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番外編2
ティファナ・アズラー3
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「でも、サリー様は違うんですよ。名前は出しませんけど、似たような方もいました。本人は社交界からいなくなりましたけど、家族は表向きは変わりなく、過ごしています。過剰に責任を取ろうとする方を、止めさせたこともあります。何が言いたいかというと、サリー様は夫人に感謝していた、それだけは分かってください」
レベッカも側妃見習いだったので、社交が出来る立場ではなかったこともあり、アズラー侯爵夫妻に会うこともなかった。夫妻を責めたいわけではなく、伝えたかったのは、サリー様は本当に感謝をしていたということだった。
「それは…」
「私が偉そうに言える立場でないことは分かっています。サリー様は人に教えることが、難しいことでした。サリー様にとって覚えていることは当たり前ですから、皆はそうはいかない。それでティファナ先生ならと、よく口にされていました。それを私は知っておいて欲しかったのです」
「そう、そうですか…私も役に立てたのならば」
文にも書いてあったことだったが、ひと匙でも何か力になれたのならば、嬉しい以外に言葉はない。
「私もまだ恩も返せていないのに、このような有難い立場もいただきました。こんなに早く残されるなんて…本当に、悔しい。そう思いませんか?」
「「はい」」
アズラー侯爵夫妻はサリーとレベッカの関係性がいいとは耳にしていたが、本当に慕い、感謝しているのだと感じた。
「私たちは感謝して、代わりなんて烏滸がましいことではなく、気持ちを返していく。それが出来ることだと、そう思っています」
「「はい…」」
「長々とすみません。お会いしたら、伝えたいと思っておりましたので、寄付もありがとうございました」
「いえ、私たちが出来ることはこれくらいですから」
「そんなことはないですよ、また寄付とは言わず、いらしてください。まだ出来ることはあるはずです」
侯爵夫妻はレベッカにお礼を言って、肖像画を目に焼き付けて、帰った。
ティファナはまだ何か出来ることが、あるのだろうかと考えるようになった。孫の教育には一切口を出していなかったが、何か出来ることがあればと息子夫妻に声を掛けた。息子・ルトアスは嬉しそうに是非、教えてあげて欲しいと言ってくれた。
そして、北の修道院にいたルアンナが亡くなった。そうかと、思うだけだった。
葬儀を行うことも、アズラー家の墓に入れることは出来ない。暖かくなってから、夫と共に一度だけ修道院の側にある墓地に墓参りに行った。
可愛い娘だった。生まれた日のことも思い出せる、良い思い出も沢山ある。でもルアンナはその手で、悪い思い出で塗り替えてしまった。同時に、薄情なのかもしれないが、私には責任以外はなくなってしまっていた。
それから、ローサムはルトアスに爵位を譲り、長く務めたのは、ローサムのせめてもの妃殿下への贖罪だった。
だからこそ、リールが国王陛下になった際、アズラー侯爵となったルトアスは、ティファナに許可は得ていなかったが、王妃の試験の担当すると声を上げたのだ。
結局、行うことはなかったが、帰ってティファナに話すと、もし行うことになれば、私が責任を持って務めると、久し振りに前王妃様にも文を出し、その際はよろしく頼むと返事を貰っていた。
サリー様の功績だけで、王妃は一蹴されたという。
そして、リール国王陛下の妻はサリーだけだという言葉に、私にとっても王太子妃、そして王妃はサリー様だけだと、心が熱くなった。
その後、両親が亡くなり、孫の結婚を見届けてから、夫婦で領地に移り住んだ。長く王都にいたのも、ルアンナのせいで苦労を掛けた、ルトアスの力になれるようにと思ってのことだった。
ローサムが亡くなり、義姉・スーミラと二人で過ごしていたが、一年も経たずにティファナも病に倒れ、スーミラは死に際に声を掛けた。
「よく頑張ったわね」
