【完結】あわよくば好きになって欲しい（短編集）

私の恋、あなたの愛

３０

　体系を隠すようなドレスではなく、ピッタリとしたドレスを着ており、見えるということは、太っているということではないのか？

「番があなたの体系が好みだと良いわね」
「はあ？番はどんな体系でも、どんな顔でも好きになってくれるのよ？」
「相手がとても好みじゃなかったら、あなたはどうするの？」
「そんなはずないわ」
「番でも最低限の好みはあるんじゃない？既に逃げられていないといいわね」

　マリオスの元恋人であるラビンスが疑わしいように、既に拒否されて、逃げられている可能性はある。

「っな、何てことを言うのよ！」
「可能性はあるかもしれないでしょう？」
「ふん！選ばれなかったからって、負け惜しみを言っちゃって！最低ね！」
「最低で結構よ、二度と話し掛けて来ないで頂戴」

　パリム子爵令嬢は最後に睨み付けて、目を吊り上がらせて去って行き、シエルにはいつもなら叔父が側にいたので、パリム子爵家は近付くことすら出来なかった。

「似てないんだな、姉妹でも向こうが姉に見える」
「大きいからじゃない？」
「それもあるだろうけど…彼女、顔はしなかったけど、名前だけは有名だよ。番ならどんな自分でも愛してくれるからと、どんどん幅を広げているようだ。そして、性格も我儘で、自分勝手、人の話を聞かないらしい」

　ルノーも顔すら興味がなかったが、名前と情報だけは厄介者としてリリオンから聞いていた。

「そんなことだろうと思ったわ、番至上主義教育ね。あれでは逃げられているんじゃない？最近は結構多いんでしょう？」
「ああ、抑制剤も服用していないからな。逃げられているか、いつか見付かるかだろうな…」
「ずっと待ち続けるのかしら？」
「諦めない限りは待ち続けるんじゃないか？子息も同じ考えて、兄妹揃って、番待ちの状態らしい」
「ああ…男性の方が可能性は低いでしょうに」

　異母弟が優生者かどうかは知らないが、そうでなければ、女性側が優生者となり、愛されたくて待っていることになる。

「あなたの家の方がまだマシそうね」
「どうかな…まだ子どもから、これからあんな風になるのかもしれない」

　ルノーの異母妹と、異父弟は十歳以上、離れている。さすがに当主たちに子どもを作るのはすぐには控えるように言われていたのだろうということだった。

　なので、まだ異母妹と異父弟は社交界には出席していない。

「ああ…グビっと飲んで、帰ればよかったわね」
「何？」
「元父と、後妻とさっきのガタイのいい異母妹がこっちに来ているわ」

　泣き真似をしたキューミュアと、両親が向かって来ている。

「どうする？」
「フロランツア侯爵家で借りている部屋に行くわ、叔父様がいるはずだから、あなたは帰って」
「いや、残るよ」
「面倒なことになるわよ」
「面倒は慣れているよ」

　久し振りに対峙することになった元父。

「シルフィー…」

　母の名前を呼び、横ではキューミュアと同じように、ガタイのいい後妻が喚ているが、元父はシエルに釘付けだ。

「何でしょう？」
「ああ！キューミュアに、酷いことを言ったそうだな？」
「事実を口にしただけです」
「はあ…お前には可哀想なことをしたが、キューミュアに当たることはないだろう」
「マラン・パリム子爵、ここで騒ぎにしてはご迷惑ですから、場所を変えましょう」
「話を逸らすんじゃない！全くお前は…キューミュアに謝れと言っているんだ、泣いているんだぞ…可哀想に」

　泣いているいうよりは、鳴いているんじゃないか。可哀想なのは、はち切れそうな美しいドレスを作った方だろうと思いながら、シエルが溜息を付きそうになると、ルノーの母・ソフィーが、ウィロー伯爵夫妻とともに現れて、声を掛けた。

「ルノー、シエルさん。どうなさったの？」