【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ

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番外編2

ルアース・ベルア1

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 尊敬出来る人であり、同志でもあり、友人だったサリーを亡くした。葬儀に向かい、帰るまではサリーのことだけを考えて過ごした。

 葬儀が終わると、サリーの息子であるミーラ殿下から声を掛けられた。二度ほど会ったことがあり、今もサリーによく似ていた。

「遥々ありがとうございました」
「いいえ、もっと早く来ていればとも、思いました」
「おそらく母はベルア様には弱ったところは、見せたがらなかったでしょう。笑ったまま、あなたの記憶に残りたいと思ったと思います」
「左様でございますね」
「もし、何か希望の物があれば形見分けしますが、どうでしょうか?」

 咄嗟なことで思い付かなかったが、私とサリーを繋いだ物がいいと思えた。

「ビアロ語の辞書をいただけませんか、私たちを繋いでくれた証ですので」
「分かりました、少しお待ちいただけますか」

 ミーラ殿下はこのまますぐに帰る私のために、辞書を妻と侍女と探しに行き、応接室で待たせてもらうことになった。

「ルアース・ベルア様、王太子殿下から少しよろしいでしょうか」
「はい」

 入って来たのは紛れもなくサリーの夫・リール王太子殿下であった。周りから話は色々聞いているが、会うのは初めてである。

「サリーがお世話になりました。本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそ大変お世話になりました」
「サリーはあなたに会えて、本当に良かったと、私も同じように思っております。感謝だけ伝えたくて参りました」

 パフォーマンスなどではないことは分かった。パフォーマンスならば、これでも人気作家であるため、人が見ている中で、私に感謝を伝えた方がいいと思うはずだ。

「こんなに早くいなくなってしまうとは思っていませんでした。あの笑顔がもう見れないと思うと、胸が苦しくなります」
「サリーは笑っていましたか?」
「はい、怒られることでしょうけど、口を開けて、よく笑っていました」
「そうですか…」

 そう言うと満足そうに頷き、そこへありましたとミーラ殿下がやって来て、王太子殿下はそっと去って行った。思うところはあるが、今さら何も言うことはないと、有難く辞書を受け取って帰ることになった。

 貰った辞書には間違えやすい言葉に、少し書き込みがしてあり、温かみがある、一番怒っているなどと、書かれていた。

 そして、アーガン王国に戻り、これからもサリー・オールソン王太子妃殿下が広めてくれた翻訳版を、今度は翻訳家たちと、私自身が死ぬまで守り続けると、これはサリー王太子妃殿下の願いでもあると、そしてサリー王太子妃殿下がモデルではないかと言われていたキャラクターであるラーラは、サリー王太子妃殿下がモデルだと認め、サリーは物語の中で生き続けると追悼文を発表した。

 私が物書きになったのは結婚して、子どもを産んでからである。夫は最低限のことをしてくれれば、君の夢を叶えて欲しいと言ってくれる人だった。子どもたちが自分のことは自分で出来るようになってから、書き始めた。

 『コルボリット』は推理小説が好きだった私のずっと考えていた魔法とミステリー物語だった。

 主人公はクペル・パルー。幼い頃は天使のように可愛いと言われて育ったが、当の本人は外見に興味はなく、学問、生活の知恵まで知ることに興味のある少年で、コルボリットという体を幼くする力を持っている。

 都合が悪くなると天使の姿になれるということである。クペルは天使の姿だと皆怒りにくくなるため、上手く利用しながら、事件や日々を送っていく姿を描いている。

 少しずつ口コミで広がり、アーガン王国では人気作家の仲間入りをした。

 長編の予定ではあったが、ここまで続けられるとは思っておらず、最終回の姿は見えているのだが、熱い声援もあって、今も続けられている。それは翻訳を受けてくれたサリー・ペルガメントの存在があったとしか言いようがない。


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お読みいただきありがとうございます。

ルアース・ベルアの回となります。
全5回の予定です。

ルアース・ベルア、そしてラストの人物へ、
そして完全に完結となります。

どうぞよろしくお願いいたします。
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