3 / 344
【アイルーン】優しさ
しおりを挟む
翌日、教会でディオエルとアイルーンが、番の確認をすると、二人の手の甲には迷路のような印が浮かび上がった。
これで間違いだということはなくなり、相手は強国で、いくら侯爵家でも、結婚が破談になった邪魔な令嬢であるアイルーンに抗う術はなかった。
母は三年前に既に亡くなっていたが、父と兄は甲斐甲斐しく準備を進めており、最後には本当に良かった、母も喜んでいると言われ、アイルーンの薄い笑みにも気付くことはなかった。
愛されたいなどと、貪欲に求めていたわけではないアイルーンですら、どんな人となりであれ、五人の妃にはいい思いは持てなかった。
だが、父と兄にとってはあの眼鏡の説明で納得が出来るもので、男性側からしか考えられず、仕方ないことだで済むのだろう。
悲観的なアイルーンは、私の気持ちはどこにあるのかすら、誰も気にもしていない。自分だけが不幸だと思うのではなく、何だか変な気分をずっと感じていた。
皇帝が滞在していることや、教会でのこと、王家にも報告をしたことから、カフェに誘ってくれた友人である同じ侯爵令嬢のナビナと、伯爵令嬢のレイエンヌとミラニューも、アイルーンが皇帝の番だったと聞いたようで、嬉しそうに訪ねて来た。
「辛いこともあったけど、アイルーンが番に出会うためだったのよ。あいつらは、アイルーンの幸せの踏み台よ!」
「そう…かしら?」
アイルーンは番だと判明しても、確認をしても、輿入れが決まっても、どうしても愛することも、幸せも何も手にした気持ちがなかった。
「私もナビナに同意よ、本当にそう思うわ」
「羨ましいくらいですわよ」
三人はそれぞれに結婚を控えており、四人の中で最初の結婚式が、アイルーンであるはずだった。
「こんな短い期間で状況が変われば、気持ちが追い付かないのは分かるわ。でも、きっとあんな男と結婚するよりも、絶対に幸せになれるんだから」
レイエンヌとミラニューも、そうそうと頷いている。
「でも、目も合わさないのよ?」
「そうなの?恥ずかしいのかしら?」
「噂だけど、実直な方だって聞いたことがあるわ」
ミリオン王国の貴族令嬢がディオエルのことは、ほとんどが噂程度でしか知ることのない存在である。
「じゃあ、まだどう接したらいいか分からないのよ」
「そうよ、アイルーンにはマークのことで辛いだろうから言えなかったけど、男性にとって番は愛おしくて堪らない存在だそうよ」
一番、何事にも冷静で、博識なレイエンヌが心苦しそうに話した。
「女性は違うの?」
「女性は男性よりも理性が強いんですって、子どもを産んでからは母性にもなって、男性よりも冷静なことが多いそうよ」
「なら…私も冷静なのね」
「何も思わないことはないのでしょう?」
アイルーンも歴史ある侯爵家であるために、番を感知することは出来る。血が薄まった家や、猿類を始祖に持つ家では感知が出来ないことが多い。
「湧き上がる気持ちはあったけど、抑え込めるものだったわ」
「二人きりにはなっていないのでしょう?」
「ええ、勿論よ」
いくら番だ、妃になって貰うという間柄でも、すぐに二人きりにということはなかった。アイルーンも、望みたいとも思わなかった。
「きっと、臣下の前で、デレデレするわけにはいかないのよ!皇帝だから威厳は大事でしょう?」
「そうかしら?妃のことも、気が重くて堪らないわ」
三人も喜ばしいことではあったが、気がかりなのは、既に妃がいるということであった。レイエンヌは口籠ったが、ナビナとミラニューは強く励ました。
「皇帝陛下が守ってくれるわよ!」
「そうよ!番が酷い目に遭うわけないじゃない」
「そうね」
友人たちが励まそうとしているのは頭では分かっているが、アイルーンはこの前のように心が軽くなるようなことはなかった。
そして、三人は絶対に遊びに行くからねと言い、アイルーンは帰って行く姿を見送りながら、なぜかもうこの背中を見ることはないのではないかと感じていた。
これで間違いだということはなくなり、相手は強国で、いくら侯爵家でも、結婚が破談になった邪魔な令嬢であるアイルーンに抗う術はなかった。
母は三年前に既に亡くなっていたが、父と兄は甲斐甲斐しく準備を進めており、最後には本当に良かった、母も喜んでいると言われ、アイルーンの薄い笑みにも気付くことはなかった。
愛されたいなどと、貪欲に求めていたわけではないアイルーンですら、どんな人となりであれ、五人の妃にはいい思いは持てなかった。
だが、父と兄にとってはあの眼鏡の説明で納得が出来るもので、男性側からしか考えられず、仕方ないことだで済むのだろう。
