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猶予
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「申し訳ございません、支払えるお金がなく、もう少し待ってもらえませんか」
チェイスは、オーバス侯爵は王家ではなく、直接キャリーヌを訴えたことで、期間を延ばして貰おうと頭を下げに行った。
「はあ…いずれ払えるのか?」
「はい、何とかします」
「分かった、半年待ってやろう」
「あ、ありがとうございます」
オーバス侯爵はお金に困っているはずもなく、ふざけた女に制裁を加えたかっただけである。
「ただし、払えなかった場合は、本人に支払わせる。いいな?」
「はっ、はい、承知しました」
了承するしかないチェイスは、オーバス侯爵家を後にした。邸に戻ると、妻・ノーマが駆け寄って来た。住むところをなくすかもしれない瀬戸際であるため、待っていたのだろう。
「どうなったの?」
「半年、待ってくれるそうだ」
「そう…良かったわ、それまでにどうにかしましょう」
チェイスは一応、文官として働いてはいたが、事務方なので給料は多くない。ノーマも内職を始めていた。
「ただ、払えなかったらキャリーヌに払わせるようにと…訴えられたのはキャリーヌだからな」
「ええ、そうね」
「二人にも働いてもらわないと、払えない」
「でもキャリーヌは…」
「払えなかったら、どちらにせよ、無理やりにでも働くことになるだろう」
それならば、今働いて置いた方がいいというものだろう。
「キャリーヌ、オーバス侯爵に半年、支払いを待ってもらえることになった。もし、支払えなかったら、キャリーヌが一人で支払うことになる」
「何ですって!どうして私が!」
「訴えられたのはキャリーヌだ、それが待ってもらう条件だったんだ。出来そうな仕事をして、支払うしかないんだよ。分かってくれ」
「嫌よ!お父様が払ってよ!」
オーバス侯爵に関しては、チェイスもノーマも、ベントルも一切関係がない。
「もう支払うお金はないんだ…お前があんな真似をしなければ、払わなくて良かった金だ。それでも私もお母様も働くから、一緒に支払おう。でないと辛い労働に課せられることになるかもしれない、それは嫌だろう?」
「どうして、私が、私が働くって言うの?あり得ないわ」
キャリーヌは将来のことなど考えたことはないが、自分が働くことはないと思っていた。ルイフォードに嫁ぐつもりで、その後はアデュエルに結婚すれば、養ってもらえると思っていた。
「じゃあ、どうやって返すんだ?何もしなければ、半年なんてあっという間だぞ」
「分かったわよ」
「お金は使えないからな」
ふん!と言ってキャリーヌは部屋に戻って、ドレスは買って貰えそうにないので、不本意ではあるが持っているドレスでパーティーに参加することにした。
キャリーヌは、バスチャン伯爵に援助して貰っていたお金をまだ隠し持っており、そのお金を使って参加していた。だが、噂のことを知っている貴族は、姉が亡くなったというのに、噂は事実なのだと実感した。
さらにキャリーヌは、前の同じように令息や顔見知りの令嬢たちに、ベルアンジュを貶める発言まで行い始めた。
「私は病気だっていうのに、お姉様のせいで大変なんです」
「被害者ぶっちゃって、困っているんです」
「薬も変えるしかなくて、酷いと思いませんか」
いつも嫌悪していたが、若くして亡くなった姉へ使っていい言葉ではないことに、キャリーヌはおかしいと思っておらず、これで皆が同情してくれると、一方的に話しただけでも、満足していた。
相手にはされないのは、いつものことなので、変化にも気付きもしなかった。
そして、リランダ医師のNN病の論文で、ベルアンジュ・マリクワンへの治験結果が発表されて、NN病で亡くなったことが、ようやく世間にも明かされた。
チェイスは、オーバス侯爵は王家ではなく、直接キャリーヌを訴えたことで、期間を延ばして貰おうと頭を下げに行った。
「はあ…いずれ払えるのか?」
「はい、何とかします」
「分かった、半年待ってやろう」
「あ、ありがとうございます」
オーバス侯爵はお金に困っているはずもなく、ふざけた女に制裁を加えたかっただけである。
「ただし、払えなかった場合は、本人に支払わせる。いいな?」
「はっ、はい、承知しました」
了承するしかないチェイスは、オーバス侯爵家を後にした。邸に戻ると、妻・ノーマが駆け寄って来た。住むところをなくすかもしれない瀬戸際であるため、待っていたのだろう。
「どうなったの?」
「半年、待ってくれるそうだ」
「そう…良かったわ、それまでにどうにかしましょう」
チェイスは一応、文官として働いてはいたが、事務方なので給料は多くない。ノーマも内職を始めていた。
「ただ、払えなかったらキャリーヌに払わせるようにと…訴えられたのはキャリーヌだからな」
「ええ、そうね」
「二人にも働いてもらわないと、払えない」
「でもキャリーヌは…」
「払えなかったら、どちらにせよ、無理やりにでも働くことになるだろう」
それならば、今働いて置いた方がいいというものだろう。
「キャリーヌ、オーバス侯爵に半年、支払いを待ってもらえることになった。もし、支払えなかったら、キャリーヌが一人で支払うことになる」
「何ですって!どうして私が!」
「訴えられたのはキャリーヌだ、それが待ってもらう条件だったんだ。出来そうな仕事をして、支払うしかないんだよ。分かってくれ」
「嫌よ!お父様が払ってよ!」
オーバス侯爵に関しては、チェイスもノーマも、ベントルも一切関係がない。
「もう支払うお金はないんだ…お前があんな真似をしなければ、払わなくて良かった金だ。それでも私もお母様も働くから、一緒に支払おう。でないと辛い労働に課せられることになるかもしれない、それは嫌だろう?」
「どうして、私が、私が働くって言うの?あり得ないわ」
キャリーヌは将来のことなど考えたことはないが、自分が働くことはないと思っていた。ルイフォードに嫁ぐつもりで、その後はアデュエルに結婚すれば、養ってもらえると思っていた。
「じゃあ、どうやって返すんだ?何もしなければ、半年なんてあっという間だぞ」
「分かったわよ」
「お金は使えないからな」
ふん!と言ってキャリーヌは部屋に戻って、ドレスは買って貰えそうにないので、不本意ではあるが持っているドレスでパーティーに参加することにした。
キャリーヌは、バスチャン伯爵に援助して貰っていたお金をまだ隠し持っており、そのお金を使って参加していた。だが、噂のことを知っている貴族は、姉が亡くなったというのに、噂は事実なのだと実感した。
さらにキャリーヌは、前の同じように令息や顔見知りの令嬢たちに、ベルアンジュを貶める発言まで行い始めた。
「私は病気だっていうのに、お姉様のせいで大変なんです」
「被害者ぶっちゃって、困っているんです」
「薬も変えるしかなくて、酷いと思いませんか」
いつも嫌悪していたが、若くして亡くなった姉へ使っていい言葉ではないことに、キャリーヌはおかしいと思っておらず、これで皆が同情してくれると、一方的に話しただけでも、満足していた。
相手にはされないのは、いつものことなので、変化にも気付きもしなかった。
そして、リランダ医師のNN病の論文で、ベルアンジュ・マリクワンへの治験結果が発表されて、NN病で亡くなったことが、ようやく世間にも明かされた。
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