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番外編2
クオン・パトラー8
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そして、最後はルアース・ベルア氏に会いに行った。やり取りはしているが、直接会うのは久しぶりとなる。
今までは通訳は要らなかったが、今回はきちんと通訳を雇った。
「ご無沙汰しております。今日は通訳を介させていただくことを、お許しください」
『美しく、愉快で、可愛い通訳がいなくなってしまったからな。通訳はお互い様だ(ビアロ語)』
ベルア氏側にも担当とは別にトワイ語の通訳が付いている。
ベルア氏は伯爵夫人だが、誰にでも同じように快活な話し方をされる気持ちのいい方である。
「はい、ですが、その美しく、愉快で、可愛い通訳ことサリー様からの贈り物を届けにやって参りました」
『は?贈り物?そうか、何だろう、楽しみだな(ビアロ語)』
「こちらです、サリー様の書かれた最初で最後の小説と文でございます」
通訳が訳す前に、ルアースは目の前に置かれた本に釘付けになっていた。
『サリーが書いたのか?(ビアロ語)』
敬称のないサリーのところは聞き取れ、おそらく二人きりの時はサリーと呼んでいたのだろうが、これまで人前では口にしたこともなかった。あまりに驚き過ぎて、出てしまったのだろう。
私も王太子殿下や公の場では妃殿下と呼ぶが、そうでない場合はサリー様と呼んでいる。これは最初に出会って、王太子妃になってから妃殿下と呼ぼうとすると、今まで通りに呼んで欲しいと言われていたからだ。
「はい、サリー様が書かれました。そしてお気付きになりませんか?」
『ビアロ語だな、翻訳の名前もない(ビアロ語)』
「はい、前代未聞の作者自らの翻訳?いえ、全てが原作者ということです」
『サリー様にしか出来ないということか、何ということだ、こんな贈り物があっていいのか…こんな嬉しいことは、友人としても、作家としても(ビアロ語)』
ベルア氏は目に溜まった涙を流れる前に指で拭い、にっこりと笑った。
「サリー様は私の小説の先生はルアース様だからと、先生に読んで欲しいと思いながら書いたのですと、おっしゃっていました」
『そんな、ああ、もう胸が一杯だ(ビアロ語)』
ソファにドカリともたれて、上を向き、右手で胸を掴んでいる。担当に内緒にするように頼んでいたため、目を合わせて同時に頷いた。
「そして、さらに前代未聞に二十四ヶ国語あります。まずはトワイ語、ビアロ語、ノワンナ語、アペラ語、カベリ語で発売します」
『何てものを残したんだ…無理をするなと言ったのに(ビアロ語)』
「ですが、もう私に出来るのは二十四ヶ国語発売を達成するのみです!」
『そうだな、私も口添えをしておこう。こういう時に使わずして、いつ使うだな?(ビアロ語)』
ルアース・ベルアの口添えは出版業界では、今や右に出る者はいないだろう。
「ありがとうございます。読んでみてからでなくていいですか?サリー様もそう言われると思いますよ」
『そうだな、失礼だな。楽しみではあるが、読み終える悲しさもある。だが、また読み返せばいいな。当分見つめてしまいそうだ。絵も良いな(ビアロ語)』
「はい、表には出たくないということで、素性は分かりませんが、サリー様のご友人が描かれたそうです」
『そうなのか、素晴らしいな(ビアロ語)』
ベルア氏は優しい瞳で慈しむように見つめ、口角が上がりっぱなしだ。
「本来ならご自身で渡したかったとおっしゃっていました、先生を驚かせたかったと、私で申し訳ありません」
『本当だ、サリー様の方が良かったな。ははは!トワイ語の翻訳は大丈夫そうか?(ビアロ語)』
「はい、サリー様が鍛えた方ですから」
『サリー様の姪だったな、助手をしていた(ビアロ語)』
