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番外編2

リール・オールソン6

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 前王妃も亡くなり、リールも病に倒れることになった。だが、次代は育っており、思い残すことはサリーのこと以外なかった。

 関係を持った女性たちは皆、厳しい境遇となった。亡くなった者も多い。リールから誘った者はいないというのは、不貞をしていい理由にならないが、思い出すこともなかった。

 サリーがいれば、病床なら聞いてくれたのではないか。いや、そういうところが、良くないとサリーに言われてしまうところか。

 ミーラに我儘を言った。

「サリーの絵を…あの絵を見たい」
「仕方ありませんね」

 ミーラは優しい、母親に気苦労しか掛けなかった父親に、厳しい言葉を掛けることはあっても、見捨てられない。いや、サリーも私を結局は見捨てなかった。それが祖父母への恩返しだったとしても。

「独り占めだな」

 ベットからよく見える位置にサリーは微笑んでいた。もし、今サリーが甦ったら、気持ち悪いと撤去してしまうだろう。

「本当に素晴らしい人だった…」

 もう時間がないと悟ったリールは、私室にクリコットを呼び、二人きりになった。クリコットにも迷惑を掛けた。

「クリコット、苦労を掛けたな」
「私は陛下しか付いたことがありませんので、これが苦労だったのか、普通なのかは、今世では分かり兼ねます。ですが、サリー王妃陛下には、苦労を掛けたと思っております」

 クリコットは私が国王になってから、サリーのことを話す際は王妃陛下とした。

「そうだな…」

 苦労を取り除いたり、分け合ったりするべき相手に、一番苦労を掛けてしまった。

「私は後悔を活かすことは出来ただろうか…ミーラを支えられただろうか」
「活かせたと思います。ミーラ殿下もお支え出来たと思います」
「そうか…この思いを、あの頃の私が知っていれば、サリーはあんな風に私に笑いかけてくれただろうか」
「あれは、ミーラ殿下だけではないですか」
「お前も厳しいな」

 確かにこの笑顔はミーラだけのものだろう。慈愛に満ち溢れている。ミーラを抱き上げ、覗き込み、寄り添い、愛した顔である。

「あの笑顔は特別ですよ、せいぜい陛下には、出版社の凛とした微笑みくらいでしょう?」
「さすがにペルガメント侯爵家の肖像画も難しいだろうな…」
「あちらも兄君にだけ見せる、あどけない表情ですからね」

 ミーラにもう一つ我儘を言った。

「私が亡くなったら、金庫にサリーからの最期の手紙が入っているから、棺に入れて欲しい。持って行かないといけないんだ」

 あれには許すと書いてあった、証拠を持って行かなくては、ほらここに書いてあると言わなくてはならない。蔑んだ目で見られても構わない、それはやる気を出させる方便だと言われても構わない。

「大事にしていたんですね」
「当たり前だ!私にとってどれだけ価値があるか、ミーラには分かるまい」
「ええ、私は愛されておりますから」
「今の言い方は、サリーから聞いたこともないが、とても似ているな」
「そうですか?」

 そう言いながら、二人の目にはサリーを思い出し、涙が溜まっていた。

 数日後、リール・オールソン国王陛下は、崩御した。サリーと同じように、家族とクリコットに見守られながら、旅立った。

 不貞を知っている者でも、国王陛下として立派だったと言わざるを得ない。

 葬儀の後、ミーラとルミナはこう言った。

「父は母の文を持って、探し回っていることでしょう」
「お義母様は逃げてらっしゃるかもしれませんね」

 クリコットは昔を思い出し、こう言った。

「王妃陛下は、陛下の分からない言葉で、話されているかもしれません」

 皆、それを聞いて口元を緩めると、ゆっくり空を見上げた。


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お読みいただきありがとうございます。

これにてリール編、終了です。
次は兄・レオ編です。

よろしくお願いいたします。
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