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愛してはいけない人
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「実はミクサーが避妊薬を服用させていませんでした」
「なな、何だと!」
「申し訳ありませんでした」
「申し訳ありません、私の独断で行ったことです」
サイワとミクサーはクノルに向かって、深く頭を下げた。
「…そうか、だから子どもが出来たのか。粗悪品ではなかった」
「はい、そのようです」
「ミクサーは私を思ってそうしたんだろう?」
「申し訳ありません」
サイワもクノル様がミクサーの気持ちを汲んでくれることは分かっていた。分かっていたが、問題は奥様のことだ。
「今となっては感謝するべきなのだろうが、レイラはそうは思わないだろう」
「奥様にはいかがしますか」
「話すことは出来ないだろう、そんなことを知れば、信用を失うだろう?例えば、何か薬を服用する際に、疑心暗鬼になる」
元々、信用されているか分からない状態で、避妊薬は実は服用させていなかったと伝えれば、今後何かあった時に、信用しては貰えないだろう。
「販売元には伝えたと話しておく」
「申し訳ありませんでした」
「ミクサーはもう戻っていい」
ミクサーは先程、喜んでいた姿とは別人のように肩を落として去っていた。
「ミクサーだけが妊娠かもしれないと思っていたんじゃないか?」
「そうでしょうね、でも製造元に連絡をするように聞いて、白状したようです。あと、いつか言うつもりだったとも申しておりました」
「いつかね…素直に喜べなくなったな」
クノルは二人が来るまで、呆然と幸せをかみしめていた。夫婦とは呼べなくても、子どもが生まれれば、親子で家族にはなれる。そう思っていた。
「申し訳ありません。ミクサーがクノル様に家族を作って欲しいということを、誰よりも思っていたことは分かっておりましたのに」
「まさか服用させぬとは思わないだろう?確認したのだろう?」
「あの日は、慌ただしい状態でしたので、その場は見ておりませんが、ミクサーの答えと、空き瓶は確認しました」
「そもそもは私の責任だ、だが嬉しいことには変わりない。レイラには望む物を与えてくれ。要望がなければ、今まで通りそっとしておいて欲しい。妊娠中に何かあったら大変だ」
「承知しました」
その後は医師の診察が増えたくらいで、変わりなく過ごし、レイラは食事も少し増やしたいと言い、使用人も急に距離を詰めたりはせず、それでも笑顔も増え、邸は今までで一番明るくなった。
ミクサーにも罰を与えることはしなかった。
レイラはお腹も目立つようになり、部屋にいるか、散歩をするくらいであるために、ミクサーが気を利かせて、子どもに靴下などを編んではどうかと勧めた。普通であれば部屋で出来る、いい案だったが、レイラには違った。
「あなたは私が嫌いなんでしょうね」
「え…どうしてそのようなことを」
「坊ちゃんの番が私なのが気に食わないのでしょう?でもそんなの私が望んだわけではないわ。普通の子だったら良かったのに。坊ちゃんは親を亡くして寂しい思いをされたのに、こんなのが番なんてと思っているのでしょう?」
「そ、そのようなことはございません」
「私は片目がほとんど見えないの」
ミクサーも知っていたはずが、レイラが不自由そうにしていないことから、想像出来ていなかった。
「それなのに、なぜ敢えて目が疲れるようなことをさせようとするの?視力も奪おうということかしら?」
「も、申し訳ありません」
レイラは補っている片目も、誰にも言っていないが、実は徐々に視力は落ちており、読書や編み物などの細かい作業は酷く疲れる。妊娠中に皆がやっているようなことは、レイラには苦痛でしかなかった。
本当に何も要らなかったというよりは、出来ることが少ないのだ。
「なな、何だと!」
「申し訳ありませんでした」
「申し訳ありません、私の独断で行ったことです」
サイワとミクサーはクノルに向かって、深く頭を下げた。
「…そうか、だから子どもが出来たのか。粗悪品ではなかった」
「はい、そのようです」
「ミクサーは私を思ってそうしたんだろう?」
「申し訳ありません」
サイワもクノル様がミクサーの気持ちを汲んでくれることは分かっていた。分かっていたが、問題は奥様のことだ。
「今となっては感謝するべきなのだろうが、レイラはそうは思わないだろう」
「奥様にはいかがしますか」
「話すことは出来ないだろう、そんなことを知れば、信用を失うだろう?例えば、何か薬を服用する際に、疑心暗鬼になる」
元々、信用されているか分からない状態で、避妊薬は実は服用させていなかったと伝えれば、今後何かあった時に、信用しては貰えないだろう。
「販売元には伝えたと話しておく」
「申し訳ありませんでした」
「ミクサーはもう戻っていい」
ミクサーは先程、喜んでいた姿とは別人のように肩を落として去っていた。
「ミクサーだけが妊娠かもしれないと思っていたんじゃないか?」
「そうでしょうね、でも製造元に連絡をするように聞いて、白状したようです。あと、いつか言うつもりだったとも申しておりました」
「いつかね…素直に喜べなくなったな」
クノルは二人が来るまで、呆然と幸せをかみしめていた。夫婦とは呼べなくても、子どもが生まれれば、親子で家族にはなれる。そう思っていた。
「申し訳ありません。ミクサーがクノル様に家族を作って欲しいということを、誰よりも思っていたことは分かっておりましたのに」
「まさか服用させぬとは思わないだろう?確認したのだろう?」
「あの日は、慌ただしい状態でしたので、その場は見ておりませんが、ミクサーの答えと、空き瓶は確認しました」
「そもそもは私の責任だ、だが嬉しいことには変わりない。レイラには望む物を与えてくれ。要望がなければ、今まで通りそっとしておいて欲しい。妊娠中に何かあったら大変だ」
「承知しました」
その後は医師の診察が増えたくらいで、変わりなく過ごし、レイラは食事も少し増やしたいと言い、使用人も急に距離を詰めたりはせず、それでも笑顔も増え、邸は今までで一番明るくなった。
ミクサーにも罰を与えることはしなかった。
レイラはお腹も目立つようになり、部屋にいるか、散歩をするくらいであるために、ミクサーが気を利かせて、子どもに靴下などを編んではどうかと勧めた。普通であれば部屋で出来る、いい案だったが、レイラには違った。
「あなたは私が嫌いなんでしょうね」
「え…どうしてそのようなことを」
「坊ちゃんの番が私なのが気に食わないのでしょう?でもそんなの私が望んだわけではないわ。普通の子だったら良かったのに。坊ちゃんは親を亡くして寂しい思いをされたのに、こんなのが番なんてと思っているのでしょう?」
「そ、そのようなことはございません」
「私は片目がほとんど見えないの」
ミクサーも知っていたはずが、レイラが不自由そうにしていないことから、想像出来ていなかった。
「それなのに、なぜ敢えて目が疲れるようなことをさせようとするの?視力も奪おうということかしら?」
「も、申し訳ありません」
レイラは補っている片目も、誰にも言っていないが、実は徐々に視力は落ちており、読書や編み物などの細かい作業は酷く疲れる。妊娠中に皆がやっているようなことは、レイラには苦痛でしかなかった。
本当に何も要らなかったというよりは、出来ることが少ないのだ。
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