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私の恋、あなたの愛
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「だからマリオスとは兄弟ではないが、家族のような形にはなっている」
年齢も接点もなく、親戚ではないのに、親しそうに見えたのはそういうことだったのか。想像を絶する複雑さである。
「当人たちは取り替えてしまえばいいという発想だったが、子どももいる上に、生家との長期事業計画や、技術者の派遣も既に行っていて、お金で解決するような簡単な話でもなかった。憎しみ合ったわけではないからね」
「それで?」
「祖父母たちが孫に継がせるから、平民になるか、表向きは結婚を継続するかを迫ったそうだよ。当人たちは最悪、皆で一緒に住めばいいなどと思っていたそうだが、そんなこと出来るはずがない」
「そうね…」
番主義の時代であれば違っただろうが、家の問題もあれば、子どももそんな環境に置かれたら混乱するだけだろう。
「それで、両親は仕事として家を維持することになった。皆、生粋の貴族だから、平民になって結ばれるという選択肢はなかったそうだ。公には出来ないから、番同士で別邸に住んでいる。王家には理解をして貰っているから、心配はない」
「へえ…」
おそらくほとんどの者が知らないことなのだろう。マイニーは流石に知っていただろうけど、勝手に言えるはずもない。
結婚式でサンドール侯爵夫妻は、別に番がいるとは思えないほど、嬉しそうに笑っていた。いや、息子に番が見付かって、自分たちのことがようやく分かってくれたと思ったのかもしれない。
「当人たちは友人だったこともあって、あっさり受け入れたそうだが、マイオスも、マイオスの姉ルリアーナも、俺も受け入れられなかった」
「きょうだいは?」
「いる…さすがに番同士で作るなとは言えなかったんだろうな」
サンドール侯爵家も、ウィロー伯爵家も、三人以外に他のきょうだいがいるとは公になっていない。妊娠も隠されたのだろう。
「だが、サンドール侯爵家はルリアーナに、ドール伯爵家はマリオス、そしてウィロー伯爵家は俺が継ぐことが決められたんだ。ややこしいことになってしまうからね」
「なるほど…それでお姉様が継ぐことになっていたのね」
「ああ、不遇な立場にさせないためにも、決まっていた」
とてもまともな話し合いが行われた証拠だろうと、シエルは思った。
「そんな歪んだ家族の中で育ったんだ。俺もルリアーナもマリオスも、両親ではない相手に拒否反応があった。両親ではない者同士がベタベタする姿は、祖父母や使用人が見せないようにはしてくれたが、どうしても目に入ることもあった。だが、子どもたち側はどこか同志のような感覚もあり、一緒に住んでいたら違ったかもしれないが、仲はいい」
「他のきょうだいは?」
「会うことはあるが、なるべく接点を持たないことにしたんだ…私たちよりも歪な関係だろう?籍も母親の生家にある、どちらに入れられても困るからな。それも最初に決められていたそうだ」
「そうなの…」
いくら番でも結婚していない相手の子どもになってしまうことは、避けらないことで、平民になってしまうよりはいいとも言えるのだろう。
「両親は俺達を邪険にすることはないが、興味は薄い。番との子どもの方が可愛いことを、隠そうと必死で取り繕うようにしている。その一方で、番は素晴らしい、どうして早く気付かなかったんだと、まるで俺達が間違っていると言わんばかりでね。私たちに言うべきではないことも、分からなくなっている」
「ああ…」
「それで俺は恋とか、信じられなくなってしまったんだ。それで特定の相手を作らず、割り切った相手とだけ遊んでいた…」
「そう…」
恋人でも婚約者でもない、ただ一度好かれた相手に、子どもを身籠ってしまったがために話しているのだろうけど、親への反発でもあったのだろう。
恋なんて、愛なんて、番なんて、信じないと思ってしまったのか。
年齢も接点もなく、親戚ではないのに、親しそうに見えたのはそういうことだったのか。想像を絶する複雑さである。
「当人たちは取り替えてしまえばいいという発想だったが、子どももいる上に、生家との長期事業計画や、技術者の派遣も既に行っていて、お金で解決するような簡単な話でもなかった。憎しみ合ったわけではないからね」
「それで?」
「祖父母たちが孫に継がせるから、平民になるか、表向きは結婚を継続するかを迫ったそうだよ。当人たちは最悪、皆で一緒に住めばいいなどと思っていたそうだが、そんなこと出来るはずがない」
「そうね…」
番主義の時代であれば違っただろうが、家の問題もあれば、子どももそんな環境に置かれたら混乱するだけだろう。
「それで、両親は仕事として家を維持することになった。皆、生粋の貴族だから、平民になって結ばれるという選択肢はなかったそうだ。公には出来ないから、番同士で別邸に住んでいる。王家には理解をして貰っているから、心配はない」
「へえ…」
おそらくほとんどの者が知らないことなのだろう。マイニーは流石に知っていただろうけど、勝手に言えるはずもない。
結婚式でサンドール侯爵夫妻は、別に番がいるとは思えないほど、嬉しそうに笑っていた。いや、息子に番が見付かって、自分たちのことがようやく分かってくれたと思ったのかもしれない。
「当人たちは友人だったこともあって、あっさり受け入れたそうだが、マイオスも、マイオスの姉ルリアーナも、俺も受け入れられなかった」
「きょうだいは?」
「いる…さすがに番同士で作るなとは言えなかったんだろうな」
サンドール侯爵家も、ウィロー伯爵家も、三人以外に他のきょうだいがいるとは公になっていない。妊娠も隠されたのだろう。
「だが、サンドール侯爵家はルリアーナに、ドール伯爵家はマリオス、そしてウィロー伯爵家は俺が継ぐことが決められたんだ。ややこしいことになってしまうからね」
「なるほど…それでお姉様が継ぐことになっていたのね」
「ああ、不遇な立場にさせないためにも、決まっていた」
とてもまともな話し合いが行われた証拠だろうと、シエルは思った。
「そんな歪んだ家族の中で育ったんだ。俺もルリアーナもマリオスも、両親ではない相手に拒否反応があった。両親ではない者同士がベタベタする姿は、祖父母や使用人が見せないようにはしてくれたが、どうしても目に入ることもあった。だが、子どもたち側はどこか同志のような感覚もあり、一緒に住んでいたら違ったかもしれないが、仲はいい」
「他のきょうだいは?」
「会うことはあるが、なるべく接点を持たないことにしたんだ…私たちよりも歪な関係だろう?籍も母親の生家にある、どちらに入れられても困るからな。それも最初に決められていたそうだ」
「そうなの…」
いくら番でも結婚していない相手の子どもになってしまうことは、避けらないことで、平民になってしまうよりはいいとも言えるのだろう。
「両親は俺達を邪険にすることはないが、興味は薄い。番との子どもの方が可愛いことを、隠そうと必死で取り繕うようにしている。その一方で、番は素晴らしい、どうして早く気付かなかったんだと、まるで俺達が間違っていると言わんばかりでね。私たちに言うべきではないことも、分からなくなっている」
「ああ…」
「それで俺は恋とか、信じられなくなってしまったんだ。それで特定の相手を作らず、割り切った相手とだけ遊んでいた…」
「そう…」
恋人でも婚約者でもない、ただ一度好かれた相手に、子どもを身籠ってしまったがために話しているのだろうけど、親への反発でもあったのだろう。
恋なんて、愛なんて、番なんて、信じないと思ってしまったのか。
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