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第4話
愚かとしか言いようがない2
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「どういうことだ…」
「当たり前でしょう?散々抱いたのなら。愛人にしていたくらいですから、平民とは結婚が出来ないことは分かっているのですよね?」
「そうだ、だから仕方なく」
「だから仕方なく貴族の妻と結婚したと?やることが幼稚過ぎて吐気がしますね、自分が同じことをされたらと考えることも出来ないのですか?」
「何だと!」
「あなたは魔力が多いのですよ?愛人を見て分からぬのですか?老いはあまり出ていないようですが、注ぎ続ければおかしくなるに決まっているでしょう?前伯爵様、親として説明してあげた方がよろしいのでは?」
前伯爵は溜息を付きながら立ち上がり、ソファにどっぷりと座った。夫人はショックで座り込んだままだ。
「エメラルダの貴族は魔力を持って生まれる。ゆえに魔力があっても、少ないとされる平民とは魔力差が大きい。本来なら子を成すことは難しい。運よく成しても、子は短命、もしくは異常が生まれる」
「う、そだ。難しいのに生まれたってことは特別だってことじゃないのか」
「嘘ではない」
「上の子が出来るまでどのくらい掛かりましたか?三年以上ではありませんか」
「子どもを作るためだけに抱いていたわけじゃない」
「そんなことは聞いていません。四歳と零歳でしょう?出来にくいと判断する基準が二~三年とされていますから、該当すると思います」
「…そんな」
ブラッドリーとミラは現在、共に二十六歳。付き合い出したのは十七歳で、すぐ関係を持っていたが、子どもが生まれたのは二十二歳の時である。
「はあ、魔術師様が仰ったように魔力の多い者が抱けば壊れていく。快楽を伴うらしいから、薬物のようなものだな。よく持ち堪えている方じゃないか?そもそも魔力の高い者なら触れれば分かるはずだ。だから女性は特に防衛をする。そもそも平民とは結婚は出来ない、子を成してはならないと習ったであろう!」
「それは貴族社会のためであって」
「両方のためだ。まともな者なら、貴族も平民も互いに色恋は諦める、常識だろう」
「せめて逆ならば良かったのにね」
魔力を持つ女性の魔力の入れ物を器と呼び、子宮と繋がっている。魔力を持つ男性の入れ物も、精巣に繋がっている。
相手が魔力を持たない男性で、女性が貴族で器があっても、魔力には関係はするが、子に問題が出ることは無い。それでは男性に不満が出るため、平民と婚姻は出来ないことになっている。
エメラルダ王国に住む女性は、身分や魔力量、有無に関わらず、事故や事件に巻き込まれないように、魔力差を感知する魔術具であるピアスを付ける。高価なものもあるが、こだわらなければ、平民でも買えるものである。そして撃退する魔術具を付けたり、持ち歩く者も多い。
ミラの両親は存命ではあったが、兄が結婚することになり、同時に皆で父の生家に戻ることになったが、ミラは王都の学園に通いたいからと寮に入り、そこでブラッドリーに出会った。その後も会ったり、連絡がないわけではないが、後ろめたさはあったので、外で会うようにして隠し続けていた。
ピアスも両親にきちんと買ってもらっていたが、説明を適当にしか聞いておらず、好みのデザインではなかったため、寮に入ってからは外していたのだ。
男性は女性よりはリスクは高くないが、不十分な女性と関係を持つことは、男性側は魔力を過剰に奪われ、今までのように魔力が使えなくなったり、子を成せなくなるということがある。性欲モンスターの逆で、減退してしまう。
おそらくブラッドリーは魔力が減っているはずだ。
「私はどうなるのですか」
「先程、子どもが出来たかもしれないと言った口で、自分の心配か?」
魔術師は酷く蔑んだ目で愛人を見つめたが、罰が悪そうに一度、目を反らした。
「でも、子どもたちは元気ですし」
「いずれ異常が出るだろうな」
「…どうなるんですか」
