【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ

文字の大きさ
上 下
49 / 103
私の恋、あなたの愛

26

しおりを挟む
「っな、なぜ怒られなくてはならない」
「私が一番嫌いなことは、分かったような言い方をされることです。何も分かりもしない、分かって欲しいとも思っていない。だって分かるはずがないもの。私はフロランツア侯爵家の人間ですから、失礼な言葉、許していただけますわよね?」

 マリオスは既にドール伯爵家の当主ではある。だが、シエルもフロランツア侯爵家の人間である。

「番のことで苦しんだのは同じではないか。私だって辛かった」
「分かって欲しいと思うのですか?」
「勿論だ、マイニーには特に理解して貰って、寄り添って貰いたい」
「それがあなたの物差しでしょう?違いますか?」
「子どものことだ!その子から父親を奪っていいのかと言っている」
「都合が悪くなると、話をすり替える方なのですね」

 シエルは軽蔑した眼差しを保ったまま、呆れた。マリオスの中身までは知らなかったが、こんなに感情的で、押しつけがましい相手だとは思わなかった。

「父親には会わせますよ。ルノーにもそう話しています。聞いていませんか?」
「だが、ずっと側にいる訳ではない」
「でもマリオス様も、ルノーも、私も、生きていますよね?」
「何の話をしている?」
「両親が側にいなくても、立派に生きているという話です」

 マリオス、ルノー、シエルは側に両親は途中からいなかった。シエルは母親が亡くなってからは、親と言える存在もいなくなってしまった。

「それはそうだが、二人が結婚しない理由がないだろう?違うか?」
「ですからそれは二人で出した答えだと言ったはずです」
「ああ、そうだ。マリオスには関係ない」

 ルノーもマリオスが納得していないのは分かっていたが、こんなことをするとは思わなかった。お節介にもほどがある。

 番を得てから、分かり易くはなかったが、おそらく妻が心配して、悩んでいるのを解消したいと思ってのことなのだろう。

「私は二人のためを思って、認められないだけで、番なんだろう!!シエル嬢、君はルノーの番なんだ!!」

 マリオスは説得が難しければ、シエルに言ってしまおうと思っていた。ルノーは否定していたが、間違いないと思っている。

 マイニーには隠し事をしているようで辛かったが、敢えて言わなかった。

 ルノーは顔を歪めたが、マイニーは驚いて目を見開き、理解出来ない様子で、マリオスを見つめた。シエルも瞳を動かした程度で、何も言わなかった。

「違うと言っただろう」
「シエル嬢、驚かせてすまない。だがルノーは私以上に、番に抵抗があったんだ。私はマイニーに出会って、そんなことはどうでもいいと思えたが、ルノーは違う。一人で戦って来たんだ、だから寄り添っては貰えないか、君が辛かったことは分かると言ったのは、言い過ぎだとしても、二人はぴったりじゃないか」
「ウィローさん、本当なの?シエルが番?」
「…違う」

 ルノーはいくら言われても、マリオスには認める気はなかった。

「マイニー、ルノーは認めたくないんだ。だから、今日会わせて、聞いて貰おうと思ったんだ」
「そうじゃないわ!」

 マイニーはもしルノーの番だったのならば、シエルの答えは知っていたのだ。

「何を言っているんだ?」
「シエルは番は選ばないわ…そうよね?シエル」
「そうね、番だったら絶対に選ばないわ」
「番を憎んでも、出会ってしまったのならいいことではないか。子どもだっているんだ。私だって両親のことで、自問自答することもあった。二人で幸せになればいいじゃないか、マイニーも安心だろう?」
「そうじゃない、番だったら…」
「私は番に選ばれることがあったら、その方を殺そうと思っています」
「っな」

 これはルノーにも言っていないことだったが、マイニーには言ってあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。

りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。 やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか 勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。 ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。 蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。 そんな生活もううんざりです 今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。 これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

処理中です...