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もう二度と

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「もう?」

 嫡男ではないと聞いていたので、慌てて再婚はないだろうと思っていた。いや、幼子に母親が必要だろうと思われたのかもしれない。

「元々知り合いだった、離縁して戻って来た方と…子どももいないそうで、可愛がって貰えるだろうと…弁護士から連絡が来た」
「ああ…」

 これで子どもの母親は、その女性になってしまうかもしれない。その思うとグルズの胸は苦しくなった。1歳にも満たない子どもでは覚えていないだろう、産んだだけではないはずが、そうさせてしまう。

「彼女には絶対に言わない方がいい。自分はますます必要ないと感じてしまうかもしれない」
「そのつもりだが、どこからか聞くこともあるかもしれない」
「気を付けた方がいい」

 突発的に行動を起こしかねない。

「ああ…あと、いつまでか決めて欲しいとも言われているんだ」
「いつまでということは、どちらにしても出て行くということか?」
「それなら生きれるかもしれないと言われて…どうしたらいいのか」

 催促はされていないが、シュアンはまだ期限は決められないでいる。

「そうだったのか…」
「きっと決めてしまえば、その日に出て行くだろう。それまでに私は覚悟と、気持ちの整理を付けなければならない」
「出来るのか?」
「しなくてはいけないことは分かっている。生きていてくれる方がいいに決まっている、それなのに、駄目な人間だ…そんな日が来なければいいとも思っている」

 番より大事なものはないと言いながら、番を尊重できない自分が腹立たしい。

「駄目なんかじゃないさ、シュアンの本当の気持ちなんだろう?彼女もシュアンも、互いの妥協点が取れれば一番いいんだがな…私も考えてみる」

 息子が難しいとなれば、二人の問題になる。

「ありがとう」
「何かあればすぐに相談しろよ!」

 そうは言ったものの、一人ではいい案も浮かばず、妻・レーリアに相談した。

「…再婚は耳に入れるべきではないわね」
「そうだろう、引き金となるかもしれない。私だって胸が苦しくなったさ」
「元ご主人がどのような思いでいるかは分からないけど、シュアン様側の弁護士が言うなら、悪い方ではないのでしょうね」
「ああ…」

 さすがに年齢も違い、見たこともない男爵令息では全く接点がない。念のため、調べてはみたが、可もなく不可もない情報しかなかった。

「私がミファラ様の立場だったら、耐えられる気がしないもの」
「シュアンには辛過ぎて言えなかったが、息子はきっとその女性を母親だと思うんじゃないか?」
「ええ…ああ、涙が出そう」

 レーリアは本当にぽろりと涙を流し、ごめんなさいと言いながら拭った。自分がそうなったらと考えただけで、悲しくなってしまった。

「お仕事をされていると言っていたけど、何かしている方がいいと思うわ。きっとこの時間はいつも息子と何をしていたと、思ってしまうはずだから」
「そうか…そうだよな」
「赤ちゃんがいると、赤ちゃんを中心に一日が回るでしょう?特に平民として暮らしていたのなら、メイドもいなかったでしょうから、全部彼女がお世話していたのでしょう?私の比ではないと思うわ」

 そうだった、本当にずっと一緒にいたのだろう。それなのに、昨日と違う日々が急に訪れても、受け入れられないだろう。

「だからお酒を飲んで誤魔化していたんだろうな…」
「ええ、精神を保っていられなかったんじゃないかしら」

 自覚があったか、無自覚かは分からないが、酒を飲んでいれば時間の感覚も、思考も曖昧になって、何とか考えずに済んだのかもしれない。

「私にはノラのように、彼女に怒りを向けることは出来ないよ」
「彼女は悪い子ではないのだけど…危険だと思うわ、良くも悪くも、シュアン様のことしか考えていないでしょう」

 レーリアもノラの先輩となり、お節介が過ぎるところがある。既にやらかしてしまった後だったのだが、二人は知らない。
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