66 / 103
もう二度と
7
しおりを挟む
シュアンの両親は番だということもあったが、美形の父に、穏やかな母、本当に仲の良い夫婦だった。
周りから見えれば理想の夫婦だっただろう。だが、理想の家族ではなかったように思う。夫は妻が優先、妻も夫を優先で、シュアンを放置するわけではないが、シュアンは二人の間にはいなかったように思う。
子どもはシュアンしかおらず、出来なかったと言われているが、そうではなく二人の時間が奪われる、一人産んだからいいだろう、お産で死んでしまったらと作らなかったのではないかとも思う。
だが、シュアンは両親について文句を言うことはなかった。シュアンはいつも「僕はいいから」と、微笑んでいた。
その姿に大人たちはなんて出来た息子だと言ったが、子どもたちの目線ではシュアンはそうするしかない状況を、受け入れていただけのように見えた。
ノラにとって、年下であることから妹のような存在とは言ったが、実際の気持ちとしてはお節介な姉のような感覚であった。
自身が番であったなら、全力で幸せにしてあげたいと思っていた。だが、違うことは分かっていたので、幸せになって欲しい存在だった。
シュアンの母親が亡くなって、父親も後を追う様に亡くなった。自害ではないとされているが、生きている意味がないと思っても差し支えない人だったと思う。
シュアンは家族の中でずっとひとりだった、それが本当にひとりになってしまい、ノラも友人たちも心配した。
「番を探したら?」
「無理に探すことはしないよ」
以前からそのように言っており、両親のことから番に対しては良い印象がないのか、強い欲望がないのか、投げやりにも感じていた。
「番でなくてもいいの?」
シュアンも27歳で、番ではない令嬢と交際していたのかは分からないが、お付き合いがある時もあった。番には重きを置いていないのかとも思っていた。
「番だというくらいだ、きっと出会えるなら出会うはずだろう?」
「そうね、出会えるように願っておくわ」
「ありがとう」
ノラはシュアンの願いが叶って欲しいと心から思っていた。
だから番が見付かったと聞いた時は嬉しかった、でも相手の状況が悪かった。始めは結婚前に出会っていたら、いや、もっと早く出会っていたら、シュアンはひとりぼっちではなかったのにと思っていた。
だからこそ、自分の世界に閉じこもったままのミファラが許せなかった。
いくら嘆いても、戻れないなら、今の環境に順応することが番の務めとは言わないが、貴族の務めである。
しかも番は男爵令嬢で、いくら離縁させられて、子どもも奪われてしまったけど、どうして公爵家に従わないのかという気持ちもあった。
番だからと言えば、爵位の差は問題とされないが、爵位が関係なくなるわけではない。公爵家に従わない男爵家などいない。
私は幼い頃からの遊び相手の一人なので、気兼ねなく話しているが、皆はそうではない。ノラも公式な場では、きちんと公爵として話す。
話すなと言われたが、会ったらまた言ってしまいそうだとも思っている。どうしても、私は番よりも、シュアンの幸せを考えてしまう。
シュアンが仕事に復帰して、数ヶ月が経った―――。
友人で同期でもあるグルズ・クリーン侯爵令息は、急に帰ったり、見る限りは落ち込んだ様子のない、シュアンに声を掛けた。
「最近、彼女はどうだ?」
「随分、落ち着いては来たと思う。今は仕事もしているんだ」
「そうなのか、それは良かったな」
頼んでいた翻訳の依頼があり、ミファラは何も聞かずに断ろうとしたが、その本は絵本だった。いくつかあった中から、アデルが読んでくれるかもしれないと思えるのではないかと、絵本を選んだのだ。
ミファラも同様に感じたようで、やってみると言って、ミファラは絵本や児童書の翻訳を始めた。期限も長めの作品を選んだので、苦しくなっても、時間を取れる。
酒を飲んでいることも変わらずあるが、彼女には必要な逃げであった。
周りから見えれば理想の夫婦だっただろう。だが、理想の家族ではなかったように思う。夫は妻が優先、妻も夫を優先で、シュアンを放置するわけではないが、シュアンは二人の間にはいなかったように思う。
子どもはシュアンしかおらず、出来なかったと言われているが、そうではなく二人の時間が奪われる、一人産んだからいいだろう、お産で死んでしまったらと作らなかったのではないかとも思う。
だが、シュアンは両親について文句を言うことはなかった。シュアンはいつも「僕はいいから」と、微笑んでいた。
その姿に大人たちはなんて出来た息子だと言ったが、子どもたちの目線ではシュアンはそうするしかない状況を、受け入れていただけのように見えた。
