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愛してはいけない人

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 フルヴィアから報告を受けたエルカン皇太子も絶句するしかなかった。

「そんな…」
「もう産み月ですから、どうにもなりません。私が気付いていれば…いえ、それでも遅すぎましたね」
「どちらも助けることは…本当に無理なのか」
「医師に任せるしかありませんが、治癒術は効いていないというのは、可能性が高いです。彼女のこれまでのことを考えれば、嘘を付く理由がないのです」

 治癒術が効くならば、足も目も治っていただろう。

 おそらく、事件の後にキア皇国から治癒師が派遣されていたはずだ。時間が経って治せなかった可能性はあるが、足も目も治っていないということは、子宮も治っているとは考えられない。

 もしかしたら、拒否した可能性もある。

「それでも派遣はしよう、少ない可能性でもいい」
「…はい」
「邸でも聞かされるだろうが、クノルにも話しておこう」

 クノルを呼び出し、どうか落ち着いて聞くようにと言って、話し始めると、みるみる絶望に変わっていった。

「そんな、嘘ですよね…」
「私だって嘘だと思いたい、でも彼女が嘘を言うとは思えない。覚悟をしておくべきだろう」
「だったら、彼女はあと数週間の命だというのですか」
「ああ、命と引き換えならそう、いうことになる」
「そんな…」

 レイラがいなくなる?私の側からではなく、この世から?

「自分の死はめでたいことだと、そう思うようにしたと言っていました」
「…あああああ!おめでとうございますは、彼女へ死へ誘う言葉だったというのか!まるで死神だ…私は死神に見えただろう」

 クノルの絶叫は無理もないことだ、唯一の番を失う。エルカンにも痛いほど分かる。それが二人の子どもが生まれる条件だとしても、気が狂うようなことだ。

「落ち着け、医師も治癒師もすぐに派遣して常時、交代で待機させる。陣痛が始まれば、追加で応援に行かせる」

 事件の記録を調べたら、レイラは治せるなら母を、弟を、護衛をどうして助けてくれなかったのか!と、治癒術を拒否していた。それでも王家の説得で、どうにか受けて貰ったが、変わりはなかったそうだ。

「私は母国に知らせます。レンバー伯爵家には、こちらには来ないことがレイラ夫人の望みですから、でももし会えるのなら…ああ、どうしたらいいの!」
「夫に知らせて、判断して貰ってはどうだ?妹君は絶対に行くと言うだろう」
「そうね、そうするわ」
「もし来るなら、獣人に会わぬようにこちらでも徹底して、人の護衛を付けて貰えばいい。獣人は遠くから警備させる」

 しかし、キオトは嫁ぐ前にレイラに頼まれていた。

「これだけは約束して欲しいの。何があっても、ルビーナをキア皇国に来させないで。私に万が一のことがあってもよ、いい?」
「ですが、ルビーナは行くと言うでしょう」
「その時はこの文を渡して欲しいの。私の気持ちが書いてあるわ。これで来ると言ったら、来ればいいわ」
「わかりました」

 レイラの妊娠を聞き、すぐに向かうと言い出したが、文を読んだルビーナは唇を噛みしめ、ロアス王国に留まり、レイラの無事を祈ることにした。

 レイラはこう書いていた。

 ―――――――――――――――――――――
 ルビーナへ

 もし私に万が一のことがあった場合でも、絶対にキア皇国は来ないで。

 あなたまで番に選ばれたら、私はその相手をどんな手を使ってでも、殺すわ。
 私を人殺しにしないで。

 母も弟も守れなかった。

 私の守りたい気持ちを無碍にしないで。
 お願いだから、私があなただけでも、守りたい気持ちをどうか分かって頂戴。

 ルビーナを愛するレイラより
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