「前伯爵様が分かり易く説明したのに、聞いていないかったのか?だからこんな愚かなことができるのだろうな。あなたたちの欲望で生まれたのだ、死ぬために生まれて来たなんて思わせたくないだろう。親だと言うのならば、最期まで向き合い、責任を取ればよいのではないか」
「リアーナが手紙に最期は家族で過ごされた方がいいと思ってと書いてあったわ、本当に酷い息子だわ。他人なら関わりたくもないくらい」
夫人の言うことも最もである。無知な殺人鬼と言ってもいい。
ブラッドリーは魔力の多い貴族と魔力の少ない平民の子のことを調べ尽くした。どの結論も待っているのは魔力暴走による死だった。医師や魔術師にも相談もしたが、時限爆弾を抱えているような状態ではあるが、現状としては解決方法はなかった。まさに自分の蒔いた種だった。
無理して生まれた子は、二桁に届かず亡くなることが多い。確認されている最高齢で十二歳である。
平民を愛人に持つ者は異常者が多く、犯罪として裁かれている。さらに平民と一人ならまだしも二人も子を成したことは異端で、前伯爵が当主に戻ることとなった。
愛人と子どもは外に出すわけにもかず、別邸で暮らすことになった。抱くことが出来なくなったブラッドリーとは反対に、魔術師が言ったようにミラは性欲モンスターとなった。子どもたちの前でも服を脱ぎながら、抱いてと喚く母親に子どもたちは怯え、保護施設に入ることとなった。ミラは性欲が強いのだと思っていたが、おそらく症状が出ていたのだろう。
貴族社会でも愛人を持つ者はいた。ただし、貴族か魔力の多い平民であった。確かに習ったことではあったが、魔力がないわけではないから問題ないと思った。ミラとは長い付き合いで、皆この程度だと思っていた。
妻・リサーラは愛人は訳ありな貴族だろうと思っていたら、平民が来て大層驚いたそうだ。魔力が多いのかと触れてみたが、ほとんど何も感じなかった。しかも子どもまで作っている、そしてブラッドリーは何も分かっていないことが一緒に暮らして分かったため、義両親に任せることにして、邸を出たそうだ。
いつか弱っていって、子どもたちになぜかと聞かれたら、可哀想で答えられないからと。離縁はまだ義両親に説得されて保留のままだそうだ。
「当たり前でしょう?散々抱いたのなら。愛人にしていたくらいですから、平民とは結婚が出来ないことは分かっているのですよね?」
「そうだ、だから仕方なく」
「だから仕方なく貴族の妻と結婚したと?やることが幼稚過ぎて吐気がしますね、自分が同じことをされたらと考えることも出来ないのですか?」
「何だと!」
「あなたは魔力が多いのですよ?愛人を見て分からぬのですか?老いはあまり出ていないようですが、注ぎ続ければおかしくなるに決まっているでしょう?前伯爵様、親として説明してあげた方がよろしいのでは?」
前伯爵は溜息を付きながら立ち上がり、ソファにどっぷりと座った。夫人はショックで座り込んだままだ。
「エメラルダの貴族は魔力を持って生まれる。ゆえに魔力があっても、少ないとされる平民とは魔力差が大きい。本来なら子を成すことは難しい。運よく成しても、子は短命、もしくは異常が生まれる」
「う、そだ。難しいのに生まれたってことは特別だってことじゃないのか」
「嘘ではない」
「上の子が出来るまでどのくらい掛かりましたか?三年以上ではありませんか」
「子どもを作るためだけに抱いていたわけじゃない」
「そんなことは聞いていません。四歳と零歳でしょう?出来にくいと判断する基準が二~三年とされていますから、該当すると思います」
「…そんな」
ブラッドリーとミラは現在、共に二十六歳。付き合い出したのは十七歳で、すぐ関係を持っていたが、子どもが生まれたのは二十二歳の時である。
「はあ、魔術師様が仰ったように魔力の多い者が抱けば壊れていく。快楽を伴うらしいから、薬物のようなものだな。よく持ち堪えている方じゃないか?そもそも魔力の高い者なら触れれば分かるはずだ。だから女性は特に防衛をする。そもそも平民とは結婚は出来ない、子を成してはならないと習ったであろう!」
「それは貴族社会のためであって」
「両方のためだ。まともな者なら、貴族も平民も互いに色恋は諦める、常識だろう」
