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番外編2
クオン・パトラー1
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病に倒れたサリーの私室に招かれたのは、クオン・パトラー。
サリーとルアース・ベルアを引き合わせた編集者であった。クオンはパトラー子爵家の次男で、嫡男ではないため、出版社に勤めている。
クオンも事前にサリーの容態は聞いている。
部屋に入ると、ゆったりとしたドレスにソファに座ったサリーと、横には心配そうな顔の息子であるミーラ王子殿下が付いていた。
「わざわざ、ごめんなさいね。座って頂戴」
「お加減はいかがですか」
「あまり良くないわね、だから呼んだの」
「…それは」
「ルアース・ベルア様にも文を書いたわ、私がいなくなっても続けて欲しいと。大丈夫よ、きっと。それで私の小説を死後に発表して欲しいの。本当なら、感想を聞いてみたりしたかったけど、叶いそうにないから」
クオンは苦渋に満ちた表情を浮かべたが、サリーは顔色は良くないが、いつもと変わらなかった。
実はサリーは自身でも長編とまではいかなかったが、中編程度の小説を書いて、一年以上前にクオンに渡していた。
ルアース・ベルア氏の話とは全く違うが、読んでいるとワクワクして頬が緩み、まさに編集者として、心が躍る話であった。忖度なく、是非出版しましょうと言ったが、サリーにもう少し待ってと言われて、延期していた。
「ここに私の小説の二十三ヶ国語、全ての翻訳があるわ。勿論、最終チェックはして頂戴ね。それで、もし売れたら翻訳版も出してもらいたいの。最期の我儘よ」
「二十三ヶ国語!?」
紙の束が積んであるとは思っていたが、まさか翻訳版だとは思わなかった。
「ええ、トワイ語と合わせれば二十四ね」
「本当なら出版して、小出しにしていくつもりだったのだけど、難しそうだから、渡しておくわ。売れなかったら、捨てていいから」
「捨てるわけありません!頑張ります!絶対売れますから」
「死後って売れるっていうものね」
「母様、面白くない冗談です。誰も笑いません」
皆、誰も言えないことをミーラ殿下が言ってくれて良かったと思った。
「そう?でも、私の集大成なの。こつこつ訳したのよ。後、絵ね、これを使って貰えないかしら」
「これは?」
そこには鞄を持った少女と少し大きな三毛猫が描かれており、繊細なタッチではないが、細かく書き込まれ、柔らかく、優しさが伝わる、可愛らしい絵があった。
「描いて貰ったの。でも本人は表には出たくないと言うから、許可にサインが必要なら私が貰うわ」
「素晴らしいと思いますが」
物語に沿った場面の絵もいくつかあり、とても躍動感にあふれており、おそらく読んだ上で描いて貰っていると思われる。作中に差し込めば、さらに物語は素晴らしいものになると思った。
「でしょう?私の名前と、彼女の名前を並べて、欲しいの。作サリー・オールソンと、絵フィラビ・ロエンって」
「どなたなのでしょうか?」
「私の大切な友人よ、でも詮索はしないで欲しいの」
「承知しました、早急に進めます」
既に出版社には許可は得ており、どちらかというとサリー様の許可を待っていた状態であった。
「ありがとう、あともし、ビアロ語で出版されたら、この文をルアース・ベルア様に本と一緒に渡して欲しいの。お願い出来る?」
「勿論です。全て、厳重にお預かりします」
「無理を言ってごめんなさいね」
「いえ、契約書は明日、お持ちします」
「分かったわ」
翌日には契約書が届けられ、サリーがサインをし、フィラビのサインは後日、クオンに届けられた。
クオンは出版を急いだが、ある朝、弔いの鐘が鳴り響くと、クオンは動けなくなった。そのまま、涙が零れ落ち、年も性別も外聞も関係なく、声を上げて泣き、その様子に掛ける言葉が見付からなかった妻も静かに涙を流した。
最期に交わした言葉は、私が言いたい言葉とサリー様らしい言葉だった。
「あなたに出会えて本当に良かったわ。これからもいい作品をたくさん世に出して、皆を幸せにしてあげてね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お読みいただきありがとうございます。
えっ?誰と思われたかもしれませんが、
ちょこちょこ出ていたサリーの翻訳の担当者です。
彼には動いて貰おうと思っていたので、
サリーの死後をクオン目線で書いていきます。