トワイ語の翻訳はサリーの姪で、レオの娘であるサネリ・ペルガメント侯爵令嬢となった。結婚適齢期ではあるが、それよりも言語に興味があると、サリーにべったりだった。侯爵家もそれならそれでいいと認めている。
今までは通訳は要らなかったが、今回はきちんと通訳を雇った。
「ご無沙汰しております。今日は通訳を介させていただくことを、お許しください」
『美しく、愉快で、可愛い通訳がいなくなってしまったからな。通訳はお互い様だ(ビアロ語)』
ベルア氏側にも担当とは別にトワイ語の通訳が付いている。
ベルア氏は伯爵夫人だが、誰にでも同じように快活な話し方をされる気持ちのいい方である。
「はい、ですが、その美しく、愉快で、可愛い通訳ことサリー様からの贈り物を届けにやって参りました」
『は?贈り物?そうか、何だろう、楽しみだな(ビアロ語)』
「こちらです、サリー様の書かれた最初で最後の小説と文でございます」
通訳が訳す前に、ルアースは目の前に置かれた本に釘付けになっていた。
『サリーが書いたのか?(ビアロ語)』
敬称のないサリーのところは聞き取れ、おそらく二人きりの時はサリーと呼んでいたのだろうが、これまで人前では口にしたこともなかった。あまりに驚き過ぎて、出てしまったのだろう。
私も王太子殿下や公の場では妃殿下と呼ぶが、そうでない場合はサリー様と呼んでいる。これは最初に出会って、王太子妃になってから妃殿下と呼ぼうとすると、今まで通りに呼んで欲しいと言われていたからだ。
「はい、サリー様が書かれました。そしてお気付きになりませんか?」
『ビアロ語だな、翻訳の名前もない(ビアロ語)』
「はい、前代未聞の作者自らの翻訳?いえ、全てが原作者ということです」
『サリー様にしか出来ないということか、何ということだ、こんな贈り物があっていいのか…こんな嬉しいことは、友人としても、作家としても(ビアロ語)』
ベルア氏は目に溜まった涙を流れる前に指で拭い、にっこりと笑った。
「サリー様は私の小説の先生はルアース様だからと、先生に読んで欲しいと思いながら書いたのですと、おっしゃっていました」
『そんな、ああ、もう胸が一杯だ(ビアロ語)』
ソファにドカリともたれて、上を向き、右手で胸を掴んでいる。担当に内緒にするように頼んでいたため、目を合わせて同時に頷いた。
「そして、さらに前代未聞に二十四ヶ国語あります。まずはトワイ語、ビアロ語、ノワンナ語、アペラ語、カベリ語で発売します」
『何てものを残したんだ…無理をするなと言ったのに(ビアロ語)』
「ですが、もう私に出来るのは二十四ヶ国語発売を達成するのみです!」
『そうだな、私も口添えをしておこう。こういう時に使わずして、いつ使うだな?(ビアロ語)』
ルアース・ベルアの口添えは出版業界では、今や右に出る者はいないだろう。
「ありがとうございます。読んでみてからでなくていいですか?サリー様もそう言われると思いますよ」
『そうだな、失礼だな。楽しみではあるが、読み終える悲しさもある。だが、また読み返せばいいな。当分見つめてしまいそうだ。絵も良いな(ビアロ語)』
「はい、表には出たくないということで、素性は分かりませんが、サリー様のご友人が描かれたそうです」
『そうなのか、素晴らしいな(ビアロ語)』
ベルア氏は優しい瞳で慈しむように見つめ、口角が上がりっぱなしだ。
「本来ならご自身で渡したかったとおっしゃっていました、先生を驚かせたかったと、私で申し訳ありません」
『本当だ、サリー様の方が良かったな。ははは!トワイ語の翻訳は大丈夫そうか?(ビアロ語)』
「はい、サリー様が鍛えた方ですから」
『サリー様の姪だったな、助手をしていた(ビアロ語)』
トワイ語の翻訳はサリーの姪で、レオの娘であるサネリ・ペルガメント侯爵令嬢となった。結婚適齢期ではあるが、それよりも言語に興味があると、サリーにべったりだった。侯爵家もそれならそれでいいと認めている。
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