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プロローグ
エメラルダ王国の魔術師
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私の目の前には疲れをソファに預け終えてから、ワインをたぷたぷに注がれたグラスを嬉しそうに見つめる魔術師がおります。一口飲むと、ぱぁっと明るい表情になりました。ええ、とても美味しいおすすめのワインだと聞いております。追加購入も可能とのことでしたので、とりあえず五ダース購入しました。
ですが、本日届いていた手紙を読み始めてから、表情は急変したのです。
『ふんふん、はぁ、ほお、ふーん、へえぇぇぇ』
内容は分かりませんが、へえのところで怒りが溜まったことに静かに目を瞑りました。腹に響くほどの恐ろしく低い声を出すことはありますが、我々に怒鳴り散らしたりするような方ではありません。それでも怒りは持ちます、鎮める手段を心得てらっしゃるだけです。
どうして、憂鬱なことばかりが起こるのでしょう。今度は何でしょうか。
先程までは新しいワインに小躍りしてらしたんですよ、その姿を微笑ましく見ていたのです。それなのに、ああほら、味わって飲むわと仰っていたのに、一気に飲み干されて、手酌で追加を注いでおります。グラスに注ぐだけでも良しとするところでしょう。何しろ五ダース購入してありますからね。
ああ、一緒に置いたクラッカーも凄まじい勢いで咀嚼しております。
シャクシャク、グビグビ、シャクシャク、グビグビ、シャク、シャクシャクシャク。ああ、また不愉快なことが書いてあるのでしょう。ああ、勢いが止まりません。
私は急いで酒蔵庫に追加を取りに行かねばなりません。ええ、五ダースありますからね。クラッカーも追加した方がいいかもしれませんね、ふふふ。
♦
安定しない日々が続いていたエメラルダ王国。
そこに生まれたのがシャーロット・マクレガー。ハニーブロンドの髪に、アンバーの瞳を持つ美しい女性であった。膨大な魔力を持ち、彼女は才能も有りながら、努力を怠らず知識と技術を磨き、魔術師になった。
「これは宿命なのだろう」
あまりの才能に皆は尊敬の意を込めて大魔術師と呼ぶ者もいたが、当人は大魔術師と呼ばれることを大変嫌っており、だったらお前は小魔術師と呼ばれたいかと聞かれて、誰も答えられなかったという。
生まれはマクレガー伯爵家であったが、シャーロットの功績に集る者が後を絶たず、家族の疲弊から、シャーロットはマクレガー家は私の没後、王家に返上すると発表した。王家も支持し、シャーロット以降、マクレガーを名乗ることも禁じた。
シャーロットは同じ魔術師で、友人でもあった、領地を持たない男爵令息を婿に取り、二人の娘を産み、嫁に出し、亡くなると共にマクレガー家は終焉を迎えた。
他国でも起こることはあるが、エメラルダは特に子に係わる魔力の問題は現在でも解決しているとは言えない状況である。
魔力を持つ血筋の子は基本的には魔力を持って生まれ、特に歴史ある高位貴族は多い者が多い。
爵位がおおよその魔力を指すが、多い、少ないという場合もある。平民も魔力を持つ者、持たない者がおり、魔力の有無に係わらず、国に籍を持つ者は一歳になると必ず測る義務がある。
基本的に貴族は貴族同士で婚姻を結び、貴族と平民は婚姻は認められない。ただし、養子になったり、貴族から平民になるなど、合わせることが出来る組み合わせであれば婚姻も可能である。身分の差もあるが、魔力の差のためでもある。条件付きで特例で認める場合もある。
特に生命についてはシャーロットの力無しでは語れない。
生命の神とも呼ばれている。
♦
それから数百年後。
コルロンド子爵家にシルバーブロンドの髪に、アンバーの瞳を持つ女児が誕生した。名前はカサブランカ。
両親は待望の第一子だったにも関わらず、直感的に何か違うと感じ、注意深く観察し、家系図にマクレガー家の血筋があることも確認を取り、そういうことなのではないかという結論に辿り着いた。
赤子なのに言っていることを把握しているような顔、教えてもいない魔法を危うさもなく扱えること、代々の使用人だったこともあり、コルロンド家はカサブランカが自分で喋れるようになるまで、隠して育てることに一致団結した。
咎められることになれば、マクレガー家のように爵位返上もやむを得ないと覚悟した上での行動であった。
一歳の魔力測定は標準であったことで、これは先祖返りで間違いないだろうと判断して、育てることにした。
そしてきちんと喋れるようになり、両親は決死の覚悟で尋ねると、あっさり認め、しかも既に隠すように術まで掛けられており、いくら信頼の厚い使用人でも漏れなかったのはカサブランカのおかげ、そしてシャーロットによるものであった。
国王に謁見したカサブランカは、忠誠を誓う条件として、先祖返りだと公表しないことを約束させ、明かした者にも制約を掛け、発表されたのは没後であった。
カサブランカはシャーロット同様に魔術師となり、シャーロットの功績をさらに極め、シャーロット同様に魔術師の育成、さらに魔術具、魔道具、コルロンドが元々行っていた薬の開発にも力を入れた。
シャーロット・マクレガーと、カサブランカ・コルロンドの功績は王家が後ろ盾となり、コルロンド家が代々守ることが決まった。
カサブランカも婿を取り、二人の娘を産み、一人はコルロンドを継ぎ、一人は他家に嫁いだ。
それからも功績を活かしながら、エメラルダ王国は魔力に関して、閉鎖的な部分もあるが、成長を続けている。
