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もう二度と
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アデルはミファラという女性が産みの母親であること。そして、捨てたのではなく、番に選ばれて、離れるしかなかったときちんと聞かされていた。
そして、彼の選択は会いたいということだった。
残された時間は少ないことから、すぐに会いに来てくれることになった。それでも王都までは3日は掛かる。
どうかミファラの体が持って欲しい、自分のことよりも、アデルのことを考えられている自分に、シュアンはホッとした。
結局、シュアンは謝罪をさせて貰っていない。これがおそらく最後のチャンスになる。誠心誠意、ミファラを奪った謝罪をしなくてはならない。
だが、ミファラはアデルが向かっている最中の夜に苦しみ出した。
すぐに侍医・カールを呼び、心臓マッサージを行ったが、ミファラの心臓は再開してくれない状態に陥った。
アークスも騒ぎにどうしたのかとやって来て、ただならぬ状況を察した。これが最期になるならとシュアンは叫んだ。
「アークス、彼女は君を産んだ人だ!」
「え?」
「事情は後で話す。瞳の色、髪質、手なんてそっくりだ…」
もうシュアンは溢れ出る涙を抑えられず、視界が見えなくなっていた。ぼやけたまま、シュアンは話し続けた。
「こんな人生を送る人ではなかった、温かい人生を私が奪ってしまった」
「お父様の番なのですね?」
「そうだ、夫も子どももいた…私が捨てさせてしまった」
「子どもも?」
まさか自分にきょうだいがいるなんて想像もしていなかった。母が亡くなっていることから諦めていたが、きょうだいがいるのか。
「息子がいる、生後半年で離れ離れにさせてしまった。それから会っていない」
「どうして?」
「会わせて貰えないんだ…彼女は男爵令嬢だったが、同じ男爵家の令息と平民として暮らしていた。公爵など恐ろしい存在なのだ…」
「そんな…」
「今、こちらに向かっている。会わせたやりたかった…」
「今?どうして…」
「アークスの母親になれなかったのも、彼女のせいではなく、私のせいだ。恨むなら、私を恨んで欲しい」
アークスは驚いたが、夫も子どももいる状態で、父から番だと言われて、ミファラはここにいたのだと分かった。ミファラを見ると、どこか儚い気持ちになるのは、そのせいだったのだと思った。
見た目が似ていないせいもあって、母だと思ったこともなかった。父が家族を救えなかったかして、ここにいるのではないかと思っていた。
母がいるならば会ってみたかった。何度か父に聞いたことはあったが、優しい、子どもの好きな女性だったと聞かされていた。その口振りに嘘はなかった。だって、父は誰かを思い出しながら、本当に嬉しそうな顔をして、話していたから。
この人が優しい、子どもの好きな女性だったのだと繋がった。
「お母様!お母様!起きてください、お母様!お兄様も向かっています」
その姿に、シュアンも、執事も使用人も涙が堪えられなかった。
「私は挨拶しかしていません、目を開けたあなたの顔を、しっかりと近くで見たこともないんです」
シュアンはすまない、すまないと横で涙を流し続けた。
「お願いです!何でもいい、話がしたい」
カールは心臓マッサージを続けていたが、ミファラの心臓が再開することはなく、永遠の眠りについた。まだ33歳だった。
死後の処置をされ、もう二度と目を開けないミファラを前に、シュアンはアークスに経緯を包み隠さず、全てを話した。
「どうして早く…」
「死なれるのが怖かった…すまなかった」
アデルは明日には着く予定だった。ミファラはまるでアデルがやって来るのを分かっていたかのようだった。
そして、彼の選択は会いたいということだった。
残された時間は少ないことから、すぐに会いに来てくれることになった。それでも王都までは3日は掛かる。
どうかミファラの体が持って欲しい、自分のことよりも、アデルのことを考えられている自分に、シュアンはホッとした。
結局、シュアンは謝罪をさせて貰っていない。これがおそらく最後のチャンスになる。誠心誠意、ミファラを奪った謝罪をしなくてはならない。
だが、ミファラはアデルが向かっている最中の夜に苦しみ出した。
すぐに侍医・カールを呼び、心臓マッサージを行ったが、ミファラの心臓は再開してくれない状態に陥った。
アークスも騒ぎにどうしたのかとやって来て、ただならぬ状況を察した。これが最期になるならとシュアンは叫んだ。
「アークス、彼女は君を産んだ人だ!」
「え?」
「事情は後で話す。瞳の色、髪質、手なんてそっくりだ…」
もうシュアンは溢れ出る涙を抑えられず、視界が見えなくなっていた。ぼやけたまま、シュアンは話し続けた。
「こんな人生を送る人ではなかった、温かい人生を私が奪ってしまった」
「お父様の番なのですね?」
「そうだ、夫も子どももいた…私が捨てさせてしまった」
「子どもも?」
まさか自分にきょうだいがいるなんて想像もしていなかった。母が亡くなっていることから諦めていたが、きょうだいがいるのか。
「息子がいる、生後半年で離れ離れにさせてしまった。それから会っていない」
「どうして?」
「会わせて貰えないんだ…彼女は男爵令嬢だったが、同じ男爵家の令息と平民として暮らしていた。公爵など恐ろしい存在なのだ…」
「そんな…」
「今、こちらに向かっている。会わせたやりたかった…」
「今?どうして…」
「アークスの母親になれなかったのも、彼女のせいではなく、私のせいだ。恨むなら、私を恨んで欲しい」
アークスは驚いたが、夫も子どももいる状態で、父から番だと言われて、ミファラはここにいたのだと分かった。ミファラを見ると、どこか儚い気持ちになるのは、そのせいだったのだと思った。
見た目が似ていないせいもあって、母だと思ったこともなかった。父が家族を救えなかったかして、ここにいるのではないかと思っていた。
母がいるならば会ってみたかった。何度か父に聞いたことはあったが、優しい、子どもの好きな女性だったと聞かされていた。その口振りに嘘はなかった。だって、父は誰かを思い出しながら、本当に嬉しそうな顔をして、話していたから。
この人が優しい、子どもの好きな女性だったのだと繋がった。
「お母様!お母様!起きてください、お母様!お兄様も向かっています」
その姿に、シュアンも、執事も使用人も涙が堪えられなかった。
「私は挨拶しかしていません、目を開けたあなたの顔を、しっかりと近くで見たこともないんです」
シュアンはすまない、すまないと横で涙を流し続けた。
「お願いです!何でもいい、話がしたい」
カールは心臓マッサージを続けていたが、ミファラの心臓が再開することはなく、永遠の眠りについた。まだ33歳だった。
死後の処置をされ、もう二度と目を開けないミファラを前に、シュアンはアークスに経緯を包み隠さず、全てを話した。
「どうして早く…」
「死なれるのが怖かった…すまなかった」
アデルは明日には着く予定だった。ミファラはまるでアデルがやって来るのを分かっていたかのようだった。
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