【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ

文字の大きさ
上 下
25 / 103
私の恋、あなたの愛

しおりを挟む
 距離を取っても、ルノーを思い出すことはなくなったわけではなかった。でも彼にとっては友人が一人減っただけだろうと思うと寂しくもあった。

 マイニーから聞いた後、告白をしてしまう前に、女性がやって来て去ってから、ルノーにわざと聞いたことがあった。

「恋人は作らないの?」
「恋人は要らない。僕には面倒なだけだから」
「そっか」
「うん、運命の相手とか、一人だけとか、楽しく過ごせたらそれでいい。でもシエルは素敵な恋をしたらいい。誠実な相手がいいんでしょう?」
「うん、そうだね」

 前にルノーに、どんな人が好みか聞かれた時に、誠実な人と答えていた。その言葉に嘘はない。

「番とか?」
「それはない。番とかじゃなくて、誠実な人がいいな」

 獣人を先祖に持つ以上、番という繋がりがこの国にはある。

 見た目はヒトと何も変わらないが、血筋の影響を受け継ぐ者や、優れた特徴を持つ者もおり、優生者と呼ばれる。

 優生者は、嗅覚が優れている者が多く、それは唯一の番を見付けるためだと言われており、ルル王国でも番探しのパーティーも公に開かれている。

 このパーティーは、両者がパートナーを求めているパーティーであるため、求めない者は参加しない。

 そして番というのは他者には分からない感覚であったが、近年は詐欺などの事件も起こり、唾液から番であるかは判別できるようになった。

 先祖の血が薄くなっている影響や、元々番への感覚が薄い獣人もおり、番ではなくていいという者や、家の関係で婚約者がいたり、番とは関係なく好きな人がいる場合は、その相手と結婚する者も増えている。

 番と結ばれなくても、抑制剤を服用すれば、衝動は抑えられる程度になっているため、攫ったりその場で襲ったりということはない。

 そして三十歳を過ぎると、番になっていない番は、徐々に認識できなくなると言われており、女性側は子どもを産むと、男性側は認知できなくなることが多い。

「きっと君は幸せになるよ」
「ルノーはならないの?」
「僕は自由でいたい」
「番が現れても?」

 ルノーが優生者かどうかは知らないが、番が見付かったら、夢中になるのかもしれないと思った。

「僕も番は興味ないよ」
「じゃあ、色んな人と?」
「うん、恋とか、愛とか、感情が絡むと疲れるからね」

 その言葉に本当に彼は割り切った相手と、自らの意思で、関係を持っているのだと実感した。どうやって相手を見付けているのだろう?どうやって誘っているのだろう?と思ったが、聞いても苦しくなるだけだから聞かなかった。

 割り切った相手が、本気になったら捨てられてしまうのかもしれない。

 でももしかしたら、その中に本気になる相手もいるかもしれない。

 考えれば考えるほど辛くなっていった。だからこそ、言ってしまったのだ。私の恋を終わらせるために。

 学年が上がって、学舎が変わると全く会うこともなくなった。シエルも目の前のことで精一杯で、思い出すことも減り、マイニーには失恋に効くのは、時間と新しい恋だと言われてはいたが、そんな余裕もなかった。

 マイニーは恋人が今はおらず、番探しパーティーにも出席するそうだ。私は番は要らないので、参加はしない。

 パーティーの翌日、マイニーはが鼻に皺を寄せて、おかしな顔をしていた。番だとでも言われたのだろうか?それにしても、微妙な顔である。

「何かあったの?」
「言おうか、言わないでおこうか迷ったけど、失恋は癒えているよね?」
「もう思い出すこともほとんどないかな」
「じゃあ、微妙かな」
「恋人でも出来たって?それでも変わらないよ?」
「あの男、パーティーに参加してたの!ビックリしちゃった!」
「ええ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

処理中です...