【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ

文字の大きさ
上 下
79 / 103
もう二度と

20

しおりを挟む
「デル子爵家のこと聞いたよ、大変だったな…」
「大変だったのは、門番だよ。私は会ってもいない」

 グルズに声を掛けられ、翌日に話が回っていることには驚いた。

「もう、話が回っているのか?」
「それが…その妹が大騒ぎしたようで、悪い意味で噂になってしまったんだよ。シュアンに縁談を勧めたように、他の奴にも勧めていて、キドラー・デルは良い奴だが、妹のことは…という感じだったらしい」

 シュアンはキドラーすら、良い奴だとすら思えなかった。だが、妹が関わっていない状況で会っていないので、分からない。

「大騒ぎというのは?」
「それがお前の妻なんだと暴れて…ロークロア公爵邸で騒いで連れて来られたのに、何を言っているのだと、担当した者の中にも縁談を勧められた人もいたようで、デル子爵とキドラーに来て貰って、それでもロークロア公爵夫人になるんだから、お前らなんてクビにしてやると言い続けたようでな」

 シュアンにそのような権限もなければ、どうして決まってもいない、会ってもいない男の妻になれると思っていることが不思議でならない。

「昨日の話だぞ?」
「それが前からそのつもりだったようなんだ。それで昨日、キドラー・デルが話を付けるからと言っていたそうなんだ」
「それで邸にやって来たのか」

 マデラースもそうだが、キドラーも勝手にロークロア公爵家の結婚を、決めることが出来ると本気で思って話していたのか?

「そういうことだろうな、お前のところにも話を聞きに来るだろう」

 シュアンが書類を作っていると、マデラースを取り調べをしているベテラン騎士団員から呼び出しがあった。

「事情は概ね聞いている、確認のために会って欲しいんだが」
「以後、接近禁止にして貰えるなら、構いません」
「もう王都には居られないだろうから、大丈夫だろう」

 シュアンは結局、初めてマデラース・デル子爵令嬢を見ることになった。執事の言う通りのような、出会った頃よりも痩せてしまったミファラとは違って、栄養の行き届いた逞しい体付きだなという感想であった。

「シュアン様、やっと来てくれたのね。早く、私が妻だと言って頂戴」

 鑑を見ていないのか、化粧の剥がれた酷い顔で、足を組み替えながら言った。

「虚言はいい加減にしてくれ、初対面だろう」
「初対面だなんて、パーティーで何度も、話だってしたわ」
「記憶にない」
「そんなはずないわ、私は一度見たら忘れられないって言われているんだから」

 そこにいる皆が、いい意味ではなくだろうと思ったが、口には出さなかった。もはやシュアンに同情しかない。

「ロークロア公爵、お知り合いではないと言うことで間違いないですね」
「はい、存じ上げません」
「っな!私があなたの妻になるって、お兄様が話をしたでしょう?愛人も認めてあげるって言っているのに」

 シュアンはカッとなったが、話す価値もないと、息を一つ吐いて、静かに首を横に振って、出て行った。

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 マデラースは声を上げたが、シュアンは振り向くこともなく、制止したのは騎士団員だった。

「いい加減にしろ、君のせいで兄君も除隊になるんだぞ?」
「っな!どうしてよ」
「君のせいに決まっているだろう?これだけ迷惑を掛けて、加担していたとなれば、除隊は逃れられない」
「シュアン様が私を結婚相手だと認めてくれればいいことでしょう!」
「なぜ、ロークロア公爵と結婚が出来ると思っているんだ?」

 キドラーがマデラースを勧めたことは分かっているが、シュアンは初対面だと言ったのに、そこまでどうして思い込めるのか。そういった思考なのだと言われれば、それまでだが、何かきっかけがあるのか。

 昨日はシュアン・ロークロアの妻なのよと叫ぶばかりで、暴れて話にならなかったと聞いている。

「だってシュアン様が結婚相手を探しているって」
「それがなぜ君になる?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

処理中です...