎます」
「ん?会ったか?ああ、食事の時か。そういえば、リリアンネもマージナルを見ていた顔が卑猥だったと言っていたな」
「卑猥って、お姉様らしからぬ表現ですね。余程、苛立っていたんでしょうね」
優しい笑顔で、常にとっとと帰れと対応していたリリアンネであった。
「マージナルは別人に変化させてもらった方が良いんじゃないか」
「売りなんだから可哀想じゃないですか。私だったらもう一人の側近の方が良いと思いますけど」
「カルバンか、ああいうのが良かったのか!って駄目だぞ、既婚者だ」
「知っておりますわよ、何でも受け止めてくれそうな雰囲気が良いのですよ?」
「マージナルだって、そうじゃないか?」
「あれはそうしないといけないからって、顔に書いてあるんですよ!うちの父と同じですわ」
義父上とマージナル、似ていないと思っていたが、そう言われるとそうかもしれないと思ったリスルートだった。
翌日、リスルートはカルバンをじっと見てしまっていた。強い特徴は無いが、騎士としても腕が立ち、人当たりが良く、聞き上手で、不快にさせることはない人物ではある。
「殿下どうかしましたか?何か付いてますか」
「いや、君の奥さんは君と結婚した理由を何か言っているか」
「どうしたんですか、急に」
「いや、知り合いの夫人がカルバンが好みだという話を聞いてだな」
「それは嬉しいですね」
「向こうも既婚者だし、ちゃんとカルバンも既婚者だと言ってあるからな」
「分かってますよ。妻は何でも受け入れてくれるところって言っていましたかね?」
リスルートは目を見開き、大いに咳き込んだ。
「大丈夫ですか」
「大丈夫だ、その夫人も同じことを言っていたよ」
「そうなんですか?そういう風に見えるんですかね?」
「私には分からぬが、そうなのかもしれないな」
マージナルには言うつもりは無いが、思わぬ伏兵が潜んでいたということか。既婚者で良かったと胸を撫で下した。これが未婚であったら、無理を通せば再婚も可能だったように思い、ゾッとした。マージナルは泣くか、決闘を挑むだろうが、セナリアンが参戦したら終わりだ。
「ご苦労だった」
リスルートは陛下にセナリアンから報告書が届き、呼び出されることとなった。
「実害はないだろうと言うことだったが、セナリアンがいたからと付くと思うがな。抗議を行うよ、リリアンネにもご苦労だったと伝えてくれ」
「はい、私は何もしていません。奇しくもルージエ姉妹と、大臣と神官と護衛の力です。あの聖女がマージナルを気に入ったというのは書かれておりましたか」
「ああ、やっぱりマージナルが厄介ごとを運んでいるのではないかと書かれておったよ。運び人と呼んでやろうかともな」
陛下はボスンと椅子のクッションにもたれ掛かって、溜息を付いた。
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