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もう二度と
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ミファラの妊娠は秘密とし、レターセットも多めに買い込み、邸で静かに過ごした。元々、外に出ることはまずないので、隠すことは簡単だった。
侍医や邸の者にも口止めし、誰にも言わなかった。
ミファラの精神面は心配だったが、自分の子どもではないとしたことで、保つことが出来たのか、侍医の言いつけを守って、妊婦生活を行った。
経産婦ではあったおかげか、ミファラの出産は比較的スムーズに進んだ。それでも長い時間陣痛に耐え、無事、男の子を産んだ。
「男の子です」
おめでとうございますとは言わないように言ってあったので、侍医も看護師も、使用人もグッと耐えた。
「すぐに公爵様に…お渡しください。こちらには、もう連れて来ないでください」
「…承知いたしました」
シュアンは元気な男の子ですと渡され、開いた瞳はミファラと同じ色だった。
「彼女は抱いたのか?」
赤子を抱いた看護師に付き添っていた、メイドは首を振った。
「ミファラ様は、アデル様に謝罪しながら御生みになりました。ごめんなさい、ごめんなさい、この子を愛することはない、ごめんなさいと泣きながら…後、こちらにはもう連れて来ないで欲しいと仰っています」
「…そうか」
2人の乳母を雇い、交代で世話をして、シュアンも出来る限り顔を出して、世話を手伝い、我が子・アークスを愛した。アークスは私の養子という扱いになり、ミファラが実母であることは抹消した。
アークスは私に似ていたが、酷似しているわけではなく、ミファラに酷似しているわけでもない。そして、治癒術の素質があることは、抱いた時点で分かった。
ミファラは体調が戻るまではゆっくり過ごしていたが、その後アークスを見掛けることはあっても、近づくことはなく、本当に触れ合うことすらなかった。
アークスには両親は亡くなって、ミファラは愛人だと告げようと思っている。世間との齟齬が出ないようにするためである。
妊娠のことはグルズや、護衛に付いて貰ったジアン・ワツアイドすら言わなかった。アークスが可哀想だという思いは、私だけが背負うべきだと思ったからだ。
パズラー伯爵は借金が膨らみ、没落寸前だそうだ。
グルズにはアークスが生後半年になってから、伝えた。
「養子を取った」
「そうか…見付かったのか」
「ああ、親が亡くなってしまった子がいてね」
嘘をつくのは忍びなかったが、これは必要な嘘だと自分に言い聞かせた。
「そうか、彼女は大丈夫か?」
「ああ、乳母も雇っているし、大丈夫だ」
「良かったんだよな?」
グルズは養子に疑いを持つことはなかった。むしろ覚悟はしていた。
ノラのように口を出すことは控えたが、シュアンにもいずれ妻が出来て、子どもが出来て、あのどこか寂しそうな邸を温かく包んでくれたらと願っていた。
だが、ミファラに強いることは出来なかった。母親を放棄させられた彼女に、子どもを育てて欲しいというのも、酷であることも分かっている。
時間が経てば、何かきっかけがあればと思っていたが、その気持ちは完全に捨てるべきだと思った。
「ああ、勿論だ」
シュアンはシュアンで、いずれ会うこともあるかもしれない、私やミファラに似て来るかもしれないが、私が育てると言った以上、背負うのは私である。
ミファラは体調が戻ると、なるべくアークスを目に入れないように、部屋からあまり出ないようになり、静かに過ごしていた。
アークスが一歳になり、グルズとレーリアが祝いに訪れた。
アークスはつかまり立ち、調子が良ければ歩くようにもなり、離乳食を食べて、喃語を話すようにもなっていた。
グルズはアークスの顔に釘付けになった。
侍医や邸の者にも口止めし、誰にも言わなかった。
ミファラの精神面は心配だったが、自分の子どもではないとしたことで、保つことが出来たのか、侍医の言いつけを守って、妊婦生活を行った。
経産婦ではあったおかげか、ミファラの出産は比較的スムーズに進んだ。それでも長い時間陣痛に耐え、無事、男の子を産んだ。
「男の子です」
おめでとうございますとは言わないように言ってあったので、侍医も看護師も、使用人もグッと耐えた。
「すぐに公爵様に…お渡しください。こちらには、もう連れて来ないでください」
「…承知いたしました」
シュアンは元気な男の子ですと渡され、開いた瞳はミファラと同じ色だった。
「彼女は抱いたのか?」
赤子を抱いた看護師に付き添っていた、メイドは首を振った。
「ミファラ様は、アデル様に謝罪しながら御生みになりました。ごめんなさい、ごめんなさい、この子を愛することはない、ごめんなさいと泣きながら…後、こちらにはもう連れて来ないで欲しいと仰っています」
「…そうか」
2人の乳母を雇い、交代で世話をして、シュアンも出来る限り顔を出して、世話を手伝い、我が子・アークスを愛した。アークスは私の養子という扱いになり、ミファラが実母であることは抹消した。
アークスは私に似ていたが、酷似しているわけではなく、ミファラに酷似しているわけでもない。そして、治癒術の素質があることは、抱いた時点で分かった。
ミファラは体調が戻るまではゆっくり過ごしていたが、その後アークスを見掛けることはあっても、近づくことはなく、本当に触れ合うことすらなかった。
アークスには両親は亡くなって、ミファラは愛人だと告げようと思っている。世間との齟齬が出ないようにするためである。
妊娠のことはグルズや、護衛に付いて貰ったジアン・ワツアイドすら言わなかった。アークスが可哀想だという思いは、私だけが背負うべきだと思ったからだ。
パズラー伯爵は借金が膨らみ、没落寸前だそうだ。
グルズにはアークスが生後半年になってから、伝えた。
「養子を取った」
「そうか…見付かったのか」
「ああ、親が亡くなってしまった子がいてね」
嘘をつくのは忍びなかったが、これは必要な嘘だと自分に言い聞かせた。
「そうか、彼女は大丈夫か?」
「ああ、乳母も雇っているし、大丈夫だ」
「良かったんだよな?」
グルズは養子に疑いを持つことはなかった。むしろ覚悟はしていた。
ノラのように口を出すことは控えたが、シュアンにもいずれ妻が出来て、子どもが出来て、あのどこか寂しそうな邸を温かく包んでくれたらと願っていた。
だが、ミファラに強いることは出来なかった。母親を放棄させられた彼女に、子どもを育てて欲しいというのも、酷であることも分かっている。
時間が経てば、何かきっかけがあればと思っていたが、その気持ちは完全に捨てるべきだと思った。
「ああ、勿論だ」
シュアンはシュアンで、いずれ会うこともあるかもしれない、私やミファラに似て来るかもしれないが、私が育てると言った以上、背負うのは私である。
ミファラは体調が戻ると、なるべくアークスを目に入れないように、部屋からあまり出ないようになり、静かに過ごしていた。
アークスが一歳になり、グルズとレーリアが祝いに訪れた。
アークスはつかまり立ち、調子が良ければ歩くようにもなり、離乳食を食べて、喃語を話すようにもなっていた。
グルズはアークスの顔に釘付けになった。
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