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番外編1

エマ・ネイリー2

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「はあ…近付けば、危険だと切り殺されても文句は言えませんよ。まあ、その時は死んでいるのですから、あなたは文句は言えませんね。我々も殺されても文句を言うつもりはありません」
「こ、殺されるわけないじゃないですか」

 私と殿下は強い絆で結ばれているのだから、殺されるなんてあり得ない。

「あなたは自分の妄想を王家に披露して、王家にとって危険人物なのですよ。護衛騎士であれば、近付いた時点で、切り殺して当然です。死にたければ一人で死んで欲しいものですけどね」
「どうしてそんな酷いことが言えるの!おかしいです」
「あなたがふざけた真似をするからでしょう!どうしてこんなに恥ずかしいことが出来るの!言ってみなさい!」

 怒りっぽい母だったが、今日は今までで一番怒っている様子で、こめかみには血管が浮き出ており、切れそうなほどだ。

「そんなに怒らなくてもいいじゃないですか…」
「あんな恥ずかしい目に遭わせておいて、怒らない親がいるわけないでしょう!」
「じゃあ、落ちたら出て行くわ!それでいいんでしょう!」
「分かりました、殿下に許可を得られたら、それでも構いません」
「殿下に許可?許可なら」
「愛妾だの言い出さないでよ、本当に気持ちが悪いんだから…」
「―っ!」

 どうしてよ、本来なら妃殿下から直々に正妃と求められていた私が、愛妾でいいと言っているのに。お母様はいつも私の話を聞く気がない、縁談だって低位貴族ばかりを勧めていて、馬鹿じゃないかと思った。

 まあ、高位貴族にも嫁ぐつもりもなかったけど、折角会いたいと言ってくれるのだから、会ってあげただけ。誰も褒めることも知らなかった低レベルで驚いたけど、向こうから断ってくれて清々した。爵位の関係で無理やり、嫁がされていたらと思うと、恐ろしいし、吐き気がする。

 でもだからこそ殿下に勝る男性はいないと実感することも出来た。

 妃殿下もあれだけ私に求めて来たのだから、この前もちゃんとフォローしてくれればいいのに、結婚してやっぱり惜しいと思ったのだろう。嫉妬して汚い女に成り下がったのだ。国母ともなろう方が本当に情けない。

 あの様子だと妃殿下は期待できないから、やはり殿下に私の存在をもう一度知らしめなくてはならない。

 『やっぱり君が必要だ』その言葉を待っていたのに、殿下にも私にも相応しい言葉。殿下も妃殿下の前では言えなかったのだろうと思ったのに、殿下も前よりも立場もある上に、時間が立ち過ぎてしまったのだろう。

 私たちは共に戦った同志で、お互いを唯一分かりあえる存在だと、思い出して貰わなくてはならない。

「出て行くなら、縁を切り、あんたが暴力を受けようが、殺されそうになろうが、死にそうになろうが、絶対に助けませんし、援助もしないけど、それでいいわね?」
「親なら子どもに責任を持つべきでしょう!」
「折角、縁談があったのに結婚も出来ず、勉強も身に付いておらず、殿下に謝罪をさせて、これ以上面倒を看なきゃいけないなら、あなたを殺して私も死ぬわ」
「何を言ってるですか?頭がおかしくなったの?」
「それほどに不快なの、耐えられそうにないの」
「こんなに酷い親だとは思いませんでした、最低よ。今すぐにでも出て行きたいけど、仕方がないので、検定を受けるまでここにいます」

 母に何を言っても無駄だ。親でも分かりあえない者と話しても仕方ない。それよりもこれから殿下にどうアピールするかを考えなくてはならない。

 まずは検定を受けて合格してから、クリコット様に連絡を取るのが最善だろう。クリコット様も立場上、私の味方になるわけにはいかないが、私が必要だからこそ、様子を伺いに会いに来ていたのだろう。

 きっと、あるべき場所に戻れるはず。
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