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番外編2
ティファナ・アズラー2
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「私はなんて傲慢だったのかしら…こんなに情けない人間なのに、今さら何が…守りたかったのかしら」
「無様に会いに行けば良かったな」
「会わない方がなんて、間違っていたのね」
ローサムからサリー様本人から私の欠点にも気付いていたが、指摘することをしなかったと聞いた。気付いているだろうと思っていたが、ルアンナに嫌がらせを受け、揚げ足を取ることも出来たのに、しなかった。
そういう人だった、王太子妃に相応しいという言葉はサリー様には喜ばしい言葉ではないだろうが、まさに相応しい人だった。
二度とあのような方は現れないだろう。
まるで終わりが分かっていたかのような、最期だったそうだ。
神様がいるのならば、どうか私の命を代わりに持って行って欲しいと何度も何度も、幾日も願った。私などの命では代わりになどならないことだったのだろう。
サリー様の小説は、まるで叶わなかった自由を、物語にしたように思えた。それでも優しく、温かく、少し意地悪で、サリー様にもビビのような存在がいたからこそ、書けたのではないかと思った。
肖像画のことを聞き、王宮もペルガメント侯爵邸も頼める立場ではなかったが、財団であれば、見ることが出来ると聞き、寄付を持って向かった。
入り口に飾られたサリー様の肖像画は、今にも動き出したそうなほど、精密だった。思わず、夫と頭を下げた。
「頭を下げてしまう方、多いんですよ」
声を掛けたのは、レベッカ・ウィンダム。
「お時間を作っていただき、ありがとうございます」
「いいえ、部屋にどうぞ」
レベッカはアズラー夫妻を応接室に案内した。
「アズラー侯爵夫人とは、あの不誠実極まりない、あの日以来ですね。大変、醜態を晒して、申し訳ありませんでした」
「いっ、いえ」
ティファナがレベッカに会ったのは、あの不正が見付かった時、以来である。ティファナも、あの時は指導する立場だったが、今は違う。
「貶していただいて結構です。もう恥ずかしくて、思い出したくもないけど、自分の仕出かしたことですから、隠す気はありませんし、公になってますしね」
「いえ、私たちも、誇れるような者ではありません」
「…ルアンナ嬢のことは存じております」
「そうでしたか…」
接点はないが、互いに脛に傷を持つ者同士である。
「サリー様から聞いた時は驚きました。ルアンナ嬢は、私からは陰湿さは分からなかったですから」
「娘は北の修道院に入れました」
「ええ?そうだったのですか」
ルイソード・クリジアンと離縁して、社交界からは消えたと聞いていたが、北の修道院に入っていたとは思わなかった。
「はい、領地で監視しておりましたが、サリー様が亡くなったのだから、罰も終わりだと言い出して、縁を切りました」
「それは、まあそうですね…」
最近のことだったのか。娘は結婚して、子どもも生まれていると聞いている。私も人のことは言えないが、関わり合いたくもないだろう。
そして、私でもマリーヌにそんなことを言われたら、さすがに縁を切る。
「正直、私はサリー様を甘いと思っていました。ルアンナ嬢の行ったことなんて、ただのいじめじゃないですか」
「はい、その通りです」
「でもサリー様は、代わりをして貰えれば、本当にそれで良かったと言うのです。そのあと何もなかったかのようにしていても?と聞いても、大変だと身に染みて貰えば、それでいいと。でも周りはそんなことでは許せない、そう思いませんか?」
「…はい、そう思います」
だからこそ、ルアンナを領地に閉じ込め、結局効果はなかったが、再教育を行った。夫妻は知る由もないが、他家も同じである。知らない顔をして、社交界に顔を出している者はもういない。
「無様に会いに行けば良かったな」
「会わない方がなんて、間違っていたのね」
ローサムからサリー様本人から私の欠点にも気付いていたが、指摘することをしなかったと聞いた。気付いているだろうと思っていたが、ルアンナに嫌がらせを受け、揚げ足を取ることも出来たのに、しなかった。
そういう人だった、王太子妃に相応しいという言葉はサリー様には喜ばしい言葉ではないだろうが、まさに相応しい人だった。
二度とあのような方は現れないだろう。
まるで終わりが分かっていたかのような、最期だったそうだ。
神様がいるのならば、どうか私の命を代わりに持って行って欲しいと何度も何度も、幾日も願った。私などの命では代わりになどならないことだったのだろう。
サリー様の小説は、まるで叶わなかった自由を、物語にしたように思えた。それでも優しく、温かく、少し意地悪で、サリー様にもビビのような存在がいたからこそ、書けたのではないかと思った。
肖像画のことを聞き、王宮もペルガメント侯爵邸も頼める立場ではなかったが、財団であれば、見ることが出来ると聞き、寄付を持って向かった。
入り口に飾られたサリー様の肖像画は、今にも動き出したそうなほど、精密だった。思わず、夫と頭を下げた。
「頭を下げてしまう方、多いんですよ」
声を掛けたのは、レベッカ・ウィンダム。
「お時間を作っていただき、ありがとうございます」
「いいえ、部屋にどうぞ」
レベッカはアズラー夫妻を応接室に案内した。
「アズラー侯爵夫人とは、あの不誠実極まりない、あの日以来ですね。大変、醜態を晒して、申し訳ありませんでした」
「いっ、いえ」
ティファナがレベッカに会ったのは、あの不正が見付かった時、以来である。ティファナも、あの時は指導する立場だったが、今は違う。
「貶していただいて結構です。もう恥ずかしくて、思い出したくもないけど、自分の仕出かしたことですから、隠す気はありませんし、公になってますしね」
「いえ、私たちも、誇れるような者ではありません」
「…ルアンナ嬢のことは存じております」
「そうでしたか…」
接点はないが、互いに脛に傷を持つ者同士である。
「サリー様から聞いた時は驚きました。ルアンナ嬢は、私からは陰湿さは分からなかったですから」
「娘は北の修道院に入れました」
「ええ?そうだったのですか」
ルイソード・クリジアンと離縁して、社交界からは消えたと聞いていたが、北の修道院に入っていたとは思わなかった。
「はい、領地で監視しておりましたが、サリー様が亡くなったのだから、罰も終わりだと言い出して、縁を切りました」
「それは、まあそうですね…」
最近のことだったのか。娘は結婚して、子どもも生まれていると聞いている。私も人のことは言えないが、関わり合いたくもないだろう。
そして、私でもマリーヌにそんなことを言われたら、さすがに縁を切る。
「正直、私はサリー様を甘いと思っていました。ルアンナ嬢の行ったことなんて、ただのいじめじゃないですか」
「はい、その通りです」
「でもサリー様は、代わりをして貰えれば、本当にそれで良かったと言うのです。そのあと何もなかったかのようにしていても?と聞いても、大変だと身に染みて貰えば、それでいいと。でも周りはそんなことでは許せない、そう思いませんか?」
「…はい、そう思います」
だからこそ、ルアンナを領地に閉じ込め、結局効果はなかったが、再教育を行った。夫妻は知る由もないが、他家も同じである。知らない顔をして、社交界に顔を出している者はもういない。
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