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番外編1
エマ・ネイリー24
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西の修道院は通称・監獄と呼ばれ、一番厳しい修道院となる。
エマのいた東の修道院は外出も出来るほど自由で、暖かく非常に穏やかで、手紙のやり取り、家族の面会も可能であった。
北の修道院はルアンナ・アズラーがいずれ最期を迎える場所で、外出は監視付きで自由はなく、寒さは厳しいが、まともに過ごせば乗り切れる。手紙のやり取りは出来るが、面会はあまりに僻地であるためにまず来ない。
南の修道院は、男性のみとなっており、女性は入ることは出来ない。
そして、西の修道院は外出は一切許されず、手紙や面会も禁止。何が行われているかは、入った者だけが知ることが出来るが、出られるのは死んだ時だけで、伝えるものはこの世にいないため、詳しくは分からないと言われている。
「人から外れたようなことをする場所ではありませんから」
「嫌よ、東の修道院に戻ります、だから」
「逃げ出した者は同じ修道院には入れません」
「じゃあ、別の」
「いいえ、西の修道院に入って貰います。人の気持ちも、何も理解出来ない、あなたの顔を二度と見たくありません」
両親は修道院に入ってからも、せめて穏やかに過ごして欲しいと思っていた。だがもう娘はいないと思うことにした。
「ちょっと間違えただけじゃない。人を好きになってはいけないっていうの…」
「あなた、ここまでどうやって来たのですか」
「馬車に乗って…」
「…前のように騎士の恰好をしていたのですか?」
「…そうです」
心配したわけではないが、コルセットもなく、騎士のような服を着れば、おそらく男性に見えたことだろう。おかげで平気でここまで辿り着けたのか。
「ご両親が決めたことですので、従っていただきますよ」
「嫌よ!どうして私がこんな目に…」
「先程のセイル・サノーの言葉が理解出来なかったのでしょう?」
セイル・サノーはとても分かり易く説明していたが、響いていなかった。
「妃殿下を傷付けたという話ですか?私は傷付けてなどいません!」
「あなたがしたことは先程と同じように既婚者に、言い寄ったのですよ。逆だったらどうですか?あなたの夫に愛人にしてくれと言い寄る女性が現れたら、傷付きませんか?寛容に喜んで受け入れますか?」
「夫はいませんから…」
クリコットはエマにこれまでのように無自覚ではなく、罪の意識を持って、修道院に入って貰いたいと思っている。
「どう言えば、理解出来るのでしょうか。あなたには夫はおろか、婚約者もいたことがありませんし、仕事をして立場を持ったこともない、置き換えることは不可能ですしね。婚約者がいることは想像が出来ますか?」
「そのくらい出来ます」
エマはムッとした顔で言い放ち、クリコットは一つ一つ説明することにした。
「では、烏滸がましいですが、妃殿下の立場をお借りしましょう。六歳の時に優秀さを認められて、婚約者が出来ます。元々、幼い頃から親に八時間以上を勉強に充てられています。いいですか?」
「…はい」
「さらに婚約者を支えるために、八歳になると勉強が増やされます。毎日、平均十二時間。一日の半分が勉強です。平均ですから長い場合もあります。想像は出来ていますか?」
クリコットは殿下に頼まれて、王太子妃教育の内容と、ペルガメント侯爵家での勉強内容を、元家庭教師から取り寄せると、驚愕した。王太子妃教育でも詰め込まれているのに、ペルガメント侯爵は何より自身が優先で、子どもなんて時間があるなら、勉強させていればいいと、毎日家庭教師を雇っていた。
「十二時間…」
「それが学園に入るまで続きます。学園に入ってからは学園の授業もありながらの、家での勉強と婚約者を支えるための勉強が始まります。いくら頭のいい方でも、非常に忙しいというのは分かりますか」
「…はい」
エマのいた東の修道院は外出も出来るほど自由で、暖かく非常に穏やかで、手紙のやり取り、家族の面会も可能であった。
北の修道院はルアンナ・アズラーがいずれ最期を迎える場所で、外出は監視付きで自由はなく、寒さは厳しいが、まともに過ごせば乗り切れる。手紙のやり取りは出来るが、面会はあまりに僻地であるためにまず来ない。
南の修道院は、男性のみとなっており、女性は入ることは出来ない。
そして、西の修道院は外出は一切許されず、手紙や面会も禁止。何が行われているかは、入った者だけが知ることが出来るが、出られるのは死んだ時だけで、伝えるものはこの世にいないため、詳しくは分からないと言われている。
「人から外れたようなことをする場所ではありませんから」
「嫌よ、東の修道院に戻ります、だから」
「逃げ出した者は同じ修道院には入れません」
「じゃあ、別の」
「いいえ、西の修道院に入って貰います。人の気持ちも、何も理解出来ない、あなたの顔を二度と見たくありません」
両親は修道院に入ってからも、せめて穏やかに過ごして欲しいと思っていた。だがもう娘はいないと思うことにした。
「ちょっと間違えただけじゃない。人を好きになってはいけないっていうの…」
「あなた、ここまでどうやって来たのですか」
「馬車に乗って…」
「…前のように騎士の恰好をしていたのですか?」
「…そうです」
心配したわけではないが、コルセットもなく、騎士のような服を着れば、おそらく男性に見えたことだろう。おかげで平気でここまで辿り着けたのか。
「ご両親が決めたことですので、従っていただきますよ」
「嫌よ!どうして私がこんな目に…」
「先程のセイル・サノーの言葉が理解出来なかったのでしょう?」
セイル・サノーはとても分かり易く説明していたが、響いていなかった。
「妃殿下を傷付けたという話ですか?私は傷付けてなどいません!」
「あなたがしたことは先程と同じように既婚者に、言い寄ったのですよ。逆だったらどうですか?あなたの夫に愛人にしてくれと言い寄る女性が現れたら、傷付きませんか?寛容に喜んで受け入れますか?」
「夫はいませんから…」
クリコットはエマにこれまでのように無自覚ではなく、罪の意識を持って、修道院に入って貰いたいと思っている。
「どう言えば、理解出来るのでしょうか。あなたには夫はおろか、婚約者もいたことがありませんし、仕事をして立場を持ったこともない、置き換えることは不可能ですしね。婚約者がいることは想像が出来ますか?」
「そのくらい出来ます」
エマはムッとした顔で言い放ち、クリコットは一つ一つ説明することにした。
「では、烏滸がましいですが、妃殿下の立場をお借りしましょう。六歳の時に優秀さを認められて、婚約者が出来ます。元々、幼い頃から親に八時間以上を勉強に充てられています。いいですか?」
「…はい」
「さらに婚約者を支えるために、八歳になると勉強が増やされます。毎日、平均十二時間。一日の半分が勉強です。平均ですから長い場合もあります。想像は出来ていますか?」
クリコットは殿下に頼まれて、王太子妃教育の内容と、ペルガメント侯爵家での勉強内容を、元家庭教師から取り寄せると、驚愕した。王太子妃教育でも詰め込まれているのに、ペルガメント侯爵は何より自身が優先で、子どもなんて時間があるなら、勉強させていればいいと、毎日家庭教師を雇っていた。
「十二時間…」
「それが学園に入るまで続きます。学園に入ってからは学園の授業もありながらの、家での勉強と婚約者を支えるための勉強が始まります。いくら頭のいい方でも、非常に忙しいというのは分かりますか」
「…はい」
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