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第6話
招かれざる聖女2
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部屋に戻って一人になったベラは先程の騎士で頭が一杯になっていた。
「美しかったわ、結婚しているようだけど、ここは母国じゃないものね。もっと早く出会いたかったわ。何で初日に会えなかったのかしら?そうすれば、護衛に指名したのにぃ。帰るのを止めるのは無理だろうし、明日は会えるかしら…」
顔のいい貴族や神官は母国にもいたが、霞んでしまうほどの美しさだった。聖女になったことで、子爵家の養女になり、最初はちやほやはされたが、年の近い高位貴族は既にほとんどが結婚しており、未婚となると五歳以上年下だった。
エメラルダ王国に来たのは、表向きは同じ島国で興味があると申し出たが、王太子も少し年下で結婚していたが、もしかしたらと王太子と聖女、物語のようなことが起こるかもと思ってやって来たのだ。
確かに王太子も格好良かったが、隙がなく、ちやほやしてもくれず、王太子妃も何だか怖かった。
ベラは現在二十三歳。二十歳を過ぎて聖女の力が開花することは珍しい。聖女である以上、略奪はイメージが悪いので、言い寄られたらまんざらでもないが、できれば避けるべきだろうとは思っていた。
最後に聖女というものを見せ付ければ、私の価値に気付いてしまうかもしれない。奥様を捨てちゃうかもと、妄想は捗り、わくわくした。自国であれば問題だが、王族ではなさそうだったし、他国であれば大丈夫なのではないか、聖女の肩書を持つ妻なんて最高だろうと自信を持った。
目に見えるものがいいだろうと、神官に枯れそうな花を手配するように頼んだ。そして目の前で聖女の力を見せようと意気込んでいた。初めて見る様に皆、驚くだろう、その花をあの騎士様に渡したら、きっと分かるわよねと考えながら、ベットの上でバタバタとはしゃいでいた。
聖女一行が帰る準備を始め、王太子夫妻、騎士が集まっていた。その中には昨日の方もおり、ベラは飛び跳ねたい気持ちだった。
「最後に御礼に聖女の力を見せたいと思います」
皆の動きが止まると同時に、騎士が構えを見せた。
「危険なことはしません、花を蘇らせて見せるだけです」
リスルートが手を上げて、騎士を制した。
「分かりました、どうぞお願いします」
萎れた花を神官が渡し、ベラは目を瞑り、手に取って祈りを込め始めた。きっとざわめきが起こると確信していたベラだったが、ぱっと目を開くと、花は萎れたままだった。皆、不思議そうに見たり、首を傾けている。
「おかしいわ、いつもなら」
もう一度、力を込めたが、結果は同じだった。
「国が違うと発動しないのかもしれませんね、お気持ちだけいただいておきます」
もう一度だけと力を込めると、花は変わらなかったが、花からゲコゲコと蛙が大量に飛び出して来た。蛙は皆をおちょくるようにぴょこぴょこと飛び回り、リリアンネはきゃあきゃあと暴れているほどだった。皆、捕まえようとしていたが、誰一人捕まえられない。神官も侍女も大慌てだったが、ベラにも大量の蛙が顔に引っ付いたり、頭に乗ったりして、何よこれと蛙を叩こうとしながら慌てるしかなかった。
遊びまわった蛙たちは気が済んだかのように消え去った。神官と侍女はぺこぺこと謝っていた。
「違うんです、蛙なんて初めてで」
「そうでしたか、国が違うと蛙になるのかもしれませんね。面白い別れの挨拶になりましたよ」
リスルートはにこりと笑い、ベラは再びぺこぺこと謝る神官に帰りましょうと手を引かれて、車に乗せられた。道中お気を付けてと皆、朗らかな顔で見送られて帰って行った。車の中でも祈りを続けていたが、花は蘇ることはなかった。
騎士や集まった者は何だったんだ?花でなく蛙が出るものなのか?偽物だったのか?でも蛙は出ないだろうと口々に言っていたが、どうしてなのかを知るのはリスルートのみだった。それより厄介事がやっと帰ってほっとした。
