【完結】あの子の代わり

野村にれ

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未来のない婚約者

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「あなたが手紙に書いていたことは事実なのですね?」
「どのことだい?」
「私が戻って来るまでの時間稼ぎをしていたと…」
「ああ、ベルアンジュはそのつもりだったらしい」
「そんな…」

 まさかそんな思いでいたなど知らなかった。言いたくはないが、意味のない侯爵家で教育を受けて、大事な残された時間を奪ってしまったようなものだ。

「ベルーナ嬢はベルアンジュに足を向けて眠れないと、事実を話したんだ」
「その通りです…彼に聞いたら、気付くのは難しい病気だと、専門医に診て貰っているのですよね?」

 ルイフォードもベルーナの相手は知っており、謝罪をするために会ってもいる。

「ああ、元々NN病の専門医に診て貰い、今はこちらに来て貰っている」
「そうですか…」

 必ず専門医に診て貰うべきだと書かれていたが、ルイフォードが専門医を手配していないはずがないと思っていた。

 既に万全の態勢で、今の状態なのだ。

「貧血なのですよね?」
「ああ、薬の副作用でね。これから薬も増えるから、貧血も増えてしまうそうだ」
「じゃあ、ベットのままなのですか?」
「状態が落ち着けば、そうではないのだが、また倒れてしまうかもしれない」
「そういうことでしたか…」

 大袈裟だとは思っていなかったが、深刻さは痛いほど感じた。

「あなたは、どうするつもりなのですか?」
「…」
「ベルアンジュと結婚して?いえ、誰とも結婚しないつもりですか?」
「ようやくだったんだ、なのに」
「分かっていますわ」
「パーソナルスペースに入って、不快でないのはベルアンジュだけなのでしょう?」
「ああ…」

 ルイフォードは爵位や見た目のことで、女性に群がられることも多かった。

 それだけだったら良かったが、13歳の頃、使用人を買収して、従姉に襲われそうになったことが決定打になり、女性が苦手となった。

 ベルーナはそのこと見抜き、友人として付き合うことにした。知らない女性にパーソナルスペースに入られることに、堪らなく不快感があると、打ち明けてもくれた。

 だからベルーナも距離を取り、周りから見れば、あまり仲睦まじい姿ではなかったとは思うが、それでも他の女性のような不快感はなくなったと言っていた。

 だが、ベルーナには好きな人が出来た。それでも婚約者がいるからと気持ちは抑えていたが、ルイフォードが図書館に通っていると聞き、見つめている相手がまさかベルアンジュだとは思わなかった。

 目の悪いベルアンジュは、ルイフォードには気付いていなかったのだろう。

「私だって、来てはいけないと分かっていながら、居ても立っても居られなくて来たのです。誰のせいでもないことです…」
「彼女は何のために、死ななければならない…」

 ベルーナはその言葉に何も言えなかった。

「毎日、悲観する様子もない。死にたくないと泣くこともなく、受け入れたんじゃないか…」
「でも時間は刻一刻と迫っているのでしょう?」
「そんなことは分かっている!」
「何かやりたいことと言っても、限られますわよね…」
「何もないと言うんだ…」
「え?」
「もうやりたいことなどないと、最後のベルーナのためになれるのなら、それで良かったと」

 ベルーナは私に泣く資格はないと、堪えていた涙が、真っ直ぐ流れていた。

「私にそんな価値ないわ」
「君が自分のことを気にしてくれていることが、嬉しいとも言っていた」

 さらに涙が流れ出し、胸までも苦しくなった。

「婚約も解消して欲しいと言われたが、ここに居れなくなるからと説得して、了承してくれた。こんな私にまだ出来ることがあるならという気持ちなのだろうな…眠るのがこんなに怖いなんて知らなかった」
「ルイフォード様…」

 二人の未来に何か出来ることはないかと、ベルーナは考えるようになった。
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