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もう二度と

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 シュアンは絶望したまま、邸に戻り、呼吸困難を予防するための薬を服用させるようにカールに話した。

「侍医のところへ行かれたのですか」
「ああ、詳しく聞きたかったからな」
「さようでしたか…」
「きちんと服用したか、見て置いてくれ」
「承知しました」

 使用人たちに怒りがなかったといえば嘘になるが、今さら言っても仕方ない。何か言ったせいで、ミファラに当たられたら堪らないからでもあった。

 時間があまりないかもしれないという言葉がシュアンの胸を、強く痛め付けた。

 ミファラの僅かでも姿を見れるだけで、安心した。その姿さえも失われてしまうことは恐怖で、足元が揺れているような感覚だった。

 シャツのボタンが上手く外せずに、手も震えていることに気付いた。

 アークスのことも、考えなくてはいけない。母親とは言えなくても、記憶に残るような思い出を残してやるべきなのだろうか。

 そう考えるということは、ミファラの死を認めているようで苦しくなる、頭も心も混乱していた。

 アークスには考えていた通りに、6歳になった頃に伝えた。

 父親は私だが、母親は既に亡くなっていて、養子となったと説明をしている。ミファラと違って、表に出るアークスがシュアンに似ていることで、周りにも気付かれることは明白だったからだ。

 瞳の色、髪質、手などはミファラに似ていたが、ミファラをほとんどの者が見たことがないために、判断が出来ない。知っている者でも一見しただけでは分からない。

 だが、番だと知っている者は口には出さなくとも、そうではないかと思っているだろう。無理があるのは分かっているが、認めなければいい。

 アークスにミファラのことは形式上愛人のような立場になっているが、私のせいで辛い思いをし、世話をさせて欲しいと居て貰ってる、大事な人だと話してある。

 さすがに10歳にもなれば、理解はしていると思うが、ミファラに近付くことはなく、特に何も言っては来ない。

 友人はグルズの子どもたちくらいなので、世間に出たら、辛い思いをするかもしれない。全て私の責任で、この家を継ぎたくないと言えば、それいいと思っている。アークスの思うように生きればいい。

 酷い父親だが、今はミファラだ。診断も間違いである可能性、薬の効果で、このまま生きてくれることだってある。でも信じて、後悔することも怖い。

 答えを知っているのはミファラだろう。認めないかもしれないが、それでもいい。

「具合はどうだい?」
「もう大丈夫です」

 そう答えた表情は、確かに穏やかだった。それが事実を突き付けられたようで、私も胸が苦しくなった。

「どこか痛むようなことはないか?」
「ありません」
「そうか…それなら良かった。呼吸困難を予防する薬を貰ったから、服用するようにしてくれるか?」
「予防するほどではないですよ」
「それでも、心配なんだ。頼む」
「分かりました」

 何かしたいことはないかと口に出しそうになったが、ギリギリのところで踏み止まった。今はまだ言いたくない、きっと彼女もそう望んでいるだろう。

 私は彼女の望みを叶えなければならない。

 名前もあのバケモノと拒絶された日から、一度も呼んだことはない。

 その後はミファラはきちんと薬を服用してくれて、ホッとした。使用人は声を掛ける度にビクビクしており、何か言われるのではないかと思っている様子だったが、責めても時間が戻るわけではない。

 そして、侍医の診断は確かだった。体のだるさがあるようで、ベットで休んでいることも多く、呼吸困難に加え、胸の痛みも現れ始めていた。

 酷く苦しそうで、安静にしていることくらいしか出来ることはもうなかった。

「君は、自分が永くないと思っていたのだな?」
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