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第4話

愚かとしか言いようがない3

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 セナリアンからブラッドリーの報告を受けた陛下は落胆した。エメラルダ王国では避けられない問題ではあるが、防ぐことのできない問題ではない。

 それでも魔力差の男女、子の問題は起こる。ただし、分かっていて行っているため、仕方なく、事故だったという場合が主で、残りは犯罪である。

 保護施設に入る者のほとんどが魔力差の問題であることが、エメラルダの現状を物語っている。

「愚かとしか言いようがありませんね、愚か、愚か、愚か」
「伯爵は阿呆だったのか」
「色恋に無知だったのでしょう。学生時代からの付き合いだったそうです。平民でもせめてあの愛人にそれなりの器があれば子どもは違ったのですがね、魔力差があり過ぎました。魔力差のピアスも付けていない、二人揃って愚か!」
「その通りだな。自分に酔うてしまうのかの?」
「習ったという前提で考えると、そのように見受けられますね。聞いていたことが、分かっているはずのことが、抜け落ちるのかと」
「はあ…この件はどうにもならないものか」
「今、助けて欲しい人がいるのも分かってはいますが、今後のためにも最善策を考えねばなりませんから」

 魔力差から身体を壊した者のための治療は、前の先祖返りであるカサブランカ・コルロンドが始めている。

 当初は魔力のことであるから、治癒術の使える魔術師であれば、壊れても治せるのではないかと思う者が多かったが、魔力差は各々であり、症状がそれぞれ違い、元々魔力が少ない者が多いため、壊した身体に治癒術が強過ぎてしまい、重篤な状態に陥るなど、危険だとされた。

 そこでカサブランカは緩やかに改善させる、薬草と魔力水を調合した内服薬を開発。各々に量を調節して投与、様子を診るという地道なものだったが、現在は効果の早い注射薬もあり、症状によって治療法を変えている。

 ただし、状態によって治療に長い年月を必要とされる場合もあり、元のように戻れるものもいれば、酷い場合は最悪の状態を脱するだけはいい方で、体が持ち堪えられず、亡くなってしまうこともある。

 セナリアンが性欲モンスターと呼んでいる段階の者は、依存度が高いため、暴れたり、狂ったりすることも多い。医師は鎮静剤でコントロールしながら、根気強く治療を進めていくしかない。

 犯罪者の場合は牢屋で治療を受けることとなる。

「それはそうだな」
「特に女性は一時的なことならまだしも、元々持っているものですから、器も生まれた子も一時的なことでは治まりません。本来なら干渉できる範疇ではありません」
「惨いことをするもんだ」
「ええ、あの愛人は二人も授かったのは珍しいことです。不特定多数ではなかったせいか、見た目の老いはあまり出ていなかった」

 相手が魔力差のある不特定多数の場合は、ほとんどの者が身体が耐えられず退化する。見える部分としては、肌のハリツヤが失われ、色が悪くなったり、髪の毛もハリツヤが失われ、色が薄くなったり、毛量が減ったりといった症状が出る。

「ただ月のものが終わっていましたから、終末期と呼ぶ段階でしょうね。治療をしても、長く生きるのは難しいかもしれません」
「魔力差の症例は様々だからな、正式に結婚すれば防げたものを」

 この結婚の取り決めはシャーロット・マクレガーが作った礎の一つだった。

 何も知らず子を成していた頃、子どもが急に亡くなったり、育たない、女性がおかしくなっていくことが多くあった。その際に女性側の器の問題に気付き、守るために取り決めを作ったのだ。

 お互い想い合っているのに愛し合えない、子を成せないのは辛いだろうが、自分の身、そして子にも影響されると分かって、はいどうぞというわけにはいかないのだ。当初は私は違うという反抗的な者、理解できない者がいたそうだ。現在もいないとは言えず、分かっていながら関係を続ける者もいる。

「ええ、国民全員の愛人まで精査する訳にはいきませんからね。上手くやろうとしたのが間違いです。そもそも相性が悪いはずなんです、あの愛人はピアスを付けていませんでしたが、痛みが伴っても愛したんですかね?」
「話を聞く限り、伯爵の愛人はピアスを外して、愛し合ったんじゃないか」
「ああ、なるほど。意味がなかったってことですね。妻に子どもを産ませて、奪い取るのと、人としてどちらが酷いんでしょうかね…」

 二人は遠くを見て、溜息を付くしかなかった。
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