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もう二度と

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 グルズに頼んで、シュアンはクリーン侯爵に時間を取って貰うことになった。

「お時間を取らせてしまい、申し訳ありません」
「いいえ、私も話をしたいと思っておりましたから」
「番のことですね…」
「グルズから多少は聞いております。精神面に不安があることも、ですが公爵ともあろう者がこのままというわけにはいきませんからね」
「彼女は私の愛人です」
「は?」

 事前に聞いていなかったグルズも驚いた顔をして、シュアンを見ている。

「番でしょう?結婚するべきではありませんか」
「強行すれば、結婚は出来るかもしれません」
「結婚してしまえばいいのですよ。そうすれば文句を言われることはない、愛人などと中途半端なことをすべきではありません」
「翌日には寡男になっていてもですか?」

 見張っていなければ、おそらく翌日には妻は居なくなっていることだろう。

「は?」
「彼女は死んでもいいとは言いますが、死んでやるなんてことは言いません。ですが、譲れないことが通らなければ、そうすると思います」
「ならば、黙っていれば」
「その日までは生きてくれるかもしれませんね、私はそんな恐怖と戦いたくないのです。出会った数日後に首を切って死のうとしたところを私が止め、その後、私の邸で腕を切り、本当に死のうとしました」

 クリーン侯爵もグルズから聞いていたので、小さく頷いた。

「グルズにも言っていませんが、その後も自傷行為はあるのです。フォークを手の甲に刺したり、万年筆を刺したり、頭を打ち付けたり、飛び降りようとしたり」

 飛び降りようとするのではないかと、事前に窓は開かなくしてある。

「そうだったのか…」
「ああ、死ぬほどではないが、自分を害することで、罪悪感を薄めているのだと思います。結婚をしなくていいなら、邸にいてもいいと言ってくれています」
「出て行こうとしないのか?」

 そんなに嫌ならば出て行くことも考えるのではないか、会ったこともないので分からないが、構って欲しいとは思っているのではないかと思ってしまった。

「最初はありました、出て行くというよりは死にに行くと言った方がいいでしょう。その都度止めて、今は多少落ち着いてはいますが、出て行って生活することは困難だと思っているようです」
「お金か?」
「いえ、私からの監視と、世間の目でしょうね。彼女は男爵令嬢でしたから、公爵家に目を付けられたような女性が生きていくのは困難だと、息子に迷惑を掛けないために、この人生を諦めたのだと思います」

 ミファラの目には何の希望もない、与えられた翻訳と、お酒と、日々が過ぎるのを待ち、死ぬまでの余生のような状態だろう。

 そして、何を考えても結局は、死ねばいいと思っていることだろう。

「ですので、私たちのことはそっとして置いて貰えませんか?もしかしたら、私に番への執着が消えるかもしれない、他に想う人が出来るかもしれない」
「そんなことはあり得ないでしょう」
「いい薬が出来るかもしれないではありませんか」
「別の相手と結婚するつもりなのですか?」

 無理矢理に結婚させられるのならば、誰か相手にも利がある相手と結婚するしかない。ミファラも結婚すればいいと思っていることから、必要ならそうすればいい。

「したくはありませんが、彼女も出て行ってはしまいますが、必要ならそうします。彼女の命を守るためなら、何だってします」
「話は分かりました…愛人、番でもそういった場合はありますからね」

 結婚している者が番を見付けた場合は、愛人になる場合も少なくはない。

 誠実な者は番を認知出来ないように、魔道具を付けているので、不誠実だとも言えるが、ミファラのように破綻することもある。
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