【完結】愛しくない、あなた

野村にれ

文字の大きさ
1 / 344

【アイルーン】白紙

しおりを挟む
「お話とは何でしょうか?」

 アイルーン・デリア侯爵令嬢の元へ、同じく侯爵家の婚約者であるマーク・ファドットが、急に話をしたいことがあると訪ねて来ていた。

「アイルーン嬢、すまないが、私は番と出会ったんだ。君には本当に申し訳ないと思っているが、結婚は出来なくなった」
「つがい…?」

 ミリオン王国には獣の魂を始祖に持つために、見た目はヒトとほとんど変わらないが、番うというお互いの本能のような結びつきがある。

 だが、それは同じ時間に現れることがなければ、なかなか出会えないとされており、百以上ある貴族の中でも番夫婦は十分の一にも満たない。

 素晴らしいことだとはされているが、問題になることも多く、真摯に対応しなければ、ミリオン王国から退去を命じられることもある。

 貴族の場合は、離縁や婚約解消し、番と結婚した場合は、王家主催のパーティーなどは五年間、出席が出来ないというペナルティもある。

 それは番によって、傷付けられた者が、さらに仲睦まじい二人を見て、傷付かないようにするためで、マークは番と結婚しても、五年間は何があっても、王家主催のパーティーには呼ばれない。

 これは平民と違って、貴族は簡単に国を離れたり出来ないからである。

 それでも、番ではないと虚偽の申告をするよりも、解消は仕方ないということで進められやすく、教会には番同士が触れると手の甲に同じ印を浮かび上がらせる水晶もあり、確認することも可能である。

 アイルーンは第三者のように、彼は出会えたのねと思っている自分も、心の端の方にいた。

「本当にすまないと思っている。君に落ち度がないように婚約は白紙にして、勿論、慰謝料も、結婚式の費用も全て支払う」
「私が何も言っても変わらないってことね…」
「すまない…君は何も悪くない」
「そう…」
「本当にすまない、君の幸せを願っている。それだけは信じて欲しい」

 そう言うと、彼は深く頭を下げて、出て行った。今までアイルーンを置き去りに出て行くことも、アイルーンも彼を見送らないこともなかった。

 別室では父が彼の父親と、話をしていることだろう。

 見付かった番と離れたくなくて、わざわざ腕にぶら下げて、婚約を解消したいと言われた者も過去にはいると聞くが、そのようなことがなかっただけでも、良かったのだろうか。

 それでも早々に出て行ったことから、私といる時間は不快なものに変わってしまったのか。

 お互いが好意を持って、結ばれた婚約ではなかったが、彼を婚約期間中に愛していた。彼もいつも優しく、好ましいと言ってくれていた。

 それでも現実を少なからず聞いていた私は、一生お互いが思い続けるなんて思ってはいなかった。いつか浮気、愛人問題に悩まされることもあるかとは思っていた。

 でも、今ではないと思っていた。

 それなのに、本能というものでなくしてしまった。

 結婚式の八日前であった。

 婚約は元からなかった白紙となり、十分すぎるほどの慰謝料も支払われたが、アイルーンは気持ちをどこに置けばいいのか分からなかった。

 本当なら八日後に、結婚式だったのだから。

 籠っていてはさらに落ち込むだけだと、友人に誘われて、カフェに行くと、ある男性と強く目が合ったが、すぐに目を逸らした。

 その後は友人たちにマークには会わないように私たちがするからと、励まされて、少し軽くなった心で邸に戻った。

 だが、翌日、デリア侯爵家に、竜帝国の方がやって来た。真ん中にいたのは、あのカフェで目のあった男性であった。

「ご令嬢が、ディオエル皇帝の番だと判明しました」

 皇帝の側近なのか、横の眼鏡を掛けた男性が話し始めた。

「また、つがい?」

 アイルーンは同席させられて、今はあまり聞きたくない言葉であったために、思わず口に出していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お読みいただきありがとうございます。

新しい話を書きたい、また番の話を書きたい、
ちょっと悲しい話が書きたい気持ちがたまっており、
現在、連載中の一作に終わりの目途が立ったので、
今回はバレンタインに向けて、恋愛強めで書き始めたいとは思っています。

どうぞよろしくお願いいたします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

処理中です...