悲観的なアイルーンは、私の気持ちはどこにあるのかすら、誰も気にもしていない。自分だけが不幸だと思うのではなく、何だか変な気分をずっと感じていた。
皇帝が滞在していることや、教会でのこと、王家にも報告をしたことから、カフェに誘ってくれた友人である同じ侯爵令嬢のナビナと、伯爵令嬢のレイエンヌとミラニューも、アイルーンが皇帝の番だったと聞いたようで、嬉しそうに訪ねて来た。
「辛いこともあったけど、アイルーンが番に出会うためだったのよ。あいつらは、アイルーンの幸せの踏み台よ!」
「そう…かしら?」
アイルーンは番だと判明しても、確認をしても、輿入れが決まっても、どうしても愛することも、幸せも何も手にした気持ちがなかった。
「私もナビナに同意よ、本当にそう思うわ」
「羨ましいくらいですわよ」
三人はそれぞれに結婚を控えており、四人の中で最初の結婚式が、アイルーンであるはずだった。
「こんな短い期間で状況が変われば、気持ちが追い付かないのは分かるわ。でも、きっとあんな男と結婚するよりも、絶対に幸せになれるんだから」
レイエンヌとミラニューも、そうそうと頷いている。
「でも、目も合わさないのよ?」
「そうなの?恥ずかしいのかしら?」
「噂だけど、実直な方だって聞いたことがあるわ」
ミリオン王国の貴族令嬢がディオエルのことは、ほとんどが噂程度でしか知ることのない存在である。
「じゃあ、まだどう接したらいいか分からないのよ」
「そうよ、アイルーンにはマークのことで辛いだろうから言えなかったけど、男性にとって番は愛おしくて堪らない存在だそうよ」
一番、何事にも冷静で、博識なレイエンヌが心苦しそうに話した。
「女性は違うの?」
「女性は男性よりも理性が強いんですって、子どもを産んでからは母性にもなって、男性よりも冷静なことが多いそうよ」
「なら…私も冷静なのね」
「何も思わないことはないのでしょう?」
アイルーンも歴史ある侯爵家であるために、番を感知することは出来る。血が薄まった家や、猿類を始祖に持つ家では感知が出来ないことが多い。
「湧き上がる気持ちはあったけど、抑え込めるものだったわ」
「二人きりにはなっていないのでしょう?」
「ええ、勿論よ」
いくら番だ、妃になって貰うという間柄でも、すぐに二人きりにということはなかった。アイルーンも、望みたいとも思わなかった。
「きっと、臣下の前で、デレデレするわけにはいかないのよ!皇帝だから威厳は大事でしょう?」
「そうかしら?妃のことも、気が重くて堪らないわ」
三人も喜ばしいことではあったが、気がかりなのは、既に妃がいるということであった。レイエンヌは口籠ったが、ナビナとミラニューは強く励ました。
「皇帝陛下が守ってくれるわよ!」
「そうよ!番が酷い目に遭うわけないじゃない」
「そうね」
友人たちが励まそうとしているのは頭では分かっているが、アイルーンはこの前のように心が軽くなるようなことはなかった。
そして、三人は絶対に遊びに行くからねと言い、アイルーンは帰って行く姿を見送りながら、なぜかもうこの背中を見ることはないのではないかと感じていた。
3,191
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
間違えられた番様は、消えました。
夕立悠理
恋愛
※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※
竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。
運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。
「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」
ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。
ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。
「エルマ、私の愛しい番」
けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。
いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。
名前を失くしたロイゼは、消えることにした。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる