上 下
30 / 103
私の恋、あなたの愛

しおりを挟む
 シエルはルノーがマリオスと一緒にいることに釘付けになり、マイニーもマリオスよりもルノーに驚くことになった。

「大丈夫だったかい?」
「ええ、大丈夫だけど」
「シエル、久し振りだね」
「ええ、知り合いだったのね」
「ああ」

 マリオスはマイニーを庇いながら、ラビンスを睨み付け、ラビンスにとってはショックな光景だろうと、シエルは思っていた。

「グルテ伯爵令嬢、もういい加減にしてくれ!」
「どうしてしまったの?」
「マリオン様、ラビンスは今でもあなたを想っています。別れたのだって、いつものことじゃないですか?番なんかでどうしてしまったのですか?今時、番なんて流行りませんよ」
「トオス伯爵令嬢、君に名前で呼ばれる筋合いはないし、意見される覚えもないが?」

 マリオスとは親しくもないのに、マルガータはお節介が過ぎるような状態になっており、ますます危うさを感じていた。

「私はラビンスの友人で、ラビンスとサンドール侯爵令息様が結ばれるべきだと思って、発言しています」
「では、王家に番が見付かっても、君は流行らないと言えるんだな?」
「そ、それは…」
「番だろうが、なかろうが、君たちには関係ないだろう!そもそも、グルテ伯爵令嬢とは付き合ってくれないと死ぬと言われていたから、付き合っていたに過ぎない」

 シエルはギョッとしたが、マイニーは聞いていたようで、表情は変わらない。だからマルガータは付いて来て、必死になっているのかと思った。おそらく、マリオスと一緒になれないなら、死にたいなどと言ったのだろう。

「ラビンスはあなたでないと駄目なんです。サンドール侯爵令息もそうでしょう?」
「私はマリオスじゃないと駄目なの…お願いよ、元に戻って頂戴」
「では、なぜ君は抑制剤を服用しないんだ?」
「え?」
「君と仕方なく付き合っていた時、君は抑制剤を服用していなかっただろう?」

 いてもいなくても服用する人もいるが、恋人がいる場合は抑制剤を服用することがマナーである。ラビンスは優生者ではないため、服用をしていなかった。

「それは、もしかしたら、あなたの番になるかもしれないと思って」
「そんな訳ないだろう?いい年した女性が突然、番になるはずがない」

 思春期を超えている年の女性が、急に番になることはない。

「自分も番に選ばれるかもしれないから、服用しなかったのだろう?」
「違うわ、そんなわけない」
「お金がないとでも言うのか?そうじゃないだろう?まあ、そういった女性もいるが、付き合って欲しいと言ったくせに、服用しないなんてあり得ない。マナーも分からないのか?」
「ちがっ、違うの!私に番が現れても、あなたを選ぶって言いたかったの」
「理解出来ない。グルテ伯爵家には再三、忠告をしたが、これで接近禁止にさせてもらう。もし、マイニーと結婚しなくても、君と結婚することはない!」
「…そんな」

 崩れ落ちたラビンスと、マルガータを残して、4人は部屋を出た。

「大丈夫でしょうか?あの人」
「伯爵家には既に許可を取ってある。本人の問題だ、嫌な思いをさせてすまなかった。フロランツア侯爵令嬢も」
「いえ」

 ラビンスやマルガータがシエルに何も言えなかったのは、フロランツア家が侯爵家であるからだった。

「2人は知り合いだったんですね、それに驚いちゃって」
「そうなんだ。フロランツア侯爵令嬢と知り合いだと言うから、連れて来たんだ」

 シエルはルノーをじっと見ても、前のような苦しくなるような気持ちは、すっかりなくなったことを、実感することが出来た。

「そういえば、抑制剤って服用していないと分かるものなのですか?」
「ああ、鼻が詰まっていない限りは、優生者は分かると思う」
「服用していない人がいることに驚きました」
「本当に」

 シエルとマイニーは図書館に行き、マリオスは名残惜しそうではあったが、ルノーと一緒にラビンスの処理をすると帰っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

くたばれ番

あいうえお
恋愛
17歳の少女「あかり」は突然異世界に召喚された上に、竜帝陛下の番認定されてしまう。 「元の世界に返して……!」あかりの悲痛な叫びは周りには届かない。 これはあかりが元の世界に帰ろうと精一杯頑張るお話。 ──────────────────────── 主人公は精神的に少し幼いところがございますが成長を楽しんでいただきたいです 不定期更新

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

処理中です...