「美しかったわ、結婚しているようだけど、ここは母国じゃないものね。もっと早く出会いたかったわ。何で初日に会えなかったのかしら?そうすれば、護衛に指名したのにぃ。帰るのを止めるのは無理だろうし、明日は会えるかしら…」
顔のいい貴族や神官は母国にもいたが、霞んでしまうほどの美しさだった。聖女になったことで、子爵家の養女になり、最初はちやほやはされたが、年の近い高位貴族は既にほとんどが結婚しており、未婚となると五歳以上年下だった。
エメラルダ王国に来たのは、表向きは同じ島国で興味があると申し出たが、王太子も少し年下で結婚していたが、もしかしたらと王太子と聖女、物語のようなことが起こるかもと思ってやって来たのだ。
確かに王太子も格好良かったが、隙がなく、ちやほやしてもくれず、王太子妃も何だか怖かった。
ベラは現在二十三歳。二十歳を過ぎて聖女の力が開花することは珍しい。聖女である以上、略奪はイメージが悪いので、言い寄られたらまんざらでもないが、できれば避けるべきだろうとは思っていた。
最後に聖女というものを見せ付ければ、私の価値に気付いてしまうかもしれない。奥様を捨てちゃうかもと、妄想は捗り、わくわくした。自国であれば問題だが、王族ではなさそうだったし、他国であれば大丈夫なのではないか、聖女の肩書を持つ妻なんて最高だろうと自信を持った。
目に見えるものがいいだろうと、神官に枯れそうな花を手配するように頼んだ。そして目の前で聖女の力を見せようと意気込んでいた。初めて見る様に皆、驚くだろう、その花をあの騎士様に渡したら、きっと分かるわよねと考えながら、ベットの上でバタバタとはしゃいでいた。
聖女一行が帰る準備を始め、王太子夫妻、騎士が集まっていた。その中には昨日の方もおり、ベラは飛び跳ねたい気持ちだった。
「最後に御礼に聖女の力を見せたいと思います」
皆の動きが止まると同時に、騎士が構えを見せた。
「危険なことはしません、花を蘇らせて見せるだけです」
リスルートが手を上げて、騎士を制した。
「分かりました、どうぞお願いします」
萎れた花を神官が渡し、ベラは目を瞑り、手に取って祈りを込め始めた。きっとざわめきが起こると確信していたベラだったが、ぱっと目を開くと、花は萎れたままだった。皆、不思議そうに見たり、首を傾けている。
「おかしいわ、いつもなら」
もう一度、力を込めたが、結果は同じだった。
「国が違うと発動しないのかもしれませんね、お気持ちだけいただいておきます」
もう一度だけと力を込めると、花は変わらなかったが、花からゲコゲコと蛙が大量に飛び出して来た。蛙は皆をおちょくるようにぴょこぴょこと飛び回り、リリアンネはきゃあきゃあと暴れているほどだった。皆、捕まえようとしていたが、誰一人捕まえられない。神官も侍女も大慌てだったが、ベラにも大量の蛙が顔に引っ付いたり、頭に乗ったりして、何よこれと蛙を叩こうとしながら慌てるしかなかった。
遊びまわった蛙たちは気が済んだかのように消え去った。神官と侍女はぺこぺこと謝っていた。
「違うんです、蛙なんて初めてで」
「そうでしたか、国が違うと蛙になるのかもしれませんね。面白い別れの挨拶になりましたよ」
リスルートはにこりと笑い、ベラは再びぺこぺこと謝る神官に帰りましょうと手を引かれて、車に乗せられた。道中お気を付けてと皆、朗らかな顔で見送られて帰って行った。車の中でも祈りを続けていたが、花は蘇ることはなかった。
騎士や集まった者は何だったんだ?花でなく蛙が出るものなのか?偽物だったのか?でも蛙は出ないだろうと口々に言っていたが、どうしてなのかを知るのはリスルートのみだった。それより厄介事がやっと帰ってほっとした。
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