【完結】あの子の代わり

野村にれ

文字の大きさ
上 下
52 / 73

お花畑だった家族の真実10

しおりを挟む
 両手を縛られたキャリーヌが連行され、両親の姿を見付けて叫んだが、絶望した両親はキャリーヌの顔を冷静に見れなかった。

「っ…キャリーヌ…」
「キャリーヌ…」

 キャリーヌを椅子に座らせて、国王夫妻が入室されると、一気に緊張感が高まった。キャリーヌもこのように近くで、国王夫妻を見るのは初めてである。

「国王陛下、誤解なんです!」
「黙れ、お前はマナーも出来ないことは分かっている。これ以上、罪が重たくなりたくなければ、話していいと言うまで黙っていろ」

 ミラビット公爵がキャリーヌを睨み付けて、言い放った。

「っな」
「重くしたいか?」

 キャリーヌは唇を噛み締めて、黙ることにした。

「キャリーヌ・ソアリは、私への虚偽により、偽証罪とする。実刑とし、オーバス侯爵家の慰謝料もあるそうだから、支払いが終わるまで労働刑とする」
「っな、お待ちください。私は病気で、労働なんて…無理です」

 黙れと言われたはずのキャリーヌは、ここぞとばかりに声を上げた。

「薬を服用すればいいと、ソアリ伯爵家の侍医からも聞いているが?」
「そ、それは…でも発作が出たら」
「発作が出たら、休めばいいだろう。薬は伯爵夫妻が用意するか、自分で働いたお金で支払いなさい。働かなければ刑は終わらぬぞ」
「え…」

 キャリーヌは、具合が悪いと言い続ければいいのではないかと思ったが、そうなれば刑が終わらないだけである。

「以上だ、何か質問はあるか?」
「…嫌です。私は両親を、家を守ろうと思って」
「だから、亡くなった姉を貶めてもいいと?」
「姉は、きっと喜んでくれると思います」
「そんなわけないだろう」

 王妃は陛下の怒鳴るわけでもなく、冷え冷えした声に、相当怒っていると思いながら、こんな家で過ごしていたら、まともな人間が、まともではない感覚になるのではないかと思った。だが、皆、ベルアンジュは穏やかだったという。

 死ぬことが怖くなかった、だから死期が迫っても、穏やかでいられたのかもしれない…そんな思いをさせていたなんて、私の責任でもあると、奥歯を噛み締めた。

「そんなこと、姉に聞いてみないと分からないじゃないですか」
「どうやって聞く?」
「私は妹だから、姉の気持ちが分かるから、そう思って書いただけなんです」
「お前は姉のことなら何でもわかるんだな?」
「勿論です」
「姉の亡くなった原因となった病名はなんだ?」
「…えっと、それは…」

 キャリーヌは思わず両親を見たが、両親は陛下に盾突くキャリーヌをこんなに愚かだったのかと、呆然しており、放心状態であった。

 キャリーヌにとって、国王陛下という名前の年上の男性という感覚しかなかった。

「何でも分かるというのも虚偽か?」
「えっと、それは…教えて貰っていなくて」
「興味もなく、聞く気もなかったのだろう?それが気持ちが分かる?喜んでくれる?ふざけるな!」
「っひぃぃ」

 殺気立つ陛下に、さすがのキャリーヌも、震え上がった。

「刑は明日には執行する」

 両陛下は蔑むような目で見つめた後で、部屋から出て行った。

 残されたのは、キャリーヌ、チェイス、ノーマ、連行して来た騎士たち、そしてミラビット公爵となった。

「お父様!お母様!どうして助けてくれないの!」

 両手を縛られているので、近付くことは出来ないので、大きな声で叫んだ。

「キャリーヌ…どうにもならない、きちんと罪を償いなさい」
「薬はしっかり服用するのよ」

 ノーマは何もしてやれないが、せめて薬だけは送ろうと思った。

「どうにかならないの!お金、お金を払えば…」
「お金を払って、どうにかなる話ではない」

 チェイスもノーマも、陛下から罰金ではなく、実刑となったことから、覆せるようなことではないことは理解している。

「そんな…でも払えば少しは…私は家のためにやったのよ!」
「親にまで嘘を付くな!男だろう!その男も、消えたがな」
「え…どういうことなの!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

夫の浮気相手と一緒に暮らすなんて無理です!

火野村志紀
恋愛
トゥーラ侯爵家の当主と結婚して幸せな夫婦生活を送っていたリリティーヌ。 しかしそんな日々も夫のエリオットの浮気によって終わりを告げる。 浮気相手は平民のレナ。 エリオットはレナとは半年前から関係を持っていたらしく、それを知ったリリティーヌは即座に離婚を決める。 エリオットはリリティーヌを本気で愛していると言って拒否する。その真剣な表情に、心が揺らぎそうになるリリティーヌ。 ところが次の瞬間、エリオットから衝撃の発言が。 「レナをこの屋敷に住まわせたいと思うんだ。いいよね……?」 ば、馬鹿野郎!!

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

愛は全てを解決しない

火野村志紀
恋愛
デセルバート男爵セザールは当主として重圧から逃れるために、愛する女性の手を取った。妻子や多くの使用人を残して。 それから十年後、セザールは自国に戻ってきた。高い地位に就いた彼は罪滅ぼしのため、妻子たちを援助しようと思ったのだ。 しかしデセルバート家は既に没落していた。 ※なろう様にも投稿中。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

殿下は地味令嬢に弱いようなので、婚約者の私は退散することにします

カレイ
恋愛
 王太子を婚約者に持つ公爵令嬢レベッカ・ドルセーヌは学園の裏庭に呼び出されていた。呼び出したのは地味令嬢と言われている侯爵令嬢クロエ。ビクビクと体を震わせながらクロエは大声で言った。 「こ、婚約者様なら、ア、アラン様にもっと親切にしてあげてください!アラン様は繊細なお方なんですぅ。それが出来ないのなら、アラン様とは別れてくださいっ」 「分かりました、別れます」  だって王太子も「この子は義母義姉に虐められているから優しくしてあげて」の一点張りだ。だったらいっそのこと、王太子が彼女を幸せにしてあげれば良いのだ。  王太子はその後レベッカを失いながらもクロエを守ろうと尽力する。しかし私なんかと言って努力しないクロエに、次第に違和感を覚え始めて…… ※の時は視点が変わります。

処理中です...