その後に、別目線を書こうかなと思っております。
よろしくお願いいたします。
サリーとルアース・ベルアを引き合わせた編集者であった。クオンはパトラー子爵家の次男で、嫡男ではないため、出版社に勤めている。
クオンも事前にサリーの容態は聞いている。
部屋に入ると、ゆったりとしたドレスにソファに座ったサリーと、横には心配そうな顔の息子であるミーラ王子殿下が付いていた。
「わざわざ、ごめんなさいね。座って頂戴」
「お加減はいかがですか」
「あまり良くないわね、だから呼んだの」
「…それは」
「ルアース・ベルア様にも文を書いたわ、私がいなくなっても続けて欲しいと。大丈夫よ、きっと。それで私の小説を死後に発表して欲しいの。本当なら、感想を聞いてみたりしたかったけど、叶いそうにないから」
クオンは苦渋に満ちた表情を浮かべたが、サリーは顔色は良くないが、いつもと変わらなかった。
実はサリーは自身でも長編とまではいかなかったが、中編程度の小説を書いて、一年以上前にクオンに渡していた。
ルアース・ベルア氏の話とは全く違うが、読んでいるとワクワクして頬が緩み、まさに編集者として、心が躍る話であった。忖度なく、是非出版しましょうと言ったが、サリーにもう少し待ってと言われて、延期していた。
「ここに私の小説の二十三ヶ国語、全ての翻訳があるわ。勿論、最終チェックはして頂戴ね。それで、もし売れたら翻訳版も出してもらいたいの。最期の我儘よ」
「二十三ヶ国語!?」
紙の束が積んであるとは思っていたが、まさか翻訳版だとは思わなかった。
「ええ、トワイ語と合わせれば二十四ね」
「本当なら出版して、小出しにしていくつもりだったのだけど、難しそうだから、渡しておくわ。売れなかったら、捨てていいから」
「捨てるわけありません!頑張ります!絶対売れますから」
「死後って売れるっていうものね」
「母様、面白くない冗談です。誰も笑いません」
皆、誰も言えないことをミーラ殿下が言ってくれて良かったと思った。
「そう?でも、私の集大成なの。こつこつ訳したのよ。後、絵ね、これを使って貰えないかしら」
「これは?」
そこには鞄を持った少女と少し大きな三毛猫が描かれており、繊細なタッチではないが、細かく書き込まれ、柔らかく、優しさが伝わる、可愛らしい絵があった。
「描いて貰ったの。でも本人は表には出たくないと言うから、許可にサインが必要なら私が貰うわ」
「素晴らしいと思いますが」
物語に沿った場面の絵もいくつかあり、とても躍動感にあふれており、おそらく読んだ上で描いて貰っていると思われる。作中に差し込めば、さらに物語は素晴らしいものになると思った。
「でしょう?私の名前と、彼女の名前を並べて、欲しいの。作サリー・オールソンと、絵フィラビ・ロエンって」
「どなたなのでしょうか?」
「私の大切な友人よ、でも詮索はしないで欲しいの」
「承知しました、早急に進めます」
既に出版社には許可は得ており、どちらかというとサリー様の許可を待っていた状態であった。
「ありがとう、あともし、ビアロ語で出版されたら、この文をルアース・ベルア様に本と一緒に渡して欲しいの。お願い出来る?」
「勿論です。全て、厳重にお預かりします」
「無理を言ってごめんなさいね」
「いえ、契約書は明日、お持ちします」
「分かったわ」
翌日には契約書が届けられ、サリーがサインをし、フィラビのサインは後日、クオンに届けられた。
クオンは出版を急いだが、ある朝、弔いの鐘が鳴り響くと、クオンは動けなくなった。そのまま、涙が零れ落ち、年も性別も外聞も関係なく、声を上げて泣き、その様子に掛ける言葉が見付からなかった妻も静かに涙を流した。
最期に交わした言葉は、私が言いたい言葉とサリー様らしい言葉だった。
「あなたに出会えて本当に良かったわ。これからもいい作品をたくさん世に出して、皆を幸せにしてあげてね」
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お読みいただきありがとうございます。
えっ?誰と思われたかもしれませんが、
ちょこちょこ出ていたサリーの翻訳の担当者です。
彼には動いて貰おうと思っていたので、
サリーの死後をクオン目線で書いていきます。
その後に、別目線を書こうかなと思っております。
よろしくお願いいたします。
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