上 下
87 / 103
もう二度と

28

しおりを挟む
「私も力になる、外部にもいた方がいいだろう?」
「そうですよ、ミファラ様のお顔はあまり知られていないので、大丈夫だとは思いますが、これから大きくなって、何があるか分かりませんよ?」
「そうだ!」
「そうかもしれないな…責任を負わなくてはとばかり思っていた。ありがとう」

 グルズとレーリアも、力強く頷いた。

「アークス様には、どうお話するつもりなのですか?」
「似て来なければ、養子で通そうと思っていたのですが、父親は私だが、母親は亡くなったとする方が良いと思っています。彼女は私の愛人だと話そうと思っています」
「愛人を住まわせていると思われることになるのはいいのか」

 妻もおらず、母親もおらず、愛人だけがいることになってしまう。幼い頃はいいが、思春期になれば、シュアンが不誠実に見えるのではないかと思った。

「私はどう思われても構わない。大切な人なのだと、きちんと話す」
「それが良いですね、今はお部屋ですか?」
「ええ、アークスを視界に入れることを避けているようです。おそらく逆も然り」
「そうか…」「そうですか」

 グルズはアークスの姿に、頭に血が上ってしまったが、ミファラはアデルの母親とも名乗れず、こちらもアークスの母親だとは名乗らない、二人も息子がいるのに、複雑だろうと、ようやく落ち着いて考えることが出来るようになった。

 ただ、アークスは両親と一緒に暮らしているのに、父親と、父親の愛人と暮らしていることになる。それをどう思うかになるだろう。

「何かあったらアークスは家で預かってもいい。なあ、レーリア」
「ええ、いつでも預かります」
「ありがとう、家出の先は頼むよ」

 シュアンも大きくなって、歪な関係に上手くいかなくなる場合も、あるかもしれないと考えていた。

「ああ、任せとけ」

 二人はもう一度、アークスに会って、帰って行った。

 その後、ミファラと距離は出来たままだが、アークスの話す言葉も増えて、アークスを中心に邸は明るくなっていった。

 グルズの邸に連れて行って、グルズの子どもたちとも遊ぶこともあった。

 養子を取ったことで、母親が必要だろうと娘や未亡人を紹介されたこともあったが、マデラース・デル子爵令嬢やパズラー元伯爵のように入り込ませないために、きちんと必要ないと強く否定し続けていると、皆諦めたようだった。

 結局、パズラー伯爵家は、遠縁に爵位を譲る条件で、借金を肩代わりして貰い、元伯爵は伯爵領で細々と暮らしている。

 あの後も、何度か邸にやって来ていたが、相手にすることはなかった。そのせいで、ミファラの生家を脅そうとしていたようだが、事前に阻止した。

 ミファラはほとんど部屋から出て来なくなった。アークスの視界に入れない、入らないようにすることは勿論、聞こえて来る赤子の鳴き声にフラッシュバックを起こしていたが、あれは知らない子だと、どうにかお酒で誤魔化し続けた。

 酒の量はアークスが邸の中心になれば、なるほど増えていた。

 使用人も嫡男であるアークスが生まれたことで安堵していたが、慣れて来ると、全く関わらないミファラを信じられないという思いを抱く者も出始めるようになった。

 そして、ミファラへの扱いは最低限のことはするが、前の様に過敏ではなり、ぞんざいになっていっていた。ミファラも世話をして欲しいわけではないので、表向きは問題はなかった。

 問題はなかったが、問題に気付くことも出来なくなっていた。

 シュアンは毎日、特に変わったことはないと聞いていた。

 そして、気付いた時にはミファラは部屋で呼吸困難になって、蹲っていた。しかも、ぞんざいになっていたので、気付いたのは随分経ってからであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

旦那様、離婚しましょう

榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。 手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。 ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。 なので邪魔者は消えさせてもらいますね *『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ 本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る

恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。 父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。 5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。 基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。

処理中です...