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第4話
愚かとしか言いようがない1
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魔術師であるワトンとビスタはアグウィン前伯爵夫妻に依頼され、ブラッドリー・アグウィン伯爵と愛人の子どもの親子鑑定に来ていた。
ブラッドリーは両親から勧められたバートリッツ子爵令嬢であったリサーラと二年前に結婚して、爵位を継いでいたが、数週間前から愛人と子ども二人を伯爵邸に一緒に住まわせるようになった。
上の子は四歳で、年齢から結婚前から愛人と子どもを作っていたことは、明らかであった。
バートリッツ子爵家はリサーラの姉の借金で困っており、割り切った結婚ではあった。夫婦関係はなく、結婚当初から私には愛する人がいる、君も恋人でも作って好きにすればいいと言われ続け、現在は親戚の家に身を寄せている。
前伯爵夫妻はリサーラの手紙で平民の愛人や子どものことを初めて知り、使用人たちも邸に来るまで、一切接触が無かったため、気付かなかったそうだ。一縷の望みにかけて、魔法省に親子鑑定を依頼して来たのだ。
「何てことをしてくれたんだ!平民の愛人がいたなんて…」
「何ですか、急にやって来て。いずれ紹介するつもりでしたよ。仕方ないでしょう、愛する人と一緒にいたいのは当たり前じゃないですか。リサーラにも説明したんですがね、なぜ分かってくれないのか不思議でなりません」
「子どもまで…」
「孫ですよ、可愛いでしょう?」
「平民との子であろう」「可哀想に」
前伯爵夫妻は子どもたちの目を見ることが出来ず、落胆と悲しみしか持ち合わせていなかった。
「親子鑑定をしてもらう、魔法省から魔術師様に来ていただいた」
「はっ?疑っているのですか、親でも言っていいことと悪いことがある」
「ブラッドリー、落ち着いて。調べて貰えば、私たちの子どもだと証明できるじゃない。そう思いましょう、ねっ」
「まあ、それはそうだな」
前伯爵夫妻は二人の魔術師によろしくお願いいたしますと頭を下げ、その場を見守ることとした。愛人に連れられた男の子と、メイドに抱かれた赤子がいたが、依頼書にはあずかり知らぬ母子であるため名前は不明とあった。
「母親とお子様たちの名前は不明という依頼書でしたが、鑑定書に必要なので真名を教えていただけますか」
「はい、私がミラ、息子は上がヴァルフリート、下がエデュレートです」
「家名はアグウィンでよろしいですか」
「いえ、私のフルトンです」
四人の指先から血を一滴、専用の魔用紙の丸の中に垂らし、術式を起動して、膨らませて玉にし、子どもの名前を書くが、弾かれることとなった。
「お子様たちは真名ではありませんね、間違い、もしくは登録されていないということはないですか」
「っな、まさか届を出してもいないというのか…魔力測定はどうした!受けていないのか!」
「…それは、その」
「ハッキリ言え!」
「受けていません」
「何をやっとるんだ!馬鹿者がっ!」
伯爵邸に住むまで、別に邸を借りて、フルトンの名前で生活をしており、届は出しておらず、真名も持っていない。義務である一歳の魔力測定も受けておらず、届が出ていないため、呼び出しもなかった。
大きな病などで医院に掛かっていれば、支払いや補助などの関係で、露呈したであろうが、近くの医師に診てもらっていたため、確認されることもなかった。
「魔術師様、真名がないと鑑定は出来ないのでしたね」
「名前が空欄でもよろしければ、鑑定自体は可能です」
「本当ですか、それで構いません。どこかに出すようなものではありませんから」
「では一人ずつ行いますので、対象は目で確認ください」
鑑定書の名前は空白ではあるが、残念ながら二人ともブラッドリーと愛人・ミラの子どもであった。
ブラッドリーとミラは当たり前だろうという誇らしげな顔をしていたが、周りは全員が絶望的な顔をしており、エデュレートは赤子であるため時折、声を出していたが、四歳のヴァルフリートは緊迫した状況に声を出すことも出来なかった。
「…実は…その」
ミラはもじもじしながら、上目遣いに何か話そうとしていた。
「妊娠しているんじゃないかと思うんです」
「そうなのか!」
ブラッドリーはよくやったと喜んだが、両親はその場に座り込んでしまった。ビスタは魔術師に魔鳩を送ると、すぐにやって来た。魔術師は魔法省所属の証明書を見せ、魔法省に所属している魔術師は認識阻害術を使い、名を告げることもない。
「子どもはいませんね、良かったですね」
前伯爵夫妻はほっとしたが、ブラッドリーは怒りに任せて机を叩き付けた。魔術師は使用人に子どもたちを別の部屋に連れて行くように命じ、伯爵親子と愛人と魔術師三人だけが残った。
「良かったですねとはどういうことだ!」
「分かっていて行ったのか、分かっていないのか、どちらにしても残虐な方ですね。あとその愛人は、もう妊娠は出来ないでしょう。月のものが終わったのを妊娠と勘違いしたのでしょうけど、あるのは溢れんばかりの性欲のみ。性欲モンスターです。月のものが終わったのは性欲モンスターの合図でしょう」
