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もう二度と

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 ミファラの側にずっといるわけではないが、様子を伺っているシュアン。

 本を読むこともせず、ぼんやりしているだけのミファラを見守るだけの日々。それでもミファラが生きていることに感謝していた。

「仕事に行って」

 久し振りにミファラが自発的に使った言葉だった。

「私の代わりはいるから、問題ない。迷惑なら顔を出さない」

 少ないが治癒術を使える者はいる。シュアンがいなくて忙しいことはあるだろうが、どうにもならないような状況になることはない。

「あなたが近くにいると、罪を見せ付けられているようで、気が滅入るの」
「すまない…」
「施設に入れて貰えない?」
「施設?」
「前に問題のある人が入れる施設があるって、そこに入れるか聞いて貰えない?」

 いわゆる精神が弱ってしまった人、問題行動を起こすような人が入れる施設はある。ミファラも医師に診断書を書いて貰えば、入るに値するだろう。

「それは…」
「死のうとしたのよ、十分入れると思うのだけど、難しいの?」
「もう少し、ここで過ごしては貰えないだろうか…何か要望があれば執事に言ってくれたらいい、好きに過ごしたらいい。私はなるべく会わないようにする、どうしても駄目なら手続きを…するから」

 ミファラは実家に帰ることは出来ないだろう。

 家族とはあのような形で別れたまま、手紙も届いているが、ミファラは読んでもいなければ、返事を書いている様子もない。

 ゆえに私の方に手紙が届いているが、様子はどうだろうかと案じている様子はあるが、結婚はいつになるかなど書かれている。

 高位貴族と縁付くことは、男爵家にとっては喜ばしいことなのかもしれない。

 自殺を図ったことは書いてはいないが、精神状態が良くないと、結婚はミファラの気持ち次第だと返事をしている。

 番だと分かっているのに、戻ることになったとしたら、男爵家までもが好奇の目で見られてしまうだろう。いや、既に見られているのかもしれない。

 ミファラは子どもを捨てたのか、どうして番と結婚しなかったのか訊ねられ、静かに過ごせる場所ではない。

「あなたも可哀想よね…こんなのが相手なんて…」
「そんなことはない…」
「手籠めにして、足枷でも付けて監禁して、言うことを利かせることも出来ない」

 ミファラは番だという高位貴族だから、そのくらい平気ですると思っていた。でもこの男はなぜかしなかった。

「いつまでか決めてください。きっと、また死にたくなるだろうけど…いつまでと定められれば、少し息が出来る気がします」
「分かった、それで構わない。ありがとう」
「御礼を言われることではないわ」

 シュアンは仕事に戻った、近くにいないためには一番適していたからだ。

 別のところに住もうかとも考えたが、万が一のことを考えて、ミファラが無事である姿を見ないと、安心が出来ず、苦しくなってしまう自分もいる。

 粗相をするくらいなら、何も話さないで欲しいと使用人に通達し、腫れ物に触るように、ミファラに接することしか出来ない。

「シュアン?番は大丈夫?」

 声を掛けて来たのはノラだった。ノラがきっかけだったのは間違いないが、ノラを責めるつもりはない。

「今日が終わって、明日、顔を見てを繰り返してってところかな」
「そう…なのね、私も厳しく言い過ぎてしまって」
「君のせいじゃない。私のせいだから。ただ、会うこともないと思うが、もう話はしないでくれ」
「でも…いえ、分かったわ、何かあったら頼って頂戴ね…」
「ああ、ありがとう」

 ノラは自分の言ったことが自殺に関わっているのではないかと思ったが、追及してはいけないと判断した。

 簡単に命を投げ出す弱い子が必要なのかとも思ったが、番が死ぬ絶望を見せられた後では、何を言っても無駄だろう。

 シュアンは探してはいなかったが、いつか番が現れると信じていたのだから。
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