「せめて逆ならば良かったのにね」
魔力を持つ女性の魔力の入れ物を器と呼び、子宮と繋がっている。魔力を持つ男性の入れ物も、精巣に繋がっている。
相手が魔力を持たない男性で、女性が貴族で器があっても、魔力には関係はするが、子に問題が出ることは無い。それでは男性に不満が出るため、平民と婚姻は出来ないことになっている。
エメラルダ王国に住む女性は、身分や魔力量、有無に関わらず、事故や事件に巻き込まれないように、魔力差を感知する魔術具であるピアスを付ける。高価なものもあるが、こだわらなければ、平民でも買えるものである。そして撃退する魔術具を付けたり、持ち歩く者も多い。
ミラの両親は存命ではあったが、兄が結婚することになり、同時に皆で父の生家に戻ることになったが、ミラは王都の学園に通いたいからと寮に入り、そこでブラッドリーに出会った。その後も会ったり、連絡がないわけではないが、後ろめたさはあったので、外で会うようにして隠し続けていた。
ピアスも両親にきちんと買ってもらっていたが、説明を適当にしか聞いておらず、好みのデザインではなかったため、寮に入ってからは外していたのだ。
男性は女性よりはリスクは高くないが、不十分な女性と関係を持つことは、男性側は魔力を過剰に奪われ、今までのように魔力が使えなくなったり、子を成せなくなるということがある。性欲モンスターの逆で、減退してしまう。
おそらくブラッドリーは魔力が減っているはずだ。
「私はどうなるのですか」
「先程、子どもが出来たかもしれないと言った口で、自分の心配か?」
魔術師は酷く蔑んだ目で愛人を見つめたが、罰が悪そうに一度、目を反らした。
「でも、子どもたちは元気ですし」
「いずれ異常が出るだろうな」
「…どうなるんですか」
「前伯爵様が分かり易く説明したのに、聞いていないかったのか?だからこんな愚かなことができるのだろうな。あなたたちの欲望で生まれたのだ、死ぬために生まれて来たなんて思わせたくないだろう。親だと言うのならば、最期まで向き合い、責任を取ればよいのではないか」
「リアーナが手紙に最期は家族で過ごされた方がいいと思ってと書いてあったわ、本当に酷い息子だわ。他人なら関わりたくもないくらい」
夫人の言うことも最もである。無知な殺人鬼と言ってもいい。
ブラッドリーは魔力の多い貴族と魔力の少ない平民の子のことを調べ尽くした。どの結論も待っているのは魔力暴走による死だった。医師や魔術師にも相談もしたが、時限爆弾を抱えているような状態ではあるが、現状としては解決方法はなかった。まさに自分の蒔いた種だった。
無理して生まれた子は、二桁に届かず亡くなることが多い。確認されている最高齢で十二歳である。
平民を愛人に持つ者は異常者が多く、犯罪として裁かれている。さらに平民と一人ならまだしも二人も子を成したことは異端で、前伯爵が当主に戻ることとなった。
愛人と子どもは外に出すわけにもかず、別邸で暮らすことになった。抱くことが出来なくなったブラッドリーとは反対に、魔術師が言ったようにミラは性欲モンスターとなった。子どもたちの前でも服を脱ぎながら、抱いてと喚く母親に子どもたちは怯え、保護施設に入ることとなった。ミラは性欲が強いのだと思っていたが、おそらく症状が出ていたのだろう。
貴族社会でも愛人を持つ者はいた。ただし、貴族か魔力の多い平民であった。確かに習ったことではあったが、魔力がないわけではないから問題ないと思った。ミラとは長い付き合いで、皆この程度だと思っていた。
妻・リサーラは愛人は訳ありな貴族だろうと思っていたら、平民が来て大層驚いたそうだ。魔力が多いのかと触れてみたが、ほとんど何も感じなかった。しかも子どもまで作っている、そしてブラッドリーは何も分かっていないことが一緒に暮らして分かったため、義両親に任せることにして、邸を出たそうだ。
いつか弱っていって、子どもたちになぜかと聞かれたら、可哀想で答えられないからと。離縁はまだ義両親に説得されて保留のままだそうだ。
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