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もう二度と

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 邸に帰ると、顔色は悪いが、珍しく酔っぱらっていないミファラがお願いがあると神妙な顔で部屋を訪ねて来た。

「…あの、買い物に行きたいので、お金を貸して頂けませんか」
「ああ、もちろんだ。私も付き合うよ」
「いえ、一人で買いに行きたいのです」
「そうか、気を付けて行けるかい?」
「ええ、大丈夫です」

 執事からノラが来て、ミファラと話をしていたと聞いていた。案の定、説教ではあったが、その後からミファラは酒を飲まず、外を見ていたという。

 翌日、シュアンはノラにお礼を言った。自分ではどうしても厳しいことを言うことは出来ず、生きていてくれさえすればいいと過ごして来た。

 同じ騎士団に所属するノラや親しい同僚には、いつ何かあるか分からないため、ミファラの事情を話してあった。

 何かが変わるかもしれない。そんな予感を期待せずにはいられなかった。

「ノラ、ありがとう」
「えっ?」
「彼女が買い物に行きたいと言ってね、今日買い物に出掛けているんだ」
「そう、少しは伝わったみたいで良かったわ」
「ああ、本当にありがとう。やっぱりノラは頼りになるな」
「もう褒めても何も出ないわよ。いくら辛い状況だったとしても、甘やかしてばかりでは何もならないわ。しっかりさせなさいよ」

 ノラは結果的に夫と子どもを奪ってしまい、生きる気力をなくしているという番を、甘やかしてばかりいるシュアンにも、享受している番にも腹が立っていた。

 しかもシュアンは仕事にも支障が出ており、ノラは結婚して子どももいるが、仕事も続けており、夫婦や恋人は互いの努力がないと成り立たない、そんなことも分からないのかと強く感じていたのだ。

 だからこそ、ミファラと話をしたいと会いに行ったのだ。

「そうだな」

 邸に帰るとミファラは酔っぱらっておらず、いい買い物が出来たと言い、少し嬉しそうだった。何を買ったのか聞くと、本を買ったという。確かミファラは出産前までは翻訳の仕事をしていたということを思い出した。

 翻訳の仕事を探してみようかと聞いたが、そういう訳ではないと言ったが、伝手を探してみようと決めた。

 翌日、実家が出版の仕事をしていると聞いていた部下に聞いてみると、実家に聞いてみると言ってくれて、ミファラが翻訳したという本を何冊か渡した。

 翻訳の仕事なら邸でゆっくり出来るから、人目を気にすることもないし、前向きになってくれるかもしれないと嬉しくなった。

 執事によるとミファラは部屋で、買って来た本を読んで過ごしているそうだ。以前も酔っぱらってはいたが、呂律が回っていないだけで、暴れるわけでもなく、迷惑という迷惑を被っている訳でもない。

 ミファラの部屋にお茶を届けることにした。部屋に入ると、ミファラは出会った時とような、涼やかな雰囲気を纏っていた。

「あの、消えましたか?」
「何がだい?」
「私への想いです」
「いや、消えていないが、心配になったのかい?」

 最近、仕事が忙しかったこともあるが、酒を止めたので、前のように甲斐甲斐しく構ったりはしないことにしていた。

 いつまでも待つつもりではあったが、自分に興味を少しでも持ってくれたことが、とても嬉しかった。

 そんな穏やかな日々が、続いていた。

 その日は報告書をまとめるのに時間が掛かり、帰るのが遅くなってしまった。ミファラはもう眠っていると聞き、寝顔だけでも見ようと部屋に入ると、血の匂いがした。ベットを捲るがミファラはおらず、浴室を開くと壁は血まみれで、ペーパーナイフを握ったミファラがぐったりと転がっていた。

「ミファラ―――――!!」

 一歩遅ければ、私が治癒術を使えなければ、ミファラは亡くなっていただろう。

 治癒術を使い終えると、息が上手く出来なかった。

 翌日、事情を話して、騎士団を辞めたいと願い出たが、しばらく休暇扱いにしておくから休むように言われた。
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