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番外編1
エマ・ネイリー15
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「セイル?」
「トアスト!久しぶりだな」
セイルとトアストは同級生の友人で、騎士団の同期でもある。
「戻ったのか、こっちに」
「いや、研修でこちらに滞在しているんだ」
「そうだったのか、まあ研修に呼ばれるってことは、そろそろ王都勤務じゃないか」
「そうだといいんだがな」
王都の騎士団に研修に呼ばれるということは名誉なことである。優秀な者を呼び、いずれは責任ある立場で、地方勤務になるかもしれないが、それまでは王都勤務になる可能性は高い。
「今、どこにいるんだったっけ?」
「今は東騎士団だよ」
「ということは、東の修道院の近くか?」
「ああ、そうだが」
「近付くなよ、あそこに変なのが入れられているからな」
「変なの?だが、東の修道院は、傷付けられた者が多いはずだが?」
「まあ、そうだな。その思惑もあったのかもしれない。傷付けられた者の中に、無意識に何度も傷付けた者がいるとすれば?」
「悪意を持っていないから入れられているのか?」
「ああ、気持ちの悪い女が入れられている。俺が言っているんだから、相手が誰か分かるだろう?」
「まさか…」
トアスト・ミックは伯爵家の同じ次男だが、妃殿下の護衛騎士である。言動は陽気であるため、チャラチャラしているように見えるが、妃殿下に忠誠を誓い、聞きたくなくとも、色々王太子夫妻のことを知ることになってしまった人物。
あと二人の護衛騎士はマッカスとグレーナは、生真面目であるため、トアストが緩衝材となっている。
妃殿下に一度だけ闇討ちしてきましょうかと、三人で本気で言ったことがあるが、亡くなった後のことは分からないが、死ればそこで終わりになるんでしょう?と言われて、そうですねと皆で深く頷いた。
妃殿下が関わっているので、王太子殿下のことも漏らすことはないが、愚か者たちのことは口を噤む気はない。
妃殿下は尊敬するなという方が難しい存在だ。
言語のことは勿論だが、公務もしっかりこなされている。侍女や護衛騎士とは、あまりべったりな関係ではないのに、誕生日にはさらっとプレゼントを贈られて、グレーナは毎日、その髪留めで髪を結んでいる。翻訳だって、いくら賢くとも時間は掛かるのに、寝る間も惜しんでやっておられるのだ。
「そのまさかだよ、内容までは言えないけどな。関わるなよ、名前はエマ・ネイリー。絶対に戻って来れなくなる」
「えっ」
セイルは何度か会っていたので、エマ・ネイリーの名前は本人から自己紹介されて、聞いていた。
「知っているのか?」
「親しいわけじゃないが、話したことは何度かある」
偶然、会えば話し掛けて来るようになり、立ち話を何度かしたことがある。これからは不幸な目に遭って欲しくないと思うのは悪いことではなかったはずだ。
「嘘だろう…今日は十八時までなんだが、家に来ないか、そこで話そう。今日は泊ればいい」
「ああ…ありがとう」
「迎えに行く、待っていてくれ」
セイルは腕は自身と同等で、人望も自分よりもあるのに、男爵家ということで地方勤務になってしまった。本人は不満を持ってはいなかったが、王都勤務に憧れるのは騎士として当たり前だろう。だからこそ愚かな者に関わって欲しくないのに、会っていたとは…関わらせないようにしなくてはいけない。
確かに外出できる東の修道院となれば、可能性はある。なぜもっと厳しい修道院に送らなかったのかと思ったが、傷付けられた者の中に反対側の者が混ざっていたら、反省するのではないかというのが、護衛騎士たちの見解だった。
エマ・ネイリーは無自覚、無意識なのだ。だから人の振り見て我が振り直せということだろうと思った。
勤務が終わり、迎えに行くと、セイルは考え込んでいるような表情を浮かべていた。まさか、何かあるのか?惚れたということはないだろう?