ティファナはその言葉を聞いて、静かに旅立った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お読みいただきありがとうございます。
これにてティファナ編、終了です。
次は『コルボリット』の作者ルアース・ベルア編です。
よろしくお願いいたします。
レベッカも側妃見習いだったので、社交が出来る立場ではなかったこともあり、アズラー侯爵夫妻に会うこともなかった。夫妻を責めたいわけではなく、伝えたかったのは、サリー様は本当に感謝をしていたということだった。
「それは…」
「私が偉そうに言える立場でないことは分かっています。サリー様は人に教えることが、難しいことでした。サリー様にとって覚えていることは当たり前ですから、皆はそうはいかない。それでティファナ先生ならと、よく口にされていました。それを私は知っておいて欲しかったのです」
「そう、そうですか…私も役に立てたのならば」
文にも書いてあったことだったが、ひと匙でも何か力になれたのならば、嬉しい以外に言葉はない。
「私もまだ恩も返せていないのに、このような有難い立場もいただきました。こんなに早く残されるなんて…本当に、悔しい。そう思いませんか?」
「「はい」」
アズラー侯爵夫妻はサリーとレベッカの関係性がいいとは耳にしていたが、本当に慕い、感謝しているのだと感じた。
「私たちは感謝して、代わりなんて烏滸がましいことではなく、気持ちを返していく。それが出来ることだと、そう思っています」
「「はい…」」
「長々とすみません。お会いしたら、伝えたいと思っておりましたので、寄付もありがとうございました」
「いえ、私たちが出来ることはこれくらいですから」
「そんなことはないですよ、また寄付とは言わず、いらしてください。まだ出来ることはあるはずです」
侯爵夫妻はレベッカにお礼を言って、肖像画を目に焼き付けて、帰った。
ティファナはまだ何か出来ることが、あるのだろうかと考えるようになった。孫の教育には一切口を出していなかったが、何か出来ることがあればと息子夫妻に声を掛けた。息子・ルトアスは嬉しそうに是非、教えてあげて欲しいと言ってくれた。
そして、北の修道院にいたルアンナが亡くなった。そうかと、思うだけだった。
葬儀を行うことも、アズラー家の墓に入れることは出来ない。暖かくなってから、夫と共に一度だけ修道院の側にある墓地に墓参りに行った。
可愛い娘だった。生まれた日のことも思い出せる、良い思い出も沢山ある。でもルアンナはその手で、悪い思い出で塗り替えてしまった。同時に、薄情なのかもしれないが、私には責任以外はなくなってしまっていた。
それから、ローサムはルトアスに爵位を譲り、長く務めたのは、ローサムのせめてもの妃殿下への贖罪だった。
だからこそ、リールが国王陛下になった際、アズラー侯爵となったルトアスは、ティファナに許可は得ていなかったが、王妃の試験の担当すると声を上げたのだ。
結局、行うことはなかったが、帰ってティファナに話すと、もし行うことになれば、私が責任を持って務めると、久し振りに前王妃様にも文を出し、その際はよろしく頼むと返事を貰っていた。
サリー様の功績だけで、王妃は一蹴されたという。
そして、リール国王陛下の妻はサリーだけだという言葉に、私にとっても王太子妃、そして王妃はサリー様だけだと、心が熱くなった。
その後、両親が亡くなり、孫の結婚を見届けてから、夫婦で領地に移り住んだ。長く王都にいたのも、ルアンナのせいで苦労を掛けた、ルトアスの力になれるようにと思ってのことだった。
ローサムが亡くなり、義姉・スーミラと二人で過ごしていたが、一年も経たずにティファナも病に倒れ、スーミラは死に際に声を掛けた。
「よく頑張ったわね」
ティファナはその言葉を聞いて、静かに旅立った。
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お読みいただきありがとうございます。
これにてティファナ編、終了です。
次は『コルボリット』の作者ルアース・ベルア編です。
よろしくお願いいたします。
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