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第1話
まだ結婚するつもりはなかった11
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今日なら大丈夫だと思っているのか、誰も相手にしてくれないのか、またエリーチカが公爵邸別邸に押し掛けていた。自分は特別だと思っているので、門の前に騒がれるのは困るので通すが、先触れを出すこともないため、不在ということはよくある。男爵家にも何度か注意する手紙を出したが、言うことを聞かず、閉じ込めても大騒ぎするため、バーチャス男爵からは追い返してくれて構わないと言われている。
「お通しできないと申しております」
「あら、何の騒ぎ?」
「今日はいらっしゃるんですね」
「ええ、王都に用事があったものですから。マージナル様とお約束かしら?」
「そうですの。是非いらしてと」
「いいえ、そのようなことは伺っておりません」
セナリアンの前に、執事・ローダンがすぐさま割って入った。
「言い忘れたのですわ。あなたでいいわ、もてなして頂戴」
「私は忙しいのです。どなたか暇な方に頼んでください」
「失礼ね、何様なの。私は血の繋がったマージナルお兄様の従兄妹なのですよ、もてなして当然でしょう。お茶も出してくれないって言われるわよ」
「お伺いも立てずに来られた方に出すお茶は用意されているの?」
ローダンは黙って首を振った。
「買収されたものね。マージナルお兄様に言い付けてやるんだから」
「どうぞ、お好きになさって。さあ言い付けに行ってください、こちらで騒がれてはうるさいだけです」
エリーチカはまたいつもの大股で、ドスドスと踏みしめながら出て行った。そして言っただけでマージナルのところへ言いつけに行くわけではない。
「足腰が強いのかしら?」
「いえ、教育がなってないだけだと思います」
「暇そうで羨ましいわ」
ローダンは下品な後姿を眺めながら、もう勘弁して欲しいと溜息を付き、遠い目をすることとなった。
ある日、マージナルは半日休みとなり、セナリアンは不在のため、時間があるならと母にお茶に誘われ、本邸で寛いでいた。
「ローズ嬢が離縁されたそうなの」
「ああ、やはりですか」
「やはりとは?」
「あの姉妹は自身の評価がとても高いのです。結婚生活が上手くいくとは思えませんでした」
「可愛らしい子たちではあるけれど」
「母上には良くしておいた方がいいと思っているからですよ、あの姉妹は透けて見えるのですよ、魂胆が」
ローズとエリーチカは母上の前では愛らしい令嬢を演じている。母上も見抜いてはいるが、害するほどではないと思っているのだろう。
妹であるアローラは早々に見切りをつけ、邸に入れないでと願い出たため、当分は平穏だったのだが、アローラが留学したことを聞き、再び乗り込んでくることになったのだ。
「分かり易いといえばそうね」
「エリーチカなんて何度も別邸に無理矢理に入ろうとしています」
「まあ!入れてくれないとは言っていたけど、駄目よと言ったのだけれど」
さすがに母上から言われたら、引き下がっているだろうと思っていた様子だが、普通ならそれが当たり前だ。
「毎回入口で大騒ぎですよ、この前はセナリアンがいる時にも来たようで、不快な思いをさせてしまいました」
「セナちゃんにまで?何も出来ないと判断していたのだけど、さすがに黙ってはおけないわね」
「従兄妹なら当然だ、もてなすように言ったそうです。彼女が忙しいから暇な人に頼んでと断ったそうですが。もう正直、縁を切りたいです」
「そうしましょう!アローラが留学前はお断りしていたんですから」
「良いのですか」
「当たり前じゃない、セナちゃんに不快な思いをさせてまで繋ぐ縁ではないわ。もう血の繋がりも無いのだから」
「ええ、おそらくそれも知らぬのでしょうね。教えたら教えたで婚約者だの、結婚しろだの言われたら堪りませんから」
「あなたを狙っていたの?」
「口にはしませんけど、そのような振舞いをするのです。言い寄られて当たり前と思っているんでしょうね、そこは私も身に沁みましたが…」
言いながらも自分にも身に覚えがないとも言えない言葉に、最後は声が小さくなってしまった。
「セナちゃんに感謝ね」
「ええ、彼女からすれば私も透けて見えていたのでしょう」
「強引な結婚だったのですから、あなたが頑張ればいいでしょう」