ノラにとって、年下であることから妹のような存在とは言ったが、実際の気持ちとしてはお節介な姉のような感覚であった。
自身が番であったなら、全力で幸せにしてあげたいと思っていた。だが、違うことは分かっていたので、幸せになって欲しい存在だった。
シュアンの母親が亡くなって、父親も後を追う様に亡くなった。自害ではないとされているが、生きている意味がないと思っても差し支えない人だったと思う。
シュアンは家族の中でずっとひとりだった、それが本当にひとりになってしまい、ノラも友人たちも心配した。
「番を探したら?」
「無理に探すことはしないよ」
以前からそのように言っており、両親のことから番に対しては良い印象がないのか、強い欲望がないのか、投げやりにも感じていた。
「番でなくてもいいの?」
シュアンも27歳で、番ではない令嬢と交際していたのかは分からないが、お付き合いがある時もあった。番には重きを置いていないのかとも思っていた。
「番だというくらいだ、きっと出会えるなら出会うはずだろう?」
「そうね、出会えるように願っておくわ」
「ありがとう」
ノラはシュアンの願いが叶って欲しいと心から思っていた。
だから番が見付かったと聞いた時は嬉しかった、でも相手の状況が悪かった。始めは結婚前に出会っていたら、いや、もっと早く出会っていたら、シュアンはひとりぼっちではなかったのにと思っていた。
だからこそ、自分の世界に閉じこもったままのミファラが許せなかった。
いくら嘆いても、戻れないなら、今の環境に順応することが番の務めとは言わないが、貴族の務めである。
しかも番は男爵令嬢で、いくら離縁させられて、子どもも奪われてしまったけど、どうして公爵家に従わないのかという気持ちもあった。
番だからと言えば、爵位の差は問題とされないが、爵位が関係なくなるわけではない。公爵家に従わない男爵家などいない。
私は幼い頃からの遊び相手の一人なので、気兼ねなく話しているが、皆はそうではない。ノラも公式な場では、きちんと公爵として話す。
話すなと言われたが、会ったらまた言ってしまいそうだとも思っている。どうしても、私は番よりも、シュアンの幸せを考えてしまう。
シュアンが仕事に復帰して、数ヶ月が経った―――。
友人で同期でもあるグルズ・クリーン侯爵令息は、急に帰ったり、見る限りは落ち込んだ様子のない、シュアンに声を掛けた。
「最近、彼女はどうだ?」
「随分、落ち着いては来たと思う。今は仕事もしているんだ」
「そうなのか、それは良かったな」
頼んでいた翻訳の依頼があり、ミファラは何も聞かずに断ろうとしたが、その本は絵本だった。いくつかあった中から、アデルが読んでくれるかもしれないと思えるのではないかと、絵本を選んだのだ。
ミファラも同様に感じたようで、やってみると言って、ミファラは絵本や児童書の翻訳を始めた。期限も長めの作品を選んだので、苦しくなっても、時間を取れる。
酒を飲んでいることも変わらずあるが、彼女には必要な逃げであった。
957
お気に入りに追加
1,868
あなたにおすすめの小説
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】
青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。
そして気付いてしまったのです。
私が我慢する必要ありますか?
※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定!
コミックシーモア様にて12/25より配信されます。
コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。
リンク先
https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~
春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。
6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。
14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します!
前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。
【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる