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番外編2
リール・オールソン1
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リールはサリーの担当であったクオン・パトラーに、お時間を貰いたいと連絡を受けていた。『コルボリット』の担当で、サリーの欲しい本や、言語の本を探してくれていたのは彼であることは知っていた。
何の用事だろうかとは思ったが、断る理由もないため、会うことになったが、クオンの言葉に涙が零れそうになった。
まさか小説を書いていたとは、文を残してくれていたとは。私にとっては予期しないことだった。
無理をしたのはそのせいではないかと頭を過ったが、サリーは翻訳をしたいと言っていたこと、もし命を縮めることになっていたとしても、望みを奪うことは出来なかった。私には言う資格もない。グッとのみ込むのが私の出来ることだ。
彼が帰って行くと、緊張から解放されたかのように湧き上がる思いを抑えきれず、叫び出す声を押し殺すしかなかった。
クリコットは殿下の様子に、胸が苦しくなった。妃殿下の病が重いと分かった日、亡くなられた日も、何も掛ける言葉が見付からなかった。だが、今日は違う。
「本日は、終わりにしましょう」
「だが」
「明日行えば済むものばかりです。気になって仕方がないでしょう」
「ああ、まさかこんなことがあるなんて…」
リールは自室に一人になった。これが最期のサリーの言葉だと思うと、開くのが怖かった。何が書いてあっても、受け止める自信はある。でも、怖かった。
―――――――――――――――――――――
リール・オールソン様
私は思ったよりも長く生きた、そう思っています。
後悔よりも、ミーラを末長く支えてください。それが私の最期の願いです。
叶えてくれれば、あなたを許します。
サリー・オールソン
―――――――――――――――――――――
全て見透かされているような短い文だった。
それでも嬉しかった。この数行を書いている間だけでも、私のことを考えてくれていたことだけでも、胸が苦しいほどに嬉しかった。
サリーとは幼なじみではあったとは思うが、婚約者は形ばかりで、夫婦の愛は私のせいで築くことが出来なかった。
報復なんて手段を取らせて、サリーが幸せになれたとは思えない。努力は私のせいで泥を塗ってしまった。
後悔なんて毎日している。サリーより私が病に倒れた方が良かったと思う者も多いだろう。私だってそうだったらどれだけ良かったかと思っている。
サリーに看病して貰えたかもしれない、サリーは不機嫌な顔でも側にいてくれたかもしれない、『ありがとうは全て、愛しているだったんだ』と伝えることも出来なくなってしまった。
日に日に動けなくなっていくサリーに、どうすればいいのか、受け入れられないまま、時だけが過ぎているように感じていた。
「何か食べたいものはないか?」
「ありません、殿下は公務をお願いします」
「心配しなくていい、サリーは自分のことだけを考えて欲しい」
両親も見舞いにやって来て、同じことを言われたそうだ。我々は黙ってやるしかない。何も言えないまま、彼女は旅立ってしまった。
サリーは望みではなかったとは思うが、王妃にしたかった。いや、王妃になって、私の横に立っていてほしかった。
私の安心こそがサリーだった。助けてくれるのは勿論だが、サリーがいるから大丈夫だという思いは、両親でも難しく、他の誰にも抱けない感情だった。
あなたの母親ではないと言われるだろうが、母であり、姉であり、妹であり、妻であり、全ての女性を凝縮したのがサリーという存在だったように思う。
だが、そんなことにも気付かなかった。愚かな私の過去は、消えない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お読みいただきありがとうございます。
サリーの夫、リールの回となります。
散々、後悔は書いておりますので、長くはなりません。
よろしくお願いいたします。
何の用事だろうかとは思ったが、断る理由もないため、会うことになったが、クオンの言葉に涙が零れそうになった。
まさか小説を書いていたとは、文を残してくれていたとは。私にとっては予期しないことだった。
無理をしたのはそのせいではないかと頭を過ったが、サリーは翻訳をしたいと言っていたこと、もし命を縮めることになっていたとしても、望みを奪うことは出来なかった。私には言う資格もない。グッとのみ込むのが私の出来ることだ。
彼が帰って行くと、緊張から解放されたかのように湧き上がる思いを抑えきれず、叫び出す声を押し殺すしかなかった。
クリコットは殿下の様子に、胸が苦しくなった。妃殿下の病が重いと分かった日、亡くなられた日も、何も掛ける言葉が見付からなかった。だが、今日は違う。
「本日は、終わりにしましょう」
「だが」
「明日行えば済むものばかりです。気になって仕方がないでしょう」
「ああ、まさかこんなことがあるなんて…」
リールは自室に一人になった。これが最期のサリーの言葉だと思うと、開くのが怖かった。何が書いてあっても、受け止める自信はある。でも、怖かった。
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リール・オールソン様
私は思ったよりも長く生きた、そう思っています。
後悔よりも、ミーラを末長く支えてください。それが私の最期の願いです。
叶えてくれれば、あなたを許します。
サリー・オールソン
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全て見透かされているような短い文だった。
それでも嬉しかった。この数行を書いている間だけでも、私のことを考えてくれていたことだけでも、胸が苦しいほどに嬉しかった。
サリーとは幼なじみではあったとは思うが、婚約者は形ばかりで、夫婦の愛は私のせいで築くことが出来なかった。
報復なんて手段を取らせて、サリーが幸せになれたとは思えない。努力は私のせいで泥を塗ってしまった。
後悔なんて毎日している。サリーより私が病に倒れた方が良かったと思う者も多いだろう。私だってそうだったらどれだけ良かったかと思っている。
サリーに看病して貰えたかもしれない、サリーは不機嫌な顔でも側にいてくれたかもしれない、『ありがとうは全て、愛しているだったんだ』と伝えることも出来なくなってしまった。
日に日に動けなくなっていくサリーに、どうすればいいのか、受け入れられないまま、時だけが過ぎているように感じていた。
「何か食べたいものはないか?」
「ありません、殿下は公務をお願いします」
「心配しなくていい、サリーは自分のことだけを考えて欲しい」
両親も見舞いにやって来て、同じことを言われたそうだ。我々は黙ってやるしかない。何も言えないまま、彼女は旅立ってしまった。
サリーは望みではなかったとは思うが、王妃にしたかった。いや、王妃になって、私の横に立っていてほしかった。
私の安心こそがサリーだった。助けてくれるのは勿論だが、サリーがいるから大丈夫だという思いは、両親でも難しく、他の誰にも抱けない感情だった。
あなたの母親ではないと言われるだろうが、母であり、姉であり、妹であり、妻であり、全ての女性を凝縮したのがサリーという存在だったように思う。
だが、そんなことにも気付かなかった。愚かな私の過去は、消えない。
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お読みいただきありがとうございます。
サリーの夫、リールの回となります。
散々、後悔は書いておりますので、長くはなりません。
よろしくお願いいたします。
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