「分かっております。母上がそのような考えで良かったです、あんな嫁なんて言われたら、すぐさま離縁まっしぐらでしたよ」
「セナちゃんが手伝いをしているのも、領地が好きだというのも、お母様から聞いておりましたからね。知識も豊富で、書類も分かり易くなってお父様も喜んでいたでしょう?しかも美容部門は右肩上がり。王都にいて欲しいのはあなたの都合でしょう?まだ若いのだし、何が悪いのか分かりません」
「全くその通りです。そういえば、ローズの離婚理由は?」
母上はそっとマージナルの側に寄り、小さな声で言った。
「子どもが旦那様の子では無かったようなの」
「えっ、でももう二歳くらいですよね?」
「ええ、耳の形が尖っているというのかしら、変わっていたそうなの。両親にも似ていない、周りにもいない、お義母様が気になっていたそうなの。それで調べて親子鑑定して貰ったそうで」
「浮気していたということですか」
「ええ、それ以外無いわよね。何と言ったらいいのか」
「実家に戻っているのですか」
「そのようね、行くところも無いし、お相手のところはいけないとか言って。今後はこちらに来ても相手をする必要も無いですからね、私から手紙を書いて置きます」
「よろしくお願いします」
何も知らないバーチャス姉妹は勝手にマージナルを取り合っていた。この二人、見た目は確かに美しい部類ではあるが、特別目立つわけではなく、ちやほやしてくれたのは良くて下級貴族だったにも関わらず、自分たちは人気があると思い込んでいる。
「お姉様、妻は私よ」
「私に決まっているじゃない、子どももいないのならきっと息子のことも可愛がってくれますわ」
エリーチカと、出戻りローズはグロー公爵邸の門の前で押し問答をしていた。妻は既におり、また先触れも出していない。
そして、いつもは通してくれる門は固く閉まっている。
「マージナル様にお会いしたいのだけど、バーチャス男爵家のローズが来たと伝えて頂戴」
「私よ、エリーチカよ」
「申し訳ありませんが、お通ししないように言われております」
「何ですって」
「男爵家にお伝えしたはずですが」
「「聞いてないわっ!」」
嫌な息の合った二人に、門番はげっそりしたが、容赦なく断って欲しいと指示されている。
「娘さんが大騒ぎを起こして、公爵夫人が通達を出したと聞いております」
「エリーチカ、あなた何したの?」
「マージナル様に会いに来ただけよ」
「なら私は通して貰えますでしょう」
「いえ、もうバーチャス家の方は一切お通しできません。こちらで騒がれると警備を呼ばなくてはならなりますので、お引き取りください」
「待って頂戴、一言でいいんです。マージナル様は私に会いたいはずですから、ローズが会いに来ていると伝えてくだされば、分かるでしょう?」
「それは出来ません。警備を呼びますが、よろしいですか」
「いっ、いえ、一旦帰りますわ」
「そうして下さい、帰られてご両親に聞いてみて下さい」
同じ足取りで姉妹は邸に戻って、孫の世話をする母に詰め寄った。
「お母様、エリーチカのせいでマージナル様に会えなかったわ。どういうことなの」
「まあ、会いに行ったの?エリーチカが迷惑を掛けたみたいで、公爵夫人から目に余るから縁を切ると手紙が来たの。酷いわよね」
「謝罪に行ったの?」
「お父様が謝罪の手紙を出したようだけど、私は酷いわって思っただけよ」
「どうして行かないのよ」
「血の繋がりも無いのだから仕方ないのかなと思ったの。ローズもそうでしょう?旦那様の子じゃなかったから捨てられて」
「親戚じゃないの?従兄妹だって」
「親戚だったのは前の奥様よ、私たちには血の繋がりは無いわよ。親戚のようなものって言ったはずよ」
バーチャス男爵の前妻は体が弱く、結婚して子を成さないまま亡くなっており、もう結婚するつもりはなかったが、再婚を勧められて、娶ったのが現在の後妻であった。後妻は野心のある質ではなかったが、娘二人はプライドが高く、自分が特別だと信じる性格になってしまっていた。
「じゃあじゃあ、従兄妹だからマージナル様と結婚出来なかった訳では無いの?」
「誰がそんなこと言ったの?」
「誰かに言われた気がするんだけど」
「従兄妹で結婚している方もいるでしょう?」
「だったら私がマージナル様と結婚すれば良かったじゃない、浮気なんてしなかったわ」
「だったら私よ、未婚だもの」
「私だって今は未婚よ」
二人は元々、前妻の伝手で末席に座らせて貰っていた程度だったはずが、周りに自分より爵位も高く、美しい人がいても、なぜかマージナルに自分が選ばれると思っていた。
