【完結】あの子の代わり

未来への提案

「留学として、彼の国に行くのがいいだろうが、御父上が許すかどうかだな」
「そうなればいいですけど、まずはベルアンジュに同意を得なければなりません」
「そうだな、私もベルアンジュ次第で、両親に掛け合う」

　その言葉にルイフォードも、望んでいることを実感した。

　ベルーナはベルアンジュの部屋に行き、二人で話すことにした。ルイフォードがいたら、きっとベルアンジュは良くも悪くも気を遣うだろうと思ったからだ。

「まあ、また来てくれたの？メイアン嬢は？」
「今日は乳母に看て貰っているわ」
「そうなの…会いたかったわ」

　この前より随分、顔色は良くなっていたが、まだベットからは出られないらしい。

「ベルアンジュにお願いがあるの」
「何かしら？私に出来ることなら、何でも言って頂戴」
「こんなことを言うのは、本当に苦しいのだけど」

　その言葉にベルアンジュは、自分の死に関することなのだと察した。

「何でも言って、悲しいことなんてないわ」
「ベルアンジュとルイフォード様の子どもを私に産ませて欲しいの」
「は？」

　予想外の言葉に、思わず間抜けな声が出た。

「体外受精って分かる？それで、私が産むの」
「待って、体外受精は本で読んだだけだけど、卵子と精子を受精させて、子宮に戻すのよね？」
「そうね」
「何でもしてあげたいけど、それは流石に了承は出来ないわ」
「私はルイフォード様に恩があるの。あなたのおかげで返せると思ったけど…悲しいし、辛いけど、出来そうもないでしょう」

　ベルアンジュも病気について言われれば、何も出来ない以上、黙って聞くしかなかった。

「だから、二人の子どもを産みたいの」
「ベルーナにも、マリクワン侯爵令息様にも、未来があるのよ？私の子どもを産む必要なんてないわ」
「詳しいことはルイフォード様から聞いて欲しいのだけど、彼に未来を与えて欲しいの。私もベルアンジュをまだまだ感じていたいの。だからお願いよ」

　ベルアンジュがいなくなった後、二人の子どもがいれば、私も救われる。きっと悲しみを乗り越えられる、後悔したくない。

「幸せになれるはずないわ」
「そんなことはないわ、彼は絶対に大事にするわ。両親がいるからって幸せではないことはあなたも、私もルイフォード様も知っているでしょう？」
「彼も？」
「そうよ、ルイフォード様からも話を聞いて貰える？」
「分かったわ」

　ベルーナはルイフォードを呼びに行き、ベルアンジュは困惑していた。ベルーナのため、ルイフォードにも出来ることがあればしようと思っていたが、想定外だった。

　皆、私の死に感傷的になり過ぎている。

「ベルアンジュ…」
「あなたも賛成なのですか？冷静になるべきです」
「分かっている、でもベルアンジュの子どもなら、会ってみたいと思った…」
「あなたは生きれる方と結婚するべきです」
「出来ない…ベルアンジュでないと嫌なんだ」

　ルイフォードは顔を下に向けて、膝に置いた拳を強く握った。

「確かに人の死は辛いと思います。でも過剰になり過ぎてはなりません。子どもはモノではないのですよ？」
「私の両親は子どもはモノだった…酷い扱いをされた訳ではないが、後継者というモノだった。君との未来がないなら、後継者は降りようと思っていた」
「そんな…」

　ベルアンジュは最初から病気のことを、話すべきだったと後悔していた。

「本気だよ、ずっと考えていた。私は従姉に襲われそうになってから、女性が苦手だったんだ…ベルーナ嬢は距離を取ってくれて、私に好意がないことから、今でも付き合えている」
「でも私は…何もしていません」
「私は熱心に勉強するベルアンジュの姿に、惹かれたんだ。お辞儀をしてくれただけでも嬉しかった。初恋なんだ…」

　図書館での出来事だと思うが、お辞儀と言われても、ベルアンジュは全く思い出せなかったが、それほど些細な事だった。