加えて、全ての魔力、魔法、魔術・魔道具に対応する、どこの国にも属さない魔法省も設立された。国や魔術師や魔道具師が助けを求める場所ともされ、開発、教育に加え、罰する場ともなり、信頼できる機関となっている。
ですが、本日届いていた手紙を読み始めてから、表情は急変したのです。
『ふんふん、はぁ、ほお、ふーん、へえぇぇぇ』
内容は分かりませんが、へえのところで怒りが溜まったことに静かに目を瞑りました。腹に響くほどの恐ろしく低い声を出すことはありますが、我々に怒鳴り散らしたりするような方ではありません。それでも怒りは持ちます、鎮める手段を心得てらっしゃるだけです。
どうして、憂鬱なことばかりが起こるのでしょう。今度は何でしょうか。
先程までは新しいワインに小躍りしてらしたんですよ、その姿を微笑ましく見ていたのです。それなのに、ああほら、味わって飲むわと仰っていたのに、一気に飲み干されて、手酌で追加を注いでおります。グラスに注ぐだけでも良しとするところでしょう。何しろ五ダース購入してありますからね。
ああ、一緒に置いたクラッカーも凄まじい勢いで咀嚼しております。
シャクシャク、グビグビ、シャクシャク、グビグビ、シャク、シャクシャクシャク。ああ、また不愉快なことが書いてあるのでしょう。ああ、勢いが止まりません。
私は急いで酒蔵庫に追加を取りに行かねばなりません。ええ、五ダースありますからね。クラッカーも追加した方がいいかもしれませんね、ふふふ。
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安定しない日々が続いていたエメラルダ王国。
そこに生まれたのがシャーロット・マクレガー。ハニーブロンドの髪に、アンバーの瞳を持つ美しい女性であった。膨大な魔力を持ち、彼女は才能も有りながら、努力を怠らず知識と技術を磨き、魔術師になった。
「これは宿命なのだろう」
あまりの才能に皆は尊敬の意を込めて大魔術師と呼ぶ者もいたが、当人は大魔術師と呼ばれることを大変嫌っており、だったらお前は小魔術師と呼ばれたいかと聞かれて、誰も答えられなかったという。
生まれはマクレガー伯爵家であったが、シャーロットの功績に集る者が後を絶たず、家族の疲弊から、シャーロットはマクレガー家は私の没後、王家に返上すると発表した。王家も支持し、シャーロット以降、マクレガーを名乗ることも禁じた。
シャーロットは同じ魔術師で、友人でもあった、領地を持たない男爵令息を婿に取り、二人の娘を産み、嫁に出し、亡くなると共にマクレガー家は終焉を迎えた。
他国でも起こることはあるが、エメラルダは特に子に係わる魔力の問題は現在でも解決しているとは言えない状況である。
魔力を持つ血筋の子は基本的には魔力を持って生まれ、特に歴史ある高位貴族は多い者が多い。
爵位がおおよその魔力を指すが、多い、少ないという場合もある。平民も魔力を持つ者、持たない者がおり、魔力の有無に係わらず、国に籍を持つ者は一歳になると必ず測る義務がある。
基本的に貴族は貴族同士で婚姻を結び、貴族と平民は婚姻は認められない。ただし、養子になったり、貴族から平民になるなど、合わせることが出来る組み合わせであれば婚姻も可能である。身分の差もあるが、魔力の差のためでもある。条件付きで特例で認める場合もある。
特に生命についてはシャーロットの力無しでは語れない。
生命の神とも呼ばれている。
♦
それから数百年後。
コルロンド子爵家にシルバーブロンドの髪に、アンバーの瞳を持つ女児が誕生した。名前はカサブランカ。
両親は待望の第一子だったにも関わらず、直感的に何か違うと感じ、注意深く観察し、家系図にマクレガー家の血筋があることも確認を取り、そういうことなのではないかという結論に辿り着いた。
赤子なのに言っていることを把握しているような顔、教えてもいない魔法を危うさもなく扱えること、代々の使用人だったこともあり、コルロンド家はカサブランカが自分で喋れるようになるまで、隠して育てることに一致団結した。
咎められることになれば、マクレガー家のように爵位返上もやむを得ないと覚悟した上での行動であった。
一歳の魔力測定は標準であったことで、これは先祖返りで間違いないだろうと判断して、育てることにした。
そしてきちんと喋れるようになり、両親は決死の覚悟で尋ねると、あっさり認め、しかも既に隠すように術まで掛けられており、いくら信頼の厚い使用人でも漏れなかったのはカサブランカのおかげ、そしてシャーロットによるものであった。
国王に謁見したカサブランカは、忠誠を誓う条件として、先祖返りだと公表しないことを約束させ、明かした者にも制約を掛け、発表されたのは没後であった。
カサブランカはシャーロット同様に魔術師となり、シャーロットの功績をさらに極め、シャーロット同様に魔術師の育成、さらに魔術具、魔道具、コルロンドが元々行っていた薬の開発にも力を入れた。
シャーロット・マクレガーと、カサブランカ・コルロンドの功績は王家が後ろ盾となり、コルロンド家が代々守ることが決まった。
カサブランカも婿を取り、二人の娘を産み、一人はコルロンドを継ぎ、一人は他家に嫁いだ。
それからも功績を活かしながら、エメラルダ王国は魔力に関して、閉鎖的な部分もあるが、成長を続けている。
加えて、全ての魔力、魔法、魔術・魔道具に対応する、どこの国にも属さない魔法省も設立された。国や魔術師や魔道具師が助けを求める場所ともされ、開発、教育に加え、罰する場ともなり、信頼できる機関となっている。
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