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番外編1
エマ・ネイリー20
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「聞いた?エマさんいなくなったって」
「いなくなった?」
ソフィアはイーラの言葉に驚き、会わないようにしていたので、気付かなかった。
「書き置きがあったそうよ、結婚するから出て行くって。家族には知らせたそうだから、駆け落ちでもしたのかしらね?」
「駆け落ち…」
あの騎士が王都に行ったと知って、外出の際に渡されるお金を貯めて、向かったのではないかと思った。
「でも男に溺れるようには見えなかったわよね。さっき、お母様が来られて、お世話になりましたって、頭を下げてらしたわ」
「居場所は分かったの?」
「それが、まだ分からないみたい。邸には戻っていないそうだけど、駆け落ちなら戻ってはいないわよね…」
「イーラ、あのエマさんと一緒にいたっていう騎士の方が、王都に行かれたことは話した?」
「いいえ、エマさんとは私的な話はしたことはないわ。やっぱりあの騎士の方と?」
ソフィアは眉間の皺を深くしながら、考えて込んでしまっている。
「待って、話をしていたのを聞いたのかもしれないわね…」
セイルが王都に移動になったらしいという話は一時期、皆で昇進ねと話していたことがあった。エマも作業中などに聞いた可能性はある。
「気持ち悪いわね…」
「っえ、気持ち悪い?」
「ああ、何でもないわ」
思わず本音が漏れてしまい、貴族社会から離れた結果のように思えた。これまでは思っていても素知らぬ顔が出来ていたのに、気が緩んでいるようだ。
「何かあったの?」
「ここには戻って来ないってことよね?」
「ええ、もし見付かって、修道院に入るとしてもここではないでしょうね」
逃げたとなれば、特別な理由や犯罪ではない場合は、ここよりも厳しい修道院にしか入れないことになる。
それならば、話しても関係はないだろうと思い、口を開いた。
「…実は、エマさんが相手はあの騎士のはずなの」
「えっ、じゃあやっぱり王都に追いかけて行ったってこと?押し掛け女房?」
「それが、そうじゃないのよ…あの騎士とはそんな関係ではないの、本を見るって離れた外出の時があったじゃない?その時にお節介で、その騎士がいたから、聞いてみたのよ。そうしたら、エマさんが勝手に思っているだけっていうか。好意を持たれていると思い込んでいるというか…」
「嘘でしょ…それで気持ち悪いね、それは言っちゃうわ」
イーラもソフィアと同じで、夫と愛人に苦しめられた貴族令嬢である。だが、エマに関しては男性に馴れ馴れしい質にも見えず、色恋にうつつを抜かすようにも見えなかったことから、素直に驚いた。
「でも、不味いんじゃない?王都の騎士団に行ったってこと?」
「修道院では対処は出来ないだろうから、お兄様に手紙で知らせておくわ。エマさんのせいで、騎士団の方に迷惑を掛けたら申し訳ないもの」
東の騎士団は東の修道院も、温かく見守ってくれる有難い存在である。エマのせいで目の敵にされて、治安が悪くなっては困る。
「その方がいいわね。ご家族にもお伝えした方が良かったのかしら…でもどんな関係性か分からないものね」
「一度だけ家族は私を嫌っていると言っていたから、おそらくまともだと思うわ」
「ああ…」
「関わりたくないと思ったのが裏目に出てしまったわ…」
ソフィアは部屋に戻って、兄にエマとの間にあったことを文を書き、何かあったら手を貸してあげて欲しいと頼んだ。思い込みで、騎士が罰されてしまうようなことがあってはならない。
エマは一体どこにいるのか…。
数日後、兄から文が届き、慌てて開けて読むと、騎士団とネイリー家には連絡をしたこと、まだエマ・ネイリーは現れておらず、どこにいるか分からないそうだ。
