上 下
30 / 228
第6話

招かれざる聖女2

しおりを挟む
 部屋に戻って一人になったベラは先程の騎士で頭が一杯になっていた。

 「美しかったわ、結婚しているようだけど、ここは母国じゃないものね。もっと早く出会いたかったわ。何で初日に会えなかったのかしら?そうすれば、護衛に指名したのにぃ。帰るのを止めるのは無理だろうし、明日は会えるかしら…」

 顔のいい貴族や神官は母国にもいたが、霞んでしまうほどの美しさだった。聖女になったことで、子爵家の養女になり、最初はちやほやはされたが、年の近い高位貴族は既にほとんどが結婚しており、未婚となると五歳以上年下だった。

 エメラルダ王国に来たのは、表向きは同じ島国で興味があると申し出たが、王太子も少し年下で結婚していたが、もしかしたらと王太子と聖女、物語のようなことが起こるかもと思ってやって来たのだ。

 確かに王太子も格好良かったが、隙がなく、ちやほやしてもくれず、王太子妃も何だか怖かった。

 ベラは現在二十三歳。二十歳を過ぎて聖女の力が開花することは珍しい。聖女である以上、略奪はイメージが悪いので、言い寄られたらまんざらでもないが、できれば避けるべきだろうとは思っていた。

 最後に聖女というものを見せ付ければ、私の価値に気付いてしまうかもしれない。奥様を捨てちゃうかもと、妄想は捗り、わくわくした。自国であれば問題だが、王族ではなさそうだったし、他国であれば大丈夫なのではないか、聖女の肩書を持つ妻なんて最高だろうと自信を持った。

 目に見えるものがいいだろうと、神官に枯れそうな花を手配するように頼んだ。そして目の前で聖女の力を見せようと意気込んでいた。初めて見る様に皆、驚くだろう、その花をあの騎士様に渡したら、きっと分かるわよねと考えながら、ベットの上でバタバタとはしゃいでいた。

 聖女一行が帰る準備を始め、王太子夫妻、騎士が集まっていた。その中には昨日の方もおり、ベラは飛び跳ねたい気持ちだった。

「最後に御礼に聖女の力を見せたいと思います」

 皆の動きが止まると同時に、騎士が構えを見せた。

「危険なことはしません、花を蘇らせて見せるだけです」

 リスルートが手を上げて、騎士を制した。

「分かりました、どうぞお願いします」

 萎れた花を神官が渡し、ベラは目を瞑り、手に取って祈りを込め始めた。きっとざわめきが起こると確信していたベラだったが、ぱっと目を開くと、花は萎れたままだった。皆、不思議そうに見たり、首を傾けている。

「おかしいわ、いつもなら」

 もう一度、力を込めたが、結果は同じだった。

「国が違うと発動しないのかもしれませんね、お気持ちだけいただいておきます」

 もう一度だけと力を込めると、花は変わらなかったが、花からゲコゲコと蛙が大量に飛び出して来た。蛙は皆をおちょくるようにぴょこぴょこと飛び回り、リリアンネはきゃあきゃあと暴れているほどだった。皆、捕まえようとしていたが、誰一人捕まえられない。神官も侍女も大慌てだったが、ベラにも大量の蛙が顔に引っ付いたり、頭に乗ったりして、何よこれと蛙を叩こうとしながら慌てるしかなかった。

 遊びまわった蛙たちは気が済んだかのように消え去った。神官と侍女はぺこぺこと謝っていた。

「違うんです、蛙なんて初めてで」
「そうでしたか、国が違うと蛙になるのかもしれませんね。面白い別れの挨拶になりましたよ」

 リスルートはにこりと笑い、ベラは再びぺこぺこと謝る神官に帰りましょうと手を引かれて、車に乗せられた。道中お気を付けてと皆、朗らかな顔で見送られて帰って行った。車の中でも祈りを続けていたが、花は蘇ることはなかった。

 騎士や集まった者は何だったんだ?花でなく蛙が出るものなのか?偽物だったのか?でも蛙は出ないだろうと口々に言っていたが、どうしてなのかを知るのはリスルートのみだった。それより厄介事がやっと帰ってほっとした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

処理中です...