「トアスト!久しぶりだな」
セイルとトアストは同級生の友人で、騎士団の同期でもある。
「戻ったのか、こっちに」
「いや、研修でこちらに滞在しているんだ」
「そうだったのか、まあ研修に呼ばれるってことは、そろそろ王都勤務じゃないか」
「そうだといいんだがな」
王都の騎士団に研修に呼ばれるということは名誉なことである。優秀な者を呼び、いずれは責任ある立場で、地方勤務になるかもしれないが、それまでは王都勤務になる可能性は高い。
「今、どこにいるんだったっけ?」
「今は東騎士団だよ」
「ということは、東の修道院の近くか?」
「ああ、そうだが」
「近付くなよ、あそこに変なのが入れられているからな」
「変なの?だが、東の修道院は、傷付けられた者が多いはずだが?」
「まあ、そうだな。その思惑もあったのかもしれない。傷付けられた者の中に、無意識に何度も傷付けた者がいるとすれば?」
「悪意を持っていないから入れられているのか?」
「ああ、気持ちの悪い女が入れられている。俺が言っているんだから、相手が誰か分かるだろう?」
「まさか…」
トアスト・ミックは伯爵家の同じ次男だが、妃殿下の護衛騎士である。言動は陽気であるため、チャラチャラしているように見えるが、妃殿下に忠誠を誓い、聞きたくなくとも、色々王太子夫妻のことを知ることになってしまった人物。
あと二人の護衛騎士はマッカスとグレーナは、生真面目であるため、トアストが緩衝材となっている。
妃殿下に一度だけ闇討ちしてきましょうかと、三人で本気で言ったことがあるが、亡くなった後のことは分からないが、死ればそこで終わりになるんでしょう?と言われて、そうですねと皆で深く頷いた。
妃殿下が関わっているので、王太子殿下のことも漏らすことはないが、愚か者たちのことは口を噤む気はない。
妃殿下は尊敬するなという方が難しい存在だ。
言語のことは勿論だが、公務もしっかりこなされている。侍女や護衛騎士とは、あまりべったりな関係ではないのに、誕生日にはさらっとプレゼントを贈られて、グレーナは毎日、その髪留めで髪を結んでいる。翻訳だって、いくら賢くとも時間は掛かるのに、寝る間も惜しんでやっておられるのだ。
「そのまさかだよ、内容までは言えないけどな。関わるなよ、名前はエマ・ネイリー。絶対に戻って来れなくなる」
「えっ」
セイルは何度か会っていたので、エマ・ネイリーの名前は本人から自己紹介されて、聞いていた。
「知っているのか?」
「親しいわけじゃないが、話したことは何度かある」
偶然、会えば話し掛けて来るようになり、立ち話を何度かしたことがある。これからは不幸な目に遭って欲しくないと思うのは悪いことではなかったはずだ。
「嘘だろう…今日は十八時までなんだが、家に来ないか、そこで話そう。今日は泊ればいい」
「ああ…ありがとう」
「迎えに行く、待っていてくれ」
セイルは腕は自身と同等で、人望も自分よりもあるのに、男爵家ということで地方勤務になってしまった。本人は不満を持ってはいなかったが、王都勤務に憧れるのは騎士として当たり前だろう。だからこそ愚かな者に関わって欲しくないのに、会っていたとは…関わらせないようにしなくてはいけない。
確かに外出できる東の修道院となれば、可能性はある。なぜもっと厳しい修道院に送らなかったのかと思ったが、傷付けられた者の中に反対側の者が混ざっていたら、反省するのではないかというのが、護衛騎士たちの見解だった。
エマ・ネイリーは無自覚、無意識なのだ。だから人の振り見て我が振り直せということだろうと思った。
勤務が終わり、迎えに行くと、セイルは考え込んでいるような表情を浮かべていた。まさか、何かあるのか?惚れたということはないだろう?
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