しかしローズは裕福な子爵家に嫁ぐことになった。ローズは私にはマージナルがいるからと言っていたが、母は嗜めようと従兄妹同士は結婚は出来ないと咄嗟に言ったのだ。
そもそも男爵家なので、マージナルの妻になることは難しいと思わないのか。
こちらからは会うこともできない存在になっていることに気付いていない。気付かない方が幸せなのかもしれない。
「お通しできないと申しております」
「あら、何の騒ぎ?」
「今日はいらっしゃるんですね」
「ええ、王都に用事があったものですから。マージナル様とお約束かしら?」
「そうですの。是非いらしてと」
「いいえ、そのようなことは伺っておりません」
セナリアンの前に、執事・ローダンがすぐさま割って入った。
「言い忘れたのですわ。あなたでいいわ、もてなして頂戴」
「私は忙しいのです。どなたか暇な方に頼んでください」
「失礼ね、何様なの。私は血の繋がったマージナルお兄様の従兄妹なのですよ、もてなして当然でしょう。お茶も出してくれないって言われるわよ」
「お伺いも立てずに来られた方に出すお茶は用意されているの?」
ローダンは黙って首を振った。
「買収されたものね。マージナルお兄様に言い付けてやるんだから」
「どうぞ、お好きになさって。さあ言い付けに行ってください、こちらで騒がれてはうるさいだけです」
エリーチカはまたいつもの大股で、ドスドスと踏みしめながら出て行った。そして言っただけでマージナルのところへ言いつけに行くわけではない。
「足腰が強いのかしら?」
「いえ、教育がなってないだけだと思います」
「暇そうで羨ましいわ」
ローダンは下品な後姿を眺めながら、もう勘弁して欲しいと溜息を付き、遠い目をすることとなった。
ある日、マージナルは半日休みとなり、セナリアンは不在のため、時間があるならと母にお茶に誘われ、本邸で寛いでいた。
「ローズ嬢が離縁されたそうなの」
「ああ、やはりですか」
「やはりとは?」
「あの姉妹は自身の評価がとても高いのです。結婚生活が上手くいくとは思えませんでした」
「可愛らしい子たちではあるけれど」
「母上には良くしておいた方がいいと思っているからですよ、あの姉妹は透けて見えるのですよ、魂胆が」
ローズとエリーチカは母上の前では愛らしい令嬢を演じている。母上も見抜いてはいるが、害するほどではないと思っているのだろう。
妹であるアローラは早々に見切りをつけ、邸に入れないでと願い出たため、当分は平穏だったのだが、アローラが留学したことを聞き、再び乗り込んでくることになったのだ。
「分かり易いといえばそうね」
「エリーチカなんて何度も別邸に無理矢理に入ろうとしています」
「まあ!入れてくれないとは言っていたけど、駄目よと言ったのだけれど」
さすがに母上から言われたら、引き下がっているだろうと思っていた様子だが、普通ならそれが当たり前だ。
「毎回入口で大騒ぎですよ、この前はセナリアンがいる時にも来たようで、不快な思いをさせてしまいました」
「セナちゃんにまで?何も出来ないと判断していたのだけど、さすがに黙ってはおけないわね」
「従兄妹なら当然だ、もてなすように言ったそうです。彼女が忙しいから暇な人に頼んでと断ったそうですが。もう正直、縁を切りたいです」
「そうしましょう!アローラが留学前はお断りしていたんですから」
「良いのですか」
「当たり前じゃない、セナちゃんに不快な思いをさせてまで繋ぐ縁ではないわ。もう血の繋がりも無いのだから」
「ええ、おそらくそれも知らぬのでしょうね。教えたら教えたで婚約者だの、結婚しろだの言われたら堪りませんから」
「あなたを狙っていたの?」
「口にはしませんけど、そのような振舞いをするのです。言い寄られて当たり前と思っているんでしょうね、そこは私も身に沁みましたが…」
言いながらも自分にも身に覚えがないとも言えない言葉に、最後は声が小さくなってしまった。
「セナちゃんに感謝ね」
「ええ、彼女からすれば私も透けて見えていたのでしょう」
「強引な結婚だったのですから、あなたが頑張ればいいでしょう」
「分かっております。母上がそのような考えで良かったです、あんな嫁なんて言われたら、すぐさま離縁まっしぐらでしたよ」
「セナちゃんが手伝いをしているのも、領地が好きだというのも、お母様から聞いておりましたからね。知識も豊富で、書類も分かり易くなってお父様も喜んでいたでしょう?しかも美容部門は右肩上がり。王都にいて欲しいのはあなたの都合でしょう?まだ若いのだし、何が悪いのか分かりません」
