上 下
17 / 103
愛してはいけない人

17

しおりを挟む
「おそらく、そうなるでしょう。妊娠した時、いい死に方だと思ったのです。獣人に傷付けられて、そのせいで出産に耐えられないのに、獣人の子を産んでというのは、何て皮肉だこと、そう思いません?」

 レイラは同じ穏やかな表情で、淡々と話している。

「そんな…」
「母は嬲り殺され、娘は獣人の子を産まされて殺された、そうなるかもしれませんわね、ふふふ」

 まさか復讐だというの?でもレイラが意図したことではない、言うなれば不可抗力。妊娠した時点で、決まっていたというのか。

「…でも、あなたが助かることだってあるはずよ」
「その可能性は低いと思います。痛みには慣れておりますが、日に日に痛みがあります。限界なのでしょうね、この子どもは可哀想ですよね。母を殺して出て来るのですから、私の様に病んでしまうかしら?でも私はとても心は穏やかな気持ちですの」

 ああ、もう何を言っても届かないのかもしれない。レイラは妊娠が分かった時点で、いずれこうなることを予想していたのだ。昨日や今日ではない、何ヶ月もあった。狂気は静かに始まっていたというのか。

「ど、どうしてこの前は言わなかったの?」
「探っていました、あとは妹に知らせて貰っては困るからです。あとは皇太子様、皇太子妃様が勧めた結婚でしたから、結末を知って貰おうと思いまして。やはり一番分かってくださる、人である皇太子妃様に告げようと思っていました」

 今日、フルヴィアはレイラからの誘いで、公爵邸に来ている。

 あと数週間しかない、だからこそ今日だったのだ。出産で亡くなることはあることではある、だが分かっていたというのは違う。

「皇宮から医師を、治癒師も呼んで貰うわ」
「無理ですよ、医師には助けられない。私が医師に言わなかったのに、助けられずに罰されたら可哀想でしょう?治癒術は、私にはあまり効果はありませんから」

 治癒師とは傷などを治す術が使える者で、数は少ないが、皇宮にはいる。

「どうして…」
「だって、私は生きたいなんて10年以上前から思ったことがありませんから」

 フルヴィアは絶句するしかなかった、治癒術は治りたいと思う者にしか、あまり効果がないと言われている。

「妹君は?」
「知っています」
「っあ、だから母国に知らせないで欲しいと」
「ええ、皇太子妃様はご存知だと思ったものですから、察していただけるのではないかと思ったのですが、伝わっていないのならば、どちらでも構いません」

 早い段階で母国に知らせていれば、出産に耐えられないことは分かったというのか。王家は昔のことで憶えていなくても、妹君は分かっただろう、姉が死んでしまうことに。

 今さら考えても仕方ないが、堕胎していても助かるか分からないと言われたら、堕胎を勧めただろうか…。

「でも妹君は悲しむわ…」
「あの子には子どもが生まれて、すべてが終わって知らせてやってください。もう迷惑を掛けたくないので」
「呼ぶことだって」

 レイラと目つきが一気に変わった。

「絶対に呼ばないでください!あの子まで番だと言われたら、あなたは責任が取れるのですかっ!!」
「あっ、ごめんなさい」

 皇太子妃妃に対して使っていい言葉ではないが、レンバー伯爵家を守るという名目で嫁いだレイラには言う権利がある。

「もういいのです、1人死んで、1人生まれればいいではありませんか、この国にもロアス王国にとっても、私よりこの子の方が価値があるでしょう?」
「それは違うわ、あなたは希望だった…本当よ」

 フルヴィアも子どもは諦めてはいないが、このまま産めなくても、レイラが産んだ子どもがいることは、希望となるはずだった。

 フルヴィアは王宮に帰り、すぐさま皇太子にレイラの状況を報告した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? ※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定! コミックシーモア様にて12/25より配信されます。 コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。 リンク先 https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/

だから言ったでしょう?

わらびもち
恋愛
ロザリンドの夫は職場で若い女性から手製の菓子を貰っている。 その行為がどれだけ妻を傷つけるのか、そしてどれだけ危険なのかを理解しない夫。 ロザリンドはそんな夫に失望したーーー。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

処理中です...