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愛してはいけない人
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体に力が入らないままクノルが、邸に戻ると使用人も混乱を極めており、サイワも真っ青な顔をしていた。
「皇太子妃様から聞いた」
「そうですか…医師を呼びましたが、奥様の、おっしゃられたことは、おそらく正しいだろうと、のことです」
「そうか…」
さすがに気遣ってはいられない状況から、クノルはレイラの部屋を訪ねた。レイラは朝食の時と同じ穏やかな表情をしている。
「おかえりなさいませ」
「皇太子妃様に言ったことは本当なのですか」
「ええ、あなたは知らなかったのですね」
「知るはずがない!」
そんなことを知っていれば、生まれてくる子どもに罪はないが、子どもなど要らなかった。レイラを失ってまで、求めるものではない。
「でも最初に子どもは産めないと言ったはずです」
「それは…私との子など産みたくないという意味かと」
「両方の意味でしたのよ…ふふふ」
「おめでとうございますなどと言って、私が酷い男に見えただろう」
「知らなかったのなら、仕方ありません。両親と弟に会える喜びに、おめでとうございますと言われていると思うことにします」
疑われていたのだと思った、やはり私は死神だ。邸で寄ってたかって、レイラの死を喜んでいた。楽しみですねなんて、言っていたのだ。
「助からないのか…本当に…」
「そう思います、あの男に踏み付けられて、裂けたようでして、応急処置はして貰ったそうですが、まあ無理でしょうね。いいじゃないですか、子どもはここまで無事なんですから、生まれて来ますよ、欲しかったんでしょう?家族が、もう少しで手に入りますよ」
まるで私は家族ではないと言っているようだった。私はあわよくば好きになって欲しいと思っていただけだったのに、なぜこんなことになってしまったのか。
だが、次の瞬間、レイラの表情は急に険しくなった。
「私は母と弟を守れず、父と妹から母を奪いました」
「奪ったのはあの男だ!」
「あの日は父の誕生日でした。私は母に強請って、誕生日ケーキを買いに行こうと言ったんです。それはいいわねと母が言って、弟も一緒に行くと言って。私のせいで、私があんなことを言わなければ…」
だから、あんなにケーキを…あああああ、そうだったのか。でも悪いのは、グラウス・オルダックだ。
「君のせいじゃない!それは断じて違う」
「いいえ!もう後悔しても、何も出来ない。父も妹も私のせいじゃないと、邸の皆も言うのです」
「それが事実だ」
「私が母に強請らなければ、弟の代わりに私が殺されていれば…もう狂うしかなかったんです。父の悲しそうな顔も、私には気遣って見せないようにして、最悪の誕生日にさせてしまった」
「御父上はそう思っていなかったからではないか?」
「あの男を、せめて私の手で殺すことが出来たら…」
私もその点は同意見だ、グラウス・オルダックを、ロアス王国に行く前に戻って、殺したい。そうすれば、御母上も弟君も、レイラの体が傷付くこともなかった。
「私だってあの男を殺したい…」
「初めて意見が合いましたね。皇太子妃様には意地悪なことを言いました、あの方は王家の人間ですから、私の体ことを知っていて、この結婚を勧めて、子どもを産ませようとしているのではないかと、最初から思っていたので」
「死んでもいいと思っていると?」
まさか始めからフルヴィア王太子妃を、そのような風に思っていたとは。
「だってそうでしょう?でも今日、真っ青になっているのを見て、本当に知らなかったのだと実感しました。でも国王陛下が言っていたんです、事件の詳細は他の者が忘れても、王家は絶対忘れないように、引き継いでいくと…」
「それは…」
「その程度だったということです。知らないと言われて、それもショックだったので、意地悪をしました。罰するにも、罰せられないでしょうけど。今日はもう喋り過ぎて疲れたので、休んでもいいですか」
「あっ、ああ…何かあったらすぐにベルを…それだけは」
「わかりました」
「皇太子妃様から聞いた」
「そうですか…医師を呼びましたが、奥様の、おっしゃられたことは、おそらく正しいだろうと、のことです」
「そうか…」
さすがに気遣ってはいられない状況から、クノルはレイラの部屋を訪ねた。レイラは朝食の時と同じ穏やかな表情をしている。
「おかえりなさいませ」
「皇太子妃様に言ったことは本当なのですか」
「ええ、あなたは知らなかったのですね」
「知るはずがない!」
そんなことを知っていれば、生まれてくる子どもに罪はないが、子どもなど要らなかった。レイラを失ってまで、求めるものではない。
「でも最初に子どもは産めないと言ったはずです」
「それは…私との子など産みたくないという意味かと」
「両方の意味でしたのよ…ふふふ」
「おめでとうございますなどと言って、私が酷い男に見えただろう」
「知らなかったのなら、仕方ありません。両親と弟に会える喜びに、おめでとうございますと言われていると思うことにします」
疑われていたのだと思った、やはり私は死神だ。邸で寄ってたかって、レイラの死を喜んでいた。楽しみですねなんて、言っていたのだ。
「助からないのか…本当に…」
「そう思います、あの男に踏み付けられて、裂けたようでして、応急処置はして貰ったそうですが、まあ無理でしょうね。いいじゃないですか、子どもはここまで無事なんですから、生まれて来ますよ、欲しかったんでしょう?家族が、もう少しで手に入りますよ」
まるで私は家族ではないと言っているようだった。私はあわよくば好きになって欲しいと思っていただけだったのに、なぜこんなことになってしまったのか。
だが、次の瞬間、レイラの表情は急に険しくなった。
「私は母と弟を守れず、父と妹から母を奪いました」
「奪ったのはあの男だ!」
「あの日は父の誕生日でした。私は母に強請って、誕生日ケーキを買いに行こうと言ったんです。それはいいわねと母が言って、弟も一緒に行くと言って。私のせいで、私があんなことを言わなければ…」
だから、あんなにケーキを…あああああ、そうだったのか。でも悪いのは、グラウス・オルダックだ。
「君のせいじゃない!それは断じて違う」
「いいえ!もう後悔しても、何も出来ない。父も妹も私のせいじゃないと、邸の皆も言うのです」
「それが事実だ」
「私が母に強請らなければ、弟の代わりに私が殺されていれば…もう狂うしかなかったんです。父の悲しそうな顔も、私には気遣って見せないようにして、最悪の誕生日にさせてしまった」
「御父上はそう思っていなかったからではないか?」
「あの男を、せめて私の手で殺すことが出来たら…」
私もその点は同意見だ、グラウス・オルダックを、ロアス王国に行く前に戻って、殺したい。そうすれば、御母上も弟君も、レイラの体が傷付くこともなかった。
「私だってあの男を殺したい…」
「初めて意見が合いましたね。皇太子妃様には意地悪なことを言いました、あの方は王家の人間ですから、私の体ことを知っていて、この結婚を勧めて、子どもを産ませようとしているのではないかと、最初から思っていたので」
「死んでもいいと思っていると?」
まさか始めからフルヴィア王太子妃を、そのような風に思っていたとは。
「だってそうでしょう?でも今日、真っ青になっているのを見て、本当に知らなかったのだと実感しました。でも国王陛下が言っていたんです、事件の詳細は他の者が忘れても、王家は絶対忘れないように、引き継いでいくと…」
「それは…」
「その程度だったということです。知らないと言われて、それもショックだったので、意地悪をしました。罰するにも、罰せられないでしょうけど。今日はもう喋り過ぎて疲れたので、休んでもいいですか」
「あっ、ああ…何かあったらすぐにベルを…それだけは」
「わかりました」
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