【完結】あの子の代わり

野村にれ

文字の大きさ
上 下
34 / 73

お花畑にいられなくなる家族

しおりを挟む
 糾弾された後、邸に戻ったソアリ伯爵家の面々は、キャリーヌを責めていた。

「キャリーヌはどういうことなの!」
「ちゃんと話しなさい」
「ルイフォード様に会っていたのではないのか?」
「…」

 皆、ルイフォードにこっそり会っているのだろうと思っていた。だからこそ、何をしているのだと責めることはなかったと言える。

「男爵家の男と会っていたって言うの?」
「そんな男のために金を渡していたんじゃないぞ」
「ベルアンジュも死ぬなら言えよ…はあ」

 娘が妹が姉が亡くなったと知らされて、亡骸も見たはずなのに、使える駒がなくなったくらいで、変わることはなかった。

 ソアリ伯爵家では、キャリーヌに優しくするのは、病気だからで、それがとても良いことだと、皆で助け合っているのだと思っていた。

「ベルアンジュへの虐待に、マリクワン侯爵家への詐欺行為、名誉棄損って言ってたよな?これからどうなるんだよ…」

 急に冷静になったのは、ベントルであった。

「きっと、大丈夫よ」
「俺は知らないからな、手紙など書いていない。書いていたのは父上とキャリーヌだろう」

 その言葉にノーマもビクッとした。

「母上も書いていたのか?」
「それは…その、マリクワン侯爵家ならお金が沢山あるでしょう?だから、その…」

 ベントルはキャリーヌを優先はしていたが、ベルアンジュにお金を持って来いなどという考えは持っていなかった。

 ショックで何も話さないキャリーヌに、皆は休むことにしたが、その早朝にキャリーヌはアデュエルに会いに飛び出していた。

 翌朝、キャリーヌがいないことに気付き、ベルアンジュの葬儀はすっかり忘れ去られてしまった。

 男爵家に行ったのだろうと調べて迎えに行ったが、アデュエルはいないと言われて、そうなればキャリーヌもいるはずがない。

 アデュエルはふらふらしているので、約束でもしなければ、なかなか会うことは出来ない。

 キャリーヌも来週は一週間はホテルにいると言われて、そこへ訪ねていた。キャリーヌはアデュエルを探し回ったが、見付けることは出来なかった。

 そして、キャリーヌは本当はアデュエルと共にお願いに行くつもりだった、オーバス侯爵家にも向かった。

「アデュエルを認めてあげてください。縁を切っても家族は家族でしょう?」
「アデュエルが言ったのか?」
「いえ、でも家族は優しくするべきです。彼には居場所が必要なんです」

 たまたま出掛ける侯爵と話すことは出来たが、鼻で笑われただけで、去って行かれてしまった。

 キャリーヌは結局、アデュエルを見付けられないまま、ソアリ伯爵家に戻るしかなかった。

「どこへ行っていたんだ!」
「アデュエルを探していたの!」
「探してどうする!男爵家に嫁に行くのか?嫡男ですらないだろう」
「オーバス侯爵家だって言っているでしょう!」
「縁切りをされているんだろう?」

 皆、アデュエルのことを詳しくは知らないが、縁切りをしているのならば、関係ない存在であることくらいは理解している。

「それでも家族なら認めて、家族は助け合うべきでしょう?」
「それはそうだが…縁切りをされているのならば、強い理由があるはずだ。侯爵家に嫁ぐなど出来るはずがない」
「戻してもらえばいいじゃない」
「そんなことはまずあり得ない。継ぐ者が誰もいなくなっても、縁者から選ばれるだろうからな。縁切りとはそういうものだ」

 縁切りを戻すというのは、罪を犯して、実は冤罪だったという理由くらいしかない。罪を犯したようなことはさすがに聞いたことがないため、冤罪も何もない。

「そんな…じゃあ…」
「オーバス侯爵家に戻るなんてことはない」
「騙されたのよ、酷い男ね」

 騙されたわけではないことは分かっているキャリーヌは、何も言えなくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

夫の浮気相手と一緒に暮らすなんて無理です!

火野村志紀
恋愛
トゥーラ侯爵家の当主と結婚して幸せな夫婦生活を送っていたリリティーヌ。 しかしそんな日々も夫のエリオットの浮気によって終わりを告げる。 浮気相手は平民のレナ。 エリオットはレナとは半年前から関係を持っていたらしく、それを知ったリリティーヌは即座に離婚を決める。 エリオットはリリティーヌを本気で愛していると言って拒否する。その真剣な表情に、心が揺らぎそうになるリリティーヌ。 ところが次の瞬間、エリオットから衝撃の発言が。 「レナをこの屋敷に住まわせたいと思うんだ。いいよね……?」 ば、馬鹿野郎!!

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

愛は全てを解決しない

火野村志紀
恋愛
デセルバート男爵セザールは当主として重圧から逃れるために、愛する女性の手を取った。妻子や多くの使用人を残して。 それから十年後、セザールは自国に戻ってきた。高い地位に就いた彼は罪滅ぼしのため、妻子たちを援助しようと思ったのだ。 しかしデセルバート家は既に没落していた。 ※なろう様にも投稿中。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

殿下は地味令嬢に弱いようなので、婚約者の私は退散することにします

カレイ
恋愛
 王太子を婚約者に持つ公爵令嬢レベッカ・ドルセーヌは学園の裏庭に呼び出されていた。呼び出したのは地味令嬢と言われている侯爵令嬢クロエ。ビクビクと体を震わせながらクロエは大声で言った。 「こ、婚約者様なら、ア、アラン様にもっと親切にしてあげてください!アラン様は繊細なお方なんですぅ。それが出来ないのなら、アラン様とは別れてくださいっ」 「分かりました、別れます」  だって王太子も「この子は義母義姉に虐められているから優しくしてあげて」の一点張りだ。だったらいっそのこと、王太子が彼女を幸せにしてあげれば良いのだ。  王太子はその後レベッカを失いながらもクロエを守ろうと尽力する。しかし私なんかと言って努力しないクロエに、次第に違和感を覚え始めて…… ※の時は視点が変わります。

処理中です...