上 下
32 / 103
私の恋、あなたの愛

しおりを挟む
 ルノーの番はシエルだった。それはもうルノーが一番感じていた。

 なぜ今まで分からなかったのか…いや、抑制剤をきちんと服用していた証拠だろう。今日は服用していなかったのだろうか?高熱で服用し忘れたのか?

 もし、頼まれなかったら気付くことはなかった。シエルを番探しのパーティーで見掛けたこともなかった。

 好ましくは思っていたが、今となっては独り占めしたい感情に埋め尽くされていた。このまま連れ帰って、看病したい。番など現れても関係ないと思っていたのに、実感してみないと分からないことがあると、よく分かった。

 だが、シエルはどうだろうか。

 科が変わってから、男性と一緒にいるところを何度か見掛けたこともあった、もしかしたら今も恋人がいるのかもしれない。

 私は特定の相手は作らないし、番も要らない、そう決めていたはずだ。

 シエルも誠実な相手を探してはいたが、番を求めている様子はなかった。番なら誠実だろうと思ったが、相手が僕ではハズレもいいところだろう。

 親に言われて、番探しのパーティーには参加していたが、もし見付かったらどうしようかなんて考えてもいなかった。

 どうするべきか…伝えない方がお互いのためだろう。もし、シエルが番を求めているのならば、私だから他の相手を探した方がいいと伝えるべきだろうが、私は彼女の幸せを今までのように願えるだろうか。

「うぅん」

 シエルが目を覚ましたようだ。その声だけで興奮し、心が揺さぶられたが、深呼吸をして、息を整えた。

 本来なら汗を拭いたりしてあげるべきだっただろうが、それどころではなかった。

「え?ウィローさん?」
「ああ、マイニー・ヴィオス嬢に頼まれたんだ」
「付き添ってくれていたの?」
「ああ、うん」

 横で苦悩していて、本当に付き添っていただけである。

「ごめんなさい、急に熱が上がったみたいで。もう大丈夫だから、帰って貰って大丈夫よ。この時期よくあるの」
「いや、寮まで送るよ」
「いいわよ、歩けるわ」
「でも頼まれたから」
「じゃあ、お願いします」

 触れたいという思いと、触れてはならないという思いがせめぎ合ってはいたが、肩を貸そうかと聞いたが、シエルは大丈夫だと、二人で歩いて寮まで向かった。

「予定はなかったの?」
「なかったよ、ヴィオス令嬢は今日はどうしても外せないからと」
「そうなの、良かったわ。私のせいで行けなくなっていたら、ゾッとするわ」
「役に立てて良かったよ」
「ありがとうございました」

 寮はそう遠くないため、あっという間に着いてしまい、名残惜しい気持ちになったが、これ以上一緒にいるのも危険だとも感じた。

 シエルは再度お礼を言って、寮に入っていった。

 ルノーはその姿をずっと見ていた。ルノーではなく、ウィローさんと呼ぶようになっていたことにも、距離を感じたが、その方がいい。

 これまで感じたことがなかった以上、シエルが抑制剤を服用せずに会うことはないだろう。それでも近付くのは最後にしようと思った。

 だが、番という者は厄介で、シエルを探してしまうようになっていた。

 卒業まで後1ヶ月となり、シエルは研修に行っており、ほとんど学園には来なくなってしまった。これで良かったんだという思いと、本当に逃していいのかという思いが、交互に襲って来る。

 関係を持っていた女性とは会わなくなっていった、相手も僕以外にも相手がおり、特に困ることはない。

「予定があるんだ」
「そっか、残念」

 そんな言葉で終わる関係だ、いずれ彼女たちも結婚するのだろう。

 特定の相手を作りたくない、気持ちいいことはしたいという男性の方が勿論多いが、女性も一定数はいる。派手であっても、大人しそうでも、関係ないのだ。

 だが、私はそんな欲もなくなってしまうのではないかという恐怖もあった。だから、また誘いに乗り、誘うようになっていた。変わらないと思いたかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? ※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定! コミックシーモア様にて12/25より配信されます。 コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。 リンク先 https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

残念ですが、生贄になりたくないので逃げますね?

gacchi
恋愛
名ばかり公爵令嬢のアリーは生贄になるために王宮で育てられていた。そのことはアリーには秘密で。ずっと周りに従順になるように育てられていたアリーだが、魔術で誓わされそうになり初めて反発した。「この国に心も身体もすべて捧げると誓いますね?」「いいえ、誓いません!」 たまたまそれを見ていた竜王の側近ラディに助けられ、竜王国に働きに行くことに。 アリーは名前をリディに変え、竜王国で魔術師として働く予定だったが、どうやら普通の人ではなかったようで?

処理中です...