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もう二度と
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「したいならいいですよ」
「えっ?」
「これ以上、この身は減るものはないですから、愛人とされたのなら、するものではないですか?」
「本当に?」
信じられなかった、一方的に手を持ったことはあるが、手を繋いで歩いたこともなければ、抱きしめたのも、あの自殺を図った時だけである。
まさか抱かれて、それを理由に死ぬつもりなのか…?だが、ミファラはいつもと変わらない表情で、そんな風にも見えない。
「今からと言っても?」
「ええ」
「でも子どもが出来るかもしれないんだよ」
ミファラは結婚もだが、子どもを産むことも拒否した。だから関係を持っても、子どもをとは考えていないだろう。
「私は母になれませんから、子どもは産みません。避妊薬があるでしょう?それを服用すればいいのではありませんか?」
「ああ…そうだな」
やはり子どものことが変わったわけではない。居候や客人から愛人になったから?もしかしたら、下位貴族は愛人は、閨も必ず含まれると思っているのだろうか。だからしてもいいと急に言い出したのか。
しなくてもいいと言えば、ミファラはあっさり去ってしまうかもしれない。今後こんな機会はないかもしれないと、思っている自分もいる。
「私が服用するから、心配しないで」
「いや、私が服用するよ」
避妊薬はほぼ100%避妊が出来ると言われている。人によっては副作用があり、あまり頻繁に使い過ぎると、子どもが出来にくくなる場合があるとも聞いている。
いくら今後、子どもを産まないとしても、ミファラに服用させたくはない。
「私なら副作用があっても、もう二度と子を成すことはないですから。公爵は未来がある、これから持てるかもしれないのですから、体を壊したら困ります。でも避妊薬は箱から出さずに、瓶を開けずに持って来てください」
「…それは」
中身を入れ替えられる可能性を考えているのだろう。
今でもアデルだけを思っているミファラが子どもが出来たとしても、堕胎することが出来ないかもしれないとも思う。
「私が飲まないなら出来ないわ。他の方となさって」
「いや、あなたが服用するでいいよ。用意させる」
「ええ」
二人はその夜、初めて関係を持った。出会ってから二年以上、経っていた。
抑制剤を服用し続けていたシュアンは、何か足りない喪失感と、欲望がようやく解消されて、温かい気持ちで満ち溢れた。
でも心が繋がったわけではないと自分に言い聞かせて、関係を持つ以外は今まで通り過ごすことにした。
そして、避妊薬を頻繁に服用させたくないので、時折、関係を持つようになった。それだけでもシュアンの身体は調子が良くなった。
グルズにも顔色がいいことを指摘され、気恥ずかしかったが、事情を話した。
「良かったじゃないか」
「でも気持ちが通じたわけではない」
「それでもシュアンが、抑制剤を服用しなくて良くなったことだけでも、良いことじゃないか」
「ああ…」
「でも意外だったな」
「もしかしたら、彼女は愛人はそういったことを、必ず行うと思っているのかもしれない。でもそれに乗ってしまったんだ」
私にはこの世で一番甘美な誘惑だった。本当にいいのかと自問自答したが、翌朝起きて、横で眠っているミファラに愛おしさの前に、酷く安堵した。
「無理もないさ…愛人でもいい、番と一緒にいることが出来ている。それに贅沢なおまけが付いたと思えばいい」
「だが贅沢を知ってしまって、失うのが余計に辛くなった」
「まだ期間があるのか?」
「愛人という立場になったから、変わっているのかもしれないが、聞くのが怖くて…聞いていないんだ」
「ずるいが、聞かれたらでいいんじゃないか?」
「そうだろうか…」
「そうなったら、私も一緒に謝ってやるから」
グルズに励まされて、少し楽になったが、事態は思わぬ方向に転がり出していた。
「えっ?」
「これ以上、この身は減るものはないですから、愛人とされたのなら、するものではないですか?」
「本当に?」
信じられなかった、一方的に手を持ったことはあるが、手を繋いで歩いたこともなければ、抱きしめたのも、あの自殺を図った時だけである。
まさか抱かれて、それを理由に死ぬつもりなのか…?だが、ミファラはいつもと変わらない表情で、そんな風にも見えない。
「今からと言っても?」
「ええ」
「でも子どもが出来るかもしれないんだよ」
ミファラは結婚もだが、子どもを産むことも拒否した。だから関係を持っても、子どもをとは考えていないだろう。
「私は母になれませんから、子どもは産みません。避妊薬があるでしょう?それを服用すればいいのではありませんか?」
「ああ…そうだな」
やはり子どものことが変わったわけではない。居候や客人から愛人になったから?もしかしたら、下位貴族は愛人は、閨も必ず含まれると思っているのだろうか。だからしてもいいと急に言い出したのか。
しなくてもいいと言えば、ミファラはあっさり去ってしまうかもしれない。今後こんな機会はないかもしれないと、思っている自分もいる。
「私が服用するから、心配しないで」
「いや、私が服用するよ」
避妊薬はほぼ100%避妊が出来ると言われている。人によっては副作用があり、あまり頻繁に使い過ぎると、子どもが出来にくくなる場合があるとも聞いている。
いくら今後、子どもを産まないとしても、ミファラに服用させたくはない。
「私なら副作用があっても、もう二度と子を成すことはないですから。公爵は未来がある、これから持てるかもしれないのですから、体を壊したら困ります。でも避妊薬は箱から出さずに、瓶を開けずに持って来てください」
「…それは」
中身を入れ替えられる可能性を考えているのだろう。
今でもアデルだけを思っているミファラが子どもが出来たとしても、堕胎することが出来ないかもしれないとも思う。
「私が飲まないなら出来ないわ。他の方となさって」
「いや、あなたが服用するでいいよ。用意させる」
「ええ」
二人はその夜、初めて関係を持った。出会ってから二年以上、経っていた。
抑制剤を服用し続けていたシュアンは、何か足りない喪失感と、欲望がようやく解消されて、温かい気持ちで満ち溢れた。
でも心が繋がったわけではないと自分に言い聞かせて、関係を持つ以外は今まで通り過ごすことにした。
そして、避妊薬を頻繁に服用させたくないので、時折、関係を持つようになった。それだけでもシュアンの身体は調子が良くなった。
グルズにも顔色がいいことを指摘され、気恥ずかしかったが、事情を話した。
「良かったじゃないか」
「でも気持ちが通じたわけではない」
「それでもシュアンが、抑制剤を服用しなくて良くなったことだけでも、良いことじゃないか」
「ああ…」
「でも意外だったな」
「もしかしたら、彼女は愛人はそういったことを、必ず行うと思っているのかもしれない。でもそれに乗ってしまったんだ」
私にはこの世で一番甘美な誘惑だった。本当にいいのかと自問自答したが、翌朝起きて、横で眠っているミファラに愛おしさの前に、酷く安堵した。
「無理もないさ…愛人でもいい、番と一緒にいることが出来ている。それに贅沢なおまけが付いたと思えばいい」
「だが贅沢を知ってしまって、失うのが余計に辛くなった」
「まだ期間があるのか?」
「愛人という立場になったから、変わっているのかもしれないが、聞くのが怖くて…聞いていないんだ」
「ずるいが、聞かれたらでいいんじゃないか?」
「そうだろうか…」
「そうなったら、私も一緒に謝ってやるから」
グルズに励まされて、少し楽になったが、事態は思わぬ方向に転がり出していた。
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