東の修道院からは休みながらでも三日くらいでは辿り着けるはず。
本当にどこにいるのだろうか…生きているのだろうか。
「いなくなった?」
ソフィアはイーラの言葉に驚き、会わないようにしていたので、気付かなかった。
「書き置きがあったそうよ、結婚するから出て行くって。家族には知らせたそうだから、駆け落ちでもしたのかしらね?」
「駆け落ち…」
あの騎士が王都に行ったと知って、外出の際に渡されるお金を貯めて、向かったのではないかと思った。
「でも男に溺れるようには見えなかったわよね。さっき、お母様が来られて、お世話になりましたって、頭を下げてらしたわ」
「居場所は分かったの?」
「それが、まだ分からないみたい。邸には戻っていないそうだけど、駆け落ちなら戻ってはいないわよね…」
「イーラ、あのエマさんと一緒にいたっていう騎士の方が、王都に行かれたことは話した?」
「いいえ、エマさんとは私的な話はしたことはないわ。やっぱりあの騎士の方と?」
ソフィアは眉間の皺を深くしながら、考えて込んでしまっている。
「待って、話をしていたのを聞いたのかもしれないわね…」
セイルが王都に移動になったらしいという話は一時期、皆で昇進ねと話していたことがあった。エマも作業中などに聞いた可能性はある。
「気持ち悪いわね…」
「っえ、気持ち悪い?」
「ああ、何でもないわ」
思わず本音が漏れてしまい、貴族社会から離れた結果のように思えた。これまでは思っていても素知らぬ顔が出来ていたのに、気が緩んでいるようだ。
「何かあったの?」
「ここには戻って来ないってことよね?」
「ええ、もし見付かって、修道院に入るとしてもここではないでしょうね」
逃げたとなれば、特別な理由や犯罪ではない場合は、ここよりも厳しい修道院にしか入れないことになる。
それならば、話しても関係はないだろうと思い、口を開いた。
「…実は、エマさんが相手はあの騎士のはずなの」
「えっ、じゃあやっぱり王都に追いかけて行ったってこと?押し掛け女房?」
「それが、そうじゃないのよ…あの騎士とはそんな関係ではないの、本を見るって離れた外出の時があったじゃない?その時にお節介で、その騎士がいたから、聞いてみたのよ。そうしたら、エマさんが勝手に思っているだけっていうか。好意を持たれていると思い込んでいるというか…」
「嘘でしょ…それで気持ち悪いね、それは言っちゃうわ」
イーラもソフィアと同じで、夫と愛人に苦しめられた貴族令嬢である。だが、エマに関しては男性に馴れ馴れしい質にも見えず、色恋にうつつを抜かすようにも見えなかったことから、素直に驚いた。
「でも、不味いんじゃない?王都の騎士団に行ったってこと?」
「修道院では対処は出来ないだろうから、お兄様に手紙で知らせておくわ。エマさんのせいで、騎士団の方に迷惑を掛けたら申し訳ないもの」
東の騎士団は東の修道院も、温かく見守ってくれる有難い存在である。エマのせいで目の敵にされて、治安が悪くなっては困る。
「その方がいいわね。ご家族にもお伝えした方が良かったのかしら…でもどんな関係性か分からないものね」
「一度だけ家族は私を嫌っていると言っていたから、おそらくまともだと思うわ」
「ああ…」
「関わりたくないと思ったのが裏目に出てしまったわ…」
ソフィアは部屋に戻って、兄にエマとの間にあったことを文を書き、何かあったら手を貸してあげて欲しいと頼んだ。思い込みで、騎士が罰されてしまうようなことがあってはならない。
エマは一体どこにいるのか…。
数日後、兄から文が届き、慌てて開けて読むと、騎士団とネイリー家には連絡をしたこと、まだエマ・ネイリーは現れておらず、どこにいるか分からないそうだ。
東の修道院からは休みながらでも三日くらいでは辿り着けるはず。
本当にどこにいるのだろうか…生きているのだろうか。
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