【完結】あわよくば好きになって欲しい（短編集）

私の恋、あなたの愛

１５

「やっぱり分かるのね…ジュースも分かっていてかと思ったわ」
「俺の子だよな？」
「そうなるわね、どうして避妊しなかったの？」

　孕ませたいと本能的に思っていたのだろう、避妊薬は服用しなかった上に、シエルが服用が出来るような状態ではなかった。

「すまない…だが言わないつもりだったのか？」
「…」
「だから俺が来た時に驚いていたのか？」
「そうね、虫の知らせってやつかしらね。分かるのかは半信半疑だったけど、言わないわけにもいかないと思っていたから」
「子どもが…」
「こんなに簡単に作っていたら、隠し子がいっぱいいるの？」
「い、いない」

　避妊薬を服用せずに行ったことなど、シエルが初めてだった。だが、シエルにしてみれば、どうしてこんなに簡単に出来るのだろうかと思ったことだろう。

「産むかは正直、まだ迷いはあるけど、この子に罪はないものね。もし産むなら私が育てるってことでいいかしら？」
「え？結婚は？」

　既にルノーは責任を取って結婚しようと思っていた、先に子どもが出来ることは公に褒められることではないが、珍しいことではない。

　番だと告げるかはまだ迷っているが、番だと言えば、それなら仕方ないよなと言われるくらいのことだ。

「しなくていいわ、私いずれ侯爵家は抜けるつもりだったから、これを機に抜けてしまおうと思っていたの。一人で育てるし、あなたはこれまで通りで、会いたいというのであれば、会ったらいいと思うわ」
「いや、そんなわけには」
「いいのよ、結婚したいから話したわけじゃない。平民になれば、庶子だとか関係ないでしょう？かと言って、このまま侯爵家の籍のまま産むのもねなんて思っていたの。まだ誰にも言っていないわ」

　言わなければならないと思いながら、まだ誰にも言えずにいた。

「あなたが結婚する時に問題にはなるかもしれないけど…まあ、女性のあしらいは上手でしょう？上手くやって頂戴」

　待ってくれ、どうしてシエルには一切、私と結婚する意志がないのだ？子どもだぞ？二人の子どもがいるというのに、どうしてそんなに冷静なのだ？

「ちょっと待ってくれ、俺の話を聞いて欲しい」
「ええ、何？」

　ルノーは黙っていたわけではないが、あまり親族以外に話すような内容ではないだけで、親のことを打ち明けることにした。

「俺の両親は、番ではなかった…だが俺が生まれた後で、番が見付かったのだ」
「え？」
「どうして子どもを産んでいるのにと考えると思うけど、関係ない人もいるんだ」
「え、ええ。でも離縁していないわよね？」

　ウィロー伯爵夫妻が離縁したとは聞いたことがない。パーティーなども二人で出席しているのを見たことがあるくらいだ。

「表向きはね、だが夫婦として成り立ってはいないんだ。母の相手がサンドール侯爵、父の相手がサンドール侯爵夫人だった」
「え？」

　ルノーの両親と、マリオスの両親同士が番だったのだ。

「サンドール侯爵夫妻は婚約が決まっていて、その後に俺の両親の婚約が決まって、皆、抑制剤を服用していたそうだ。しかも母親同士は友人、顔を合わせることもあったが、全く気付かなかったらしい」
「友人…」
「それがたまたま船で一緒になった。俺の両親は二人して船酔いで、抑制剤を服用が出来ずにいた日に、気付いてしまったそうだ」
「片方が？」
「いや、同時にだそうだ。サンドール侯爵夫妻は二人とも優生者だったから」
「そうだったのね…」

　それならば、大惨事にならずに済んで良かったと言えるだろう。片方だけに見付かることは、悲惨なことしか生まない。既に遅いとは分かっていないシエルは、気を付けなければと思った。