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もう二度と
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「私も力になる、外部にもいた方がいいだろう?」
「そうですよ、ミファラ様のお顔はあまり知られていないので、大丈夫だとは思いますが、これから大きくなって、何があるか分かりませんよ?」
「そうだ!」
「そうかもしれないな…責任を負わなくてはとばかり思っていた。ありがとう」
グルズとレーリアも、力強く頷いた。
「アークス様には、どうお話するつもりなのですか?」
「似て来なければ、養子で通そうと思っていたのですが、父親は私だが、母親は亡くなったとする方が良いと思っています。彼女は私の愛人だと話そうと思っています」
「愛人を住まわせていると思われることになるのはいいのか」
妻もおらず、母親もおらず、愛人だけがいることになってしまう。幼い頃はいいが、思春期になれば、シュアンが不誠実に見えるのではないかと思った。
「私はどう思われても構わない。大切な人なのだと、きちんと話す」
「それが良いですね、今はお部屋ですか?」
「ええ、アークスを視界に入れることを避けているようです。おそらく逆も然り」
「そうか…」「そうですか」
グルズはアークスの姿に、頭に血が上ってしまったが、ミファラはアデルの母親とも名乗れず、こちらもアークスの母親だとは名乗らない、二人も息子がいるのに、複雑だろうと、ようやく落ち着いて考えることが出来るようになった。
ただ、アークスは両親と一緒に暮らしているのに、父親と、父親の愛人と暮らしていることになる。それをどう思うかになるだろう。
「何かあったらアークスは家で預かってもいい。なあ、レーリア」
「ええ、いつでも預かります」
「ありがとう、家出の先は頼むよ」
シュアンも大きくなって、歪な関係に上手くいかなくなる場合も、あるかもしれないと考えていた。
「ああ、任せとけ」
二人はもう一度、アークスに会って、帰って行った。
その後、ミファラと距離は出来たままだが、アークスの話す言葉も増えて、アークスを中心に邸は明るくなっていった。
グルズの邸に連れて行って、グルズの子どもたちとも遊ぶこともあった。
養子を取ったことで、母親が必要だろうと娘や未亡人を紹介されたこともあったが、マデラース・デル子爵令嬢やパズラー元伯爵のように入り込ませないために、きちんと必要ないと強く否定し続けていると、皆諦めたようだった。
結局、パズラー伯爵家は、遠縁に爵位を譲る条件で、借金を肩代わりして貰い、元伯爵は伯爵領で細々と暮らしている。
あの後も、何度か邸にやって来ていたが、相手にすることはなかった。そのせいで、ミファラの生家を脅そうとしていたようだが、事前に阻止した。
ミファラはほとんど部屋から出て来なくなった。アークスの視界に入れない、入らないようにすることは勿論、聞こえて来る赤子の鳴き声にフラッシュバックを起こしていたが、あれは知らない子だと、どうにかお酒で誤魔化し続けた。
酒の量はアークスが邸の中心になれば、なるほど増えていた。
使用人も嫡男であるアークスが生まれたことで安堵していたが、慣れて来ると、全く関わらないミファラを信じられないという思いを抱く者も出始めるようになった。
そして、ミファラへの扱いは最低限のことはするが、前の様に過敏ではなり、ぞんざいになっていっていた。ミファラも世話をして欲しいわけではないので、表向きは問題はなかった。
問題はなかったが、問題に気付くことも出来なくなっていた。
シュアンは毎日、特に変わったことはないと聞いていた。
そして、気付いた時にはミファラは部屋で呼吸困難になって、蹲っていた。しかも、ぞんざいになっていたので、気付いたのは随分経ってからであった。
「そうですよ、ミファラ様のお顔はあまり知られていないので、大丈夫だとは思いますが、これから大きくなって、何があるか分かりませんよ?」
「そうだ!」
「そうかもしれないな…責任を負わなくてはとばかり思っていた。ありがとう」
グルズとレーリアも、力強く頷いた。
「アークス様には、どうお話するつもりなのですか?」
「似て来なければ、養子で通そうと思っていたのですが、父親は私だが、母親は亡くなったとする方が良いと思っています。彼女は私の愛人だと話そうと思っています」
「愛人を住まわせていると思われることになるのはいいのか」
妻もおらず、母親もおらず、愛人だけがいることになってしまう。幼い頃はいいが、思春期になれば、シュアンが不誠実に見えるのではないかと思った。
「私はどう思われても構わない。大切な人なのだと、きちんと話す」
「それが良いですね、今はお部屋ですか?」
「ええ、アークスを視界に入れることを避けているようです。おそらく逆も然り」
「そうか…」「そうですか」
グルズはアークスの姿に、頭に血が上ってしまったが、ミファラはアデルの母親とも名乗れず、こちらもアークスの母親だとは名乗らない、二人も息子がいるのに、複雑だろうと、ようやく落ち着いて考えることが出来るようになった。
ただ、アークスは両親と一緒に暮らしているのに、父親と、父親の愛人と暮らしていることになる。それをどう思うかになるだろう。
「何かあったらアークスは家で預かってもいい。なあ、レーリア」
「ええ、いつでも預かります」
「ありがとう、家出の先は頼むよ」
シュアンも大きくなって、歪な関係に上手くいかなくなる場合も、あるかもしれないと考えていた。
「ああ、任せとけ」
二人はもう一度、アークスに会って、帰って行った。
その後、ミファラと距離は出来たままだが、アークスの話す言葉も増えて、アークスを中心に邸は明るくなっていった。
グルズの邸に連れて行って、グルズの子どもたちとも遊ぶこともあった。
養子を取ったことで、母親が必要だろうと娘や未亡人を紹介されたこともあったが、マデラース・デル子爵令嬢やパズラー元伯爵のように入り込ませないために、きちんと必要ないと強く否定し続けていると、皆諦めたようだった。
結局、パズラー伯爵家は、遠縁に爵位を譲る条件で、借金を肩代わりして貰い、元伯爵は伯爵領で細々と暮らしている。
あの後も、何度か邸にやって来ていたが、相手にすることはなかった。そのせいで、ミファラの生家を脅そうとしていたようだが、事前に阻止した。
ミファラはほとんど部屋から出て来なくなった。アークスの視界に入れない、入らないようにすることは勿論、聞こえて来る赤子の鳴き声にフラッシュバックを起こしていたが、あれは知らない子だと、どうにかお酒で誤魔化し続けた。
酒の量はアークスが邸の中心になれば、なるほど増えていた。
使用人も嫡男であるアークスが生まれたことで安堵していたが、慣れて来ると、全く関わらないミファラを信じられないという思いを抱く者も出始めるようになった。
そして、ミファラへの扱いは最低限のことはするが、前の様に過敏ではなり、ぞんざいになっていっていた。ミファラも世話をして欲しいわけではないので、表向きは問題はなかった。
問題はなかったが、問題に気付くことも出来なくなっていた。
シュアンは毎日、特に変わったことはないと聞いていた。
そして、気付いた時にはミファラは部屋で呼吸困難になって、蹲っていた。しかも、ぞんざいになっていたので、気付いたのは随分経ってからであった。
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