「全くその通りです。そういえば、ローズの離婚理由は?」
母上はそっとマージナルの側に寄り、小さな声で言った。
「子どもが旦那様の子では無かったようなの」
「えっ、でももう二歳くらいですよね?」
「ええ、耳の形が尖っているというのかしら、変わっていたそうなの。両親にも似ていない、周りにもいない、お義母様が気になっていたそうなの。それで調べて親子鑑定して貰ったそうで」
「浮気していたということですか」
「ええ、それ以外無いわよね。何と言ったらいいのか」
「実家に戻っているのですか」
「そのようね、行くところも無いし、お相手のところはいけないとか言って。今後はこちらに来ても相手をする必要も無いですからね、私から手紙を書いて置きます」
「よろしくお願いします」
何も知らないバーチャス姉妹は勝手にマージナルを取り合っていた。この二人、見た目は確かに美しい部類ではあるが、特別目立つわけではなく、ちやほやしてくれたのは良くて下級貴族だったにも関わらず、自分たちは人気があると思い込んでいる。
「お姉様、妻は私よ」
「私に決まっているじゃない、子どももいないのならきっと息子のことも可愛がってくれますわ」
エリーチカと、出戻りローズはグロー公爵邸の門の前で押し問答をしていた。妻は既におり、また先触れも出していない。
そして、いつもは通してくれる門は固く閉まっている。
「マージナル様にお会いしたいのだけど、バーチャス男爵家のローズが来たと伝えて頂戴」
「私よ、エリーチカよ」
「申し訳ありませんが、お通ししないように言われております」
「何ですって」
「男爵家にお伝えしたはずですが」
「「聞いてないわっ!」」
嫌な息の合った二人に、門番はげっそりしたが、容赦なく断って欲しいと指示されている。
「娘さんが大騒ぎを起こして、公爵夫人が通達を出したと聞いております」
「エリーチカ、あなた何したの?」
「マージナル様に会いに来ただけよ」
「なら私は通して貰えますでしょう」
「いえ、もうバーチャス家の方は一切お通しできません。こちらで騒がれると警備を呼ばなくてはならなりますので、お引き取りください」
「待って頂戴、一言でいいんです。マージナル様は私に会いたいはずですから、ローズが会いに来ていると伝えてくだされば、分かるでしょう?」
「それは出来ません。警備を呼びますが、よろしいですか」
「いっ、いえ、一旦帰りますわ」
「そうして下さい、帰られてご両親に聞いてみて下さい」
同じ足取りで姉妹は邸に戻って、孫の世話をする母に詰め寄った。
「お母様、エリーチカのせいでマージナル様に会えなかったわ。どういうことなの」
「まあ、会いに行ったの?エリーチカが迷惑を掛けたみたいで、公爵夫人から目に余るから縁を切ると手紙が来たの。酷いわよね」
「謝罪に行ったの?」
「お父様が謝罪の手紙を出したようだけど、私は酷いわって思っただけよ」
「どうして行かないのよ」
「血の繋がりも無いのだから仕方ないのかなと思ったの。ローズもそうでしょう?旦那様の子じゃなかったから捨てられて」
「親戚じゃないの?従兄妹だって」
「親戚だったのは前の奥様よ、私たちには血の繋がりは無いわよ。親戚のようなものって言ったはずよ」
バーチャス男爵の前妻は体が弱く、結婚して子を成さないまま亡くなっており、もう結婚するつもりはなかったが、再婚を勧められて、娶ったのが現在の後妻であった。後妻は野心のある質ではなかったが、娘二人はプライドが高く、自分が特別だと信じる性格になってしまっていた。
「じゃあじゃあ、従兄妹だからマージナル様と結婚出来なかった訳では無いの?」
「誰がそんなこと言ったの?」
「誰かに言われた気がするんだけど」
「従兄妹で結婚している方もいるでしょう?」
「だったら私がマージナル様と結婚すれば良かったじゃない、浮気なんてしなかったわ」
「だったら私よ、未婚だもの」
「私だって今は未婚よ」
二人は元々、前妻の伝手で末席に座らせて貰っていた程度だったはずが、周りに自分より爵位も高く、美しい人がいても、なぜかマージナルに自分が選ばれると思っていた。
しかしローズは裕福な子爵家に嫁ぐことになった。ローズは私にはマージナルがいるからと言っていたが、母は嗜めようと従兄妹同士は結婚は出来ないと咄嗟に言ったのだ。
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