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愛してはいけない人

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「事実ですから、お伝えしないとなりませんでしょう?それとも、皆様はお伝えしないのですか、結婚という契約をするのに、都合の悪いことは黙っているのですか」
「それはっ」

 クノルは社交が難しいと聞いていたので、話をすることもままならないのではないかと思ったが、ハキハキと話して、思っていた印象と全く違った。

「黙っていることは、不誠実になりませんか?あとは不自由な体なのは、分かっておりますよね?それなのに結婚?あり得ないという結論になりませんか?」
「邸には使用人もいるから、不自由なことは問題ない」
「大変失礼なことかもしれませんが、私は男性には触れれるのも耐え難いのです」
「だが、先程…」
「ああ、支えてくれていたのは叔父です。家族は大丈夫です。私は母の遺体を見ていますと言えば分かりますか?」

 クノルは息をのみ、自身でゴクっという音が聞こえた。アリナリアは暴行を受け、亡くなっている。酷い状態であったことは間違いない。誰も何も言えなかった。

「貴族の結婚は後継のためでしょう?私は不自由な体ですから、産めませんわよ?」
「ああ、それは問題ない」
「待て、子どもは必要だろう」
「そうでしょう?ですから抑制剤を服用すれば、他の者で大丈夫でしょう?他の方と結婚して、子どもを産んでもらった方がよろしいのでは?私がいるところは修道院です。別の誰かと添い遂げ、お心を煩わせるような場所でもございませんでしょう?」

 番でないと子どもが出来ないわけではない。だが、番同士の方が子どもが出来やすいのは事実である。

「気持ちの面は私にはどうしてもわかってはあげられないけれど、悪い話ではないと思うの。フォッド公爵は傷付けるような方ではないわ」
「絶対に傷付けるようなことはない。命を懸けてもいい」
「私は番ではないけど、嫁ぐの。選ばれたあなたとは違うけれど、国のために、これからのために力になってくれない?」

 宰相もレンバー伯爵家でなければ、どうか嫁いで欲しいと言えた。王女と、皇太子の側近に番と望まれた令嬢、二人が嫁げば、何かあった時にすぐに動いてくれる。

 王女は皇太子の番ではない。皇太子の番は、数年前に病で亡くなっており、狂う前に番に望まれて、既に抑制剤を飲んでいる。

 王女も事故で婚約者を亡くしており、境遇は似ているが、互いに恋焦がれた相手ではない、だが二人は友好のために結婚を選んだ。

 だが、レンバー伯爵夫妻を知る一人としては、言うことは出来なかった。

 フルヴィア王女は乗り気だったが、陛下も無理強いは出来ないと言った。言っていることも王女としては最もな意見ではある。フォッド公爵はグラウス・オルダックではない。

 だが、あの惨劇を身を持って知らないフルヴィア王女が、目に余る様なら止めて欲しいと言われている。

 あの事件は発覚は早かったが、その後が誰だか分からない、出国の手続きをしていないなど、後手後手に回ってしまい、アリナリア様を助け出すことは出来なかった。せめてもと遺体を渡して貰ったが、家族の心にはさらに深く痛めつけられたと思う。

「断れるのではないのですか?婚約者もおらず、結婚していないからですか?」

 番と望まれても断ることは出来る。これは決まっていることだ。だが、愛し合っている夫婦や、婚約者同士でなければ、不遇な環境から逃げ出したいと思う者もいたりするため、婚約者がいても、結婚していても確認はされる。

 そして婚約者がいない、結婚していない場合は、受け入れることが今までは前提であった。悲惨な事件がレンバー伯爵家以外にもあったにもかかわらず、自身だけを愛してくれると、憧れている若い令嬢もいるほどである。
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