魔術師は何の配慮も無く、ばっさりと言い切り、ワトンとビスタはああ、これは相当怒っているなと感じた。
ブラッドリーは両親から勧められたバートリッツ子爵令嬢であったリサーラと二年前に結婚して、爵位を継いでいたが、数週間前から愛人と子ども二人を伯爵邸に一緒に住まわせるようになった。
上の子は四歳で、年齢から結婚前から愛人と子どもを作っていたことは、明らかであった。
バートリッツ子爵家はリサーラの姉の借金で困っており、割り切った結婚ではあった。夫婦関係はなく、結婚当初から私には愛する人がいる、君も恋人でも作って好きにすればいいと言われ続け、現在は親戚の家に身を寄せている。
前伯爵夫妻はリサーラの手紙で平民の愛人や子どものことを初めて知り、使用人たちも邸に来るまで、一切接触が無かったため、気付かなかったそうだ。一縷の望みにかけて、魔法省に親子鑑定を依頼して来たのだ。
「何てことをしてくれたんだ!平民の愛人がいたなんて…」
「何ですか、急にやって来て。いずれ紹介するつもりでしたよ。仕方ないでしょう、愛する人と一緒にいたいのは当たり前じゃないですか。リサーラにも説明したんですがね、なぜ分かってくれないのか不思議でなりません」
「子どもまで…」
「孫ですよ、可愛いでしょう?」
「平民との子であろう」「可哀想に」
前伯爵夫妻は子どもたちの目を見ることが出来ず、落胆と悲しみしか持ち合わせていなかった。
「親子鑑定をしてもらう、魔法省から魔術師様に来ていただいた」
「はっ?疑っているのですか、親でも言っていいことと悪いことがある」
「ブラッドリー、落ち着いて。調べて貰えば、私たちの子どもだと証明できるじゃない。そう思いましょう、ねっ」
「まあ、それはそうだな」
前伯爵夫妻は二人の魔術師によろしくお願いいたしますと頭を下げ、その場を見守ることとした。愛人に連れられた男の子と、メイドに抱かれた赤子がいたが、依頼書にはあずかり知らぬ母子であるため名前は不明とあった。
「母親とお子様たちの名前は不明という依頼書でしたが、鑑定書に必要なので真名を教えていただけますか」
「はい、私がミラ、息子は上がヴァルフリート、下がエデュレートです」
「家名はアグウィンでよろしいですか」
「いえ、私のフルトンです」
四人の指先から血を一滴、専用の魔用紙の丸の中に垂らし、術式を起動して、膨らませて玉にし、子どもの名前を書くが、弾かれることとなった。
「お子様たちは真名ではありませんね、間違い、もしくは登録されていないということはないですか」
「っな、まさか届を出してもいないというのか…魔力測定はどうした!受けていないのか!」
「…それは、その」
「ハッキリ言え!」
「受けていません」
「何をやっとるんだ!馬鹿者がっ!」
伯爵邸に住むまで、別に邸を借りて、フルトンの名前で生活をしており、届は出しておらず、真名も持っていない。義務である一歳の魔力測定も受けておらず、届が出ていないため、呼び出しもなかった。
大きな病などで医院に掛かっていれば、支払いや補助などの関係で、露呈したであろうが、近くの医師に診てもらっていたため、確認されることもなかった。
「魔術師様、真名がないと鑑定は出来ないのでしたね」
「名前が空欄でもよろしければ、鑑定自体は可能です」
「本当ですか、それで構いません。どこかに出すようなものではありませんから」
「では一人ずつ行いますので、対象は目で確認ください」
鑑定書の名前は空白ではあるが、残念ながら二人ともブラッドリーと愛人・ミラの子どもであった。
ブラッドリーとミラは当たり前だろうという誇らしげな顔をしていたが、周りは全員が絶望的な顔をしており、エデュレートは赤子であるため時折、声を出していたが、四歳のヴァルフリートは緊迫した状況に声を出すことも出来なかった。
「…実は…その」
ミラはもじもじしながら、上目遣いに何か話そうとしていた。
「妊娠しているんじゃないかと思うんです」
「そうなのか!」
ブラッドリーはよくやったと喜んだが、両親はその場に座り込んでしまった。ビスタは魔術師に魔鳩を送ると、すぐにやって来た。魔術師は魔法省所属の証明書を見せ、魔法省に所属している魔術師は認識阻害術を使い、名を告げることもない。
「子どもはいませんね、良かったですね」
前伯爵夫妻はほっとしたが、ブラッドリーは怒りに任せて机を叩き付けた。魔術師は使用人に子どもたちを別の部屋に連れて行くように命じ、伯爵親子と愛人と魔術師三人だけが残った。
「良かったですねとはどういうことだ!」
「分かっていて行ったのか、分かっていないのか、どちらにしても残虐な方ですね。あとその愛人は、もう妊娠は出来ないでしょう。月のものが終わったのを妊娠と勘違いしたのでしょうけど、あるのは溢れんばかりの性欲のみ。性欲モンスターです。月のものが終わったのは性欲モンスターの合図でしょう」
魔術師は何の配慮も無く、ばっさりと言い切り、ワトンとビスタはああ、これは相当怒っているなと感じた。
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