上 下
36 / 103
私の恋、あなたの愛

13

しおりを挟む
「どうしたんだ?」
「ちょっと話があってさ」

 リリオンが暮らしている邸に連れて行かれて、何の話か全く見当もつかなかった。

「何の話だ?」
「シエル嬢に、本気なんじゃないのか?」

 シエルの名前が出されて、驚くしかなかった。リリオンには何も話していない。

「何で?」
「気付いていないのか?凄く彼女のこと気にしているだろう?」
「そうだったか?」
「そうだよ、目で追いかけていただろう?」

 周りから分かるほど見ていたのだろうか、リリオンが目ざとく、近くにいたから気付いても仕方ないのか。

「それを言いに来たのか?」
「彼女、地方に異動になる予定になっている」
「え?」
「ほら、ショックじゃないか」
「いや、驚いただけだよ」
「地方に異動になったら、会えなくなるぞと言いたかったんだ。一年生の頃に、二人が楽しそうに話しをしている姿を、私はいいなと思っていた。ルノーが本気になりたくもない気持ちも分かる。でも良いじゃないか、好きな相手だと認めればいい。ある意味、ざまあみろだぞ?」

 番ではなく、好きな相手だとしたらどれだけ良かっただろうか。いや、番だと気付く前と変わってしまったのは俺の方だった。

「違うんだ…」
「何が?」
「番なんだ…」
「は?」

 リリオンは言葉を失い、目玉をギョロギョロと動かしていた。こんなに動揺する姿を始めてみたかもしれない。

「番なんだよ、気付いたのは卒業の少し前くらいだった。彼女はずっと抑制剤を服用していた、高熱が出て、たまたま服用し忘れたのか、その時気付いた」
「っな、それで…パーティーにも行っていたというのか?相手が分かっているのに?待てよ、シエル嬢はパーティーでは見たことがないな」

 あれだけ目立つ容姿をしていたら、参加していた気付くはずだが、会ったことはない。せめてパーティーで会っていたら、何か違ったのかもしれない。

「ああ、彼女は私が知る限り参加していたことはない。リリオンの番のマイニー嬢は一人で参加していたからな」
「恋人がいるからか?」
「分からないが、番には興味がなさそうではあった。誠実な人と付き合いたいと言っていた、俺じゃ駄目だろう?どう考えても」

 ルノーの行動はどう考えても誠実とは正反対だった、家庭環境がそうさせたことは明らかだが、だからと言って未来を閉ざしてもいいのか。

「だが、シエル嬢もルノーを嫌っているわけではないだろう?」
「一年生の時に、告白されたことがある、だが断った」
「っな、じゃあ、嫌がることはないんじゃないか」
「どうしたらいいか分からないんだ。会わなくなればいい、俺みたいなのではなく、幸せになってくれたらと本気で思っていた」
「ああ…」
「ルノーはどうなりたいかも分からないのか?」
「ずっと、せめぎ合っている」

 番だからと惹かれることはルノーのとって辛いことだろう。番でなければ良かったと思う日が来るとは思わなかった。

 私はただ地方に行ってしまうことを伝えたかっただけなのに。事は思ったより複雑だった。

「それでも会いたいなら異動になる前に会った方がいい」
「だが…」
「告白もルノーの行動を知っていて、伝えて来たんだろう?だったら、彼女は受け入れてくれるんじゃないか?付き合いたかったということだろう?」
「え?」

 シエルはあの時、俺と付き合いたかったんだろうか。付き合わないだろうという前提だったように思うが、付き合っていたら、こんなことにはならなかったのか。

「だってそうじゃないか」
「でも確かあなたは望まないだろうと言われたはずだ。答えは分かっていて、言っただけじゃないか?」
「そうかもしれないが…結婚した後になって後悔しないか?待てよ、番だと言わなければいいんじゃないか?」
「番だと言わない?」
「番だと言わずに、付き合えって欲しいと言えば…」
「俺は付き合いたいのか…?」
「まあ、そうなるよな…」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? ※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定! コミックシーモア様にて12/25より配信されます。 